デザイナーのリサーチとアウトプットの関係とは? ふしぎデザイン 秋山慶太さん インタビュー(後編)

siranon
KYO-SHITSU
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12 min readOct 11, 2018

過去のKYO-SHITSUの出演ゲストが「今、どのような活動をしているのか」を追い、発信するシリーズ。ゲストのバックグラウンドから今後の展望までさまざまな事柄を掘り下げます。今回お話を伺うのは、デザイン事務所『ふしぎデザイン』の屋号でプロダクトデザイナーとして活動されている秋山慶太さん。

秋山さんをお呼びしたKYO-SHITSU#9『モノづくり(とその流通)』では、ファッションデザイナー、デジタルファブリーケーションを推進する団体、電子工作と手芸を掛け合わせた制作活動をする方々……様々な観点で「モノづくり」に関わる方々をからお話を伺いました。イベント出演当時は大手家電メーカーのインハウスデザイナーとして勤務していた秋山さん。プライベートでは『電化美術』という電子と美術を組み合わせたプロダクトを提案するユニットにて、様々な作品を制作。その中で秋山さんには『電化美術』としての活動と、普段のプロダクトデザイナーとしての活動から眺めた、モノづくりについての考えをプレゼンテーションしていただきました。

旅を通して見えてきた次のステップ

ブログやinstagramでは、色々な場所へ旅をしているのをよく拝見します。

そうですね。国内でいえば、バイオ倫理にまつわるISLE PROJECTの仕事で、リサーチの一環として香川県の豊島に行きました。同活動をまとめたパンフレットを現在制作中で、ディレクションとして企画から関わっています。島でバイオのことを考えようというのがこのプロジェクトの特色なので、ビジュアルは島で撮ったほうがいいと考え豊島へ赴きました。撮影の同行者は大阪時代に出会ったカメラマンさんです。

ISLE PROJECTでの『ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future』(ふしぎデザインより)

この取材内容を含め、プロジェクトが包括されたパンフレットになる予定です 。CDジャケットくらいの大きさで表に取材で撮った写真、裏には解説文を入れる予定です。年ごとにこのパンフレットに内容を追加できる形態にして、イベントで配る配布資料や活動報告として活用できるように企画しています。

完成が楽しみです。旅が全部制作に結びついているんですね。
他に、気になる土地とかありますか?

今注目しているのがアジアの国々です。具体的には中国のクライアントとお仕事してみたいと考えています。

中国のプロダクトデザインの業界はすごく景気が良く、新しい製品がどんどん生まれています。その状況を目の当たりにしたくて今年の8月に香港へリサーチの旅をしてきました。Maker Faire Hong Kong 2018を見て、現地のデザイナーさんを訪問し、スイッチサイエンス 高須正和さん主催のSTEM教育ツアーへ参加するなど、色々してきました。とにかく向こうの雰囲気を知って、できれば向こうのつながりを作って、香港や深セン(香港の近くに位置する中国の工業都市)エリアのコミュニティ内で仕事をするのが次の目標の一つですね。

中国と東京の違いとは?

『Maker Faire Hong Kong』は香港理工大学のキャンパス内で開催されていて、『Make: Tokyo Meeting』(Maker Faire Tokyoの前身。東京工業大学で開催されていた)の頃を思い出しました。やはり内容はとても濃かったです。

Maker Faire Hong Kong 2018でのデジタルウォッチのモックアップ

Maker Faireと同じ大学で、デザイン学部の卒業制作展も行われていました。見て回ったのですが、こちらも充実した内容でしたね。学生や個人のアイデアでも近辺の工場にモックアップを依頼しやすい環境のようで、会場ではたくさんのハイクオリティなモックアップが見られました。僕が学生だった頃は、モックアップの外注は高コストで難しかったので驚きました。

工科大学だからこそかもしれませんが、スタイリングやグラフィックデザインなどの実践的なスキルがとても高く、学生たちは即戦力になりそうな印象です。現代の日本で行っているようなコンセプト重視のデザイン教育というより、「物があってこそ」のデザインを感じましたね。

大量生産・大量消費の時代の真っ只中にいるからこそのデザインなんですね。

それから香港で僕が強く感じたのは、お金に対する感覚の違いですね。日本ではお金に対して貪欲であることをちょっと避けるように感じますが、中国にいる方々はすごく積極的です。現地でお会いしたイタリア人デザイナーの方も「せっかくこの中国でデザインの仕事をするなら、金銭的にも明確に成功したい」とパワフルにおっしゃっていて。僕自身はそれを聞いて、とても爽やかに感じたんです。お金が欲しいから働く、ってすごく明快で良いな、と。

