036 | 201910 | 特集:発酵の空間
Fermented Space
目次
1.ふるまいを先行させるクラブ、メンバーシップ―脱施設化する建築
/塚本由晴
2.喫茶ランドリー的超能動空間計画論/大西正紀
3.プレイスメイキングの現代的意義/園田聡
4.空き地の資源化と空地アーバニズム/遠藤新
特集前言
20世紀人口増加の時代は、空間の過密化を引き起こした。空間量をいかに増やすかということに多くの計画制度が追随し、都市の活動密度は向上した。しかし、21世紀に入り成熟時代を迎えた先進国の都市では人口減少を経験し、これまでに作り上げた空間が余剰化するという事態を招いている。そこでは、余った空間をいかに使うか、活動量を増やす事業や空き家や空き地といった問題が顕在してきた。
そうした状況の中で、「シェア」といったことがビジネスタームとしてだけでなく、空間のプログラムにも顕著に現れるようになってきた。しかし、建築家や計画家はこれまでにも多くの空間を多様な人々が共有する空間を生み出してきている。近年のプロジェクトに見られる違いとは一体何か?
本特集はそうした計画論の枠組みにおいて、「空間の発酵」というアナロジーからこれからの空間計画について議論したい。「発酵」とは、酵素の存在によって、有機化合物が分解され、人間にとって有益な分解物質を生み出す作用であるが、空間もまた当初想定、計画された一義的な用途を全うするだけではなく、そこに関わる人の積極的な働きによって、価値を向上させることがある。近年、「個人が自分で何かやりたくなる」ができる空間設計されたプロジェクトが建築スケール、都市スケールを問わず、注目が集まっている。
そこでは、活動がシェアされる共体験と能動性の発現が計画されていて、あたかも「発酵」を促すような空間計画であることに気がつく。本特集で取り上げる喫茶ランドリーのように、当初設定される用途(プログラム)であるランドリーはきっかけで、空間利用者が「参画できる空間」を感じさせ、それが実際にできることもポイントとなっている。また、地域の小さな生業や暮らしの活動のネットワークを再編集した新しい人々の活動の場が計画されていることがある。これを計画論として見たときに、「ビルディングタイプを超えた能動空間の強化」ととることもでき、機能と空間の対応関係がダイナミックになりつつあると見ることも可能であろうか。しかし、ここでのプロジェクトはいずれもかつての「多目的スペース」のようなものが称揚されているわけでもない。そこには、「空地」と「空き地」を見分けて、見立てるような空間に対する構想力がある。
本特集は、「発酵の空間」を巡る多岐にわたる論点が示された。本特集を通じて、そこで生きる人が資源として、人と人との関係がつくるポテンシャルが引き出される空間計画についての一助となることを期待したい。(中島伸)