[b] 境界

038|201912|特集:福島、風景と注釈

KT editorial board
建築討論
7 min readDec 2, 2019

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2019年現在の福島の風景で目立つのは「境界」だ。連続的に展開する多様な風景の場面で、突如さまざまな「境界」が差し挟まれる。東日本大震災がなければ生まれなかったであろう「境界」が多数ある。一方で、それ以前からあった「境界」もある。またむしろ「境界」をなくすような方向性の空間づくりにも出会った。ここでは新旧問わず、「境界」という観点から福島の風景を見ていくことにしよう。(編集部 M)

photo b_01|県道50号線(浪江三春線)から分岐して小出谷川沿いに北に延びる道路は、帰還困難区域として通行制限されている。今回の取材で最初に見た帰還困難区域のバリケード。何気ない風景が分断されている。|双葉郡葛尾村(大字葛尾付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_02|大字葛尾中央部の水田。2011年4月22日から2013年3月21日まで計画的避難区域、2013年3月22日からは避難指示解除準備区域であったが、2016年6月12日に解除された。順調に復興が進んでいる様子。電気柵が使用されているのは基本的にイノシシ対策。|双葉郡葛尾村(大字葛尾付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_03|耕作地の表土数十センチメートルが除染のため削り取られた様子。電信柱の部分の土壌のみが残っているため、シュールな風景が生まれているが、それによって除染前の光景と除染後の光景の境界線を見ることができる。|双葉郡葛尾村(大字落合大笹付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_04|葛尾村を南北に国道399号線が走っている。とくにこの近辺は「あぶくまロマンチック街道」と呼ばれ、非常に景色が美しい。写真は大字葛尾付近で国道399号線からやや逸れた場所。遠方には大量のフレコンバッグの山。中景と遠景の間の境界線。|双葉郡葛尾村(大字葛尾付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_05|国道399号線沿いに突然現れる通行止め。阿武隈の美しい山村風景が延びているが、その道に境界線が引かれる。この風景のなかに農地と集落が埋没している。|双葉郡浪江町(大字南津島大柳付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_06|国道114号線沿い。黒いフレコンバッグ群を、白い仮囲いが囲む。単なる境界線ではなく、風景のなかのかなりの領域が切り取られている例。|伊達郡川俣町(山木屋付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_07|県道31号線(浪江国見線)の北側にソーラーパネル。地面からはかなり浮かせられている。垂直に風景を分断する。しばらく使われていない土地を有効活用しようとするもの。|相馬郡飯舘村(小宮くつわ掛付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_08|県道62号線(原町二本松線)沿いに突如現れる巨大な白い建築物によって、風景が一変する。蕨平につくられた減容化施設だ。家型にしてはスケールが巨大すぎて異様だが、これらは放射性物質に汚染された可燃性廃棄物(農業系廃棄物や除染廃棄物等)を焼却して容積を減らす、いわゆる「減容化施設」に付随する仮設建築物。手前を流れるのは比曽川。|相馬郡飯舘村(蕨平付近)|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_09|県道62号線を西に向かうと、突然バリケードが現れる。これまでと異なり、支線ではなく主要な道路の途中なので、このバリケードには驚く。突然の境界。風景の終わり。右手のポストの上部には、監視カメラも設置されている。車の転回が大変。|相馬郡飯舘村|2019年10月20日 撮影(M)
photo b_10|福島の繁華街中心部、パセオ470沿いにある「こらんしょ横丁」。木フレームの境界が、横丁空間に人をいざなう。パセオ470は、1980年代末に完成したくねくねと左右に振れるストリートで、車両のスピードを落とし歩車共存を目指すボンエルフ型道路。パセオはスペイン語で散策の意。全長が470mであることからそう名付けられた。それ以前の名前はすずらん通り。|福島市置賜町|2018年10月20日 撮影(M)
photo b_11|小高城跡内にある相馬小高神社。鳥居は古くからある聖俗の境界門。階段を降りた先にもう一つの鳥居が見える。その先は小高の町。|南相馬市小高区小高|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_12|小高区復興拠点施設となる小高交流センター。復興する「まち」の核となる施設。設計は山本堀・URリンケージ設計共同体、2018年12月竣工。写真は石畳の「ゆめ広場」。マルシェやカフェに囲まれる。右手奥に延びるのは南北をつなぐ新しい「みち」である浮舟通り。|南相馬市小高区本町|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_13|小高交流センターの北側部分。天然芝の「小高はらっぱ」が見える。多世代交流施設、トレーニングエリア、交流スペース、子育てサロン、コワーキングスペースなど、豊富なプログラムが隣接する。「広場」や「はらっぱ」が、「境界」を打ち消していく。|南相馬市小高区本町|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_14|繰り返す尾根の間の沢の風景。カーブしながら緩やかに標高が下がっていく。このあたりは尾根の向こうにも同じ沢の地形が繰り返される。地形を境界づける沢のルート。|南相馬市小高区(上浦付近)|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_15|陸と海の境界。棚塩地区海岸の堤防は、震災前より1mかさ上げされ、法面の勾配は2割緩くされた。津波に対して強くなる。天端の幅は4m。左手には防災林が育てられている。右手に見えるのは波を弱める沖合施設。|双葉郡浪江町(大字棚塩付近)|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_16|国道6号線から見えるバリケード。この先の道路は福島第一原子力発電所につながる。つまり原発は遠目にも普通は見られない。この境界が解かれるのはいつになるだろうか。|双葉郡大熊町(大字夫沢長者原付近)|2019年10月21日 撮影(M)
photo b_17|国道6号線を南下し、富岡町へ。まだ閉鎖された敷地が目立つ。こうした風景に早く活気が戻ってきてほしい。復興はまだまだこれからだ。|双葉郡富岡町(大字本岡新夜ノ森付近)|2019年10月21日 撮影(M)

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。