そしてスピード感も違うそうです。今、ものづくりにおいて「深センの一週間がシリコンバレーの一ヶ月」と言われるそうで、それなら日本は3ヶ月くらいになってしまうんじゃないかな、と……。例えばプロダクトデザインの仕事でも、見積もりを出してすぐ翌日には返事が来て、翌々日から仕事が始まり、2週間後に完成する。そんなすさまじいスピード感で進んでいくそうです。

日本でも京浜工業地帯などに代表されるように、大きな都市を囲むように工場地帯やベッドタウンがありますよね。ものづくりの頭脳になる都市部が円の中心で、そのすぐ外に生産機能を持つ工場があり、住むところがあるという構造です。その円の中で生産サイクルを素早く回せると製品ができるスピードが上がります。

2016年に深センに行き『ニコ技深セン観察会』に参加したときに、現地での製品開発を目の当たりにしました。都心で設計して、それを郊外の工場ですぐに試作して、また考えて、パーツが足りなくなったら電気街にすぐ行って……という環境です。スピードの感覚が圧倒的に違うんですよね。

今後、中国にてお仕事される可能性もありますね。

そうですね。香港でもプロダクトデザインのコミュニティはまだ出来上がっていないとお聞きしましたし、中国本土でも近い状況だと思うので、そこに入り込めたら面白そうですね。中国にも面白いクリエイターは沢山いるだろうし、そんな人たちと繋がって、お互いにプラスになるようなそれぞれの持ち味が活かせる仕事を一緒にできたらいいな、と思います。日本を拠点に、中国と行き来しながら仕事ができれば一番良いのですが。

「言葉」で伝えるデザインについて

秋山さんはブログやSNSでも積極的に発信されていますね。思考のプロセスや制作の過程を、常に文章や言葉に起こされている印象です。

発信することは好きですね。文章が書けるということも自分の強みだと思います。それに関連して、最近はビジュアルだけに頼らず、言葉をちゃんと使うことを意識しています。

サピエンス全史(河出書房新社/2016年)という本に、人間の中で広く流通している概念のうち特に強いものは、言葉、数字、お金ということが書かれていました。当たり前かもしれませんが、もっとも流通している概念のひとつが言葉だということにとても納得したんですよね。

デザインを説明するときにも、言葉を適切に用いることでより強く正確に伝えられると考えています。何も言わなくてもわかってもらえる人だったら、成果物を見せれば納得してもらえるのでラッキーです。けれどほとんどの場合、そうではないですよね。

例えばデザインを提案するときに、幾つかの案から選んでもらう必要がある。「シンプルで老若男女誰にでも合うデザインです」「シャープな印象でスポーツする方に好まれます」「ファッション性が高いので若い層に受けるデザインです」など、それぞれの特徴やポイントを、実物だけでなく言葉でも伝えることで、自分のアイディアのどこがどうおすすめなのか、明快に伝わりますよね。そうすることで先方の納得してもらえる度合いも違いますし、そこからの修正についても明確になる。当たり前のことですが、意識していないと疎かになってしまいます。

また今の環境では、自分の仕事の役割を自分で決めなければいけません。そこでも言葉は大事です。

例えば会社員だったら「新しい時計のデザインスケッチを描く」など分かりやすい形で仕事が来ますが、一方でフリーでは「この時計のデザインを考えたいんだけれど、どうすればいい?」と漠然とした相談が来るときもある。それに対して「そうですね、じゃあデザインを考えます」みたいな漠然とした受け方だとお互いが不幸になってしまうので、自分のできることをきちんと説明することが大事だなと思っています。

例えば「御社の考えを表すコンセプトを考えます」「コンセプトをもとにスケッチや3DCGでデザインイメージを作ることができます」「3DCADを使って、実際に生産するための外形データを作れます」「今どんな時計が売れているのかリサーチできます」と具体的に仕事内容が思い浮かぶような言葉を心がけています。

自分の考えをきちんと伝えることで相手に同じ道筋をたどってもらうことは、プレゼンテーションのときにはとても大事ですよね。

デザインを伝える事と文章を書く事はある意味同じ考え方なのかな、と思っています。それが得意なのはやはりデザイナーならではなのかもしれません。なので、自分が関わったことや考えたことはできるだけ文章に残していきたいです。

両親が本好きで家にいっぱい本があったので、小さい頃から図鑑や本を読む習慣がありました。書くことについては、それがかなり基礎体力になっているのかなと思います。

ふしぎデザインを通して、伝えたいこと

KYO-SHITSUでは、メディアアートやデザインを知ることから伝える方法を考えています。物をメディアとして捉えたとき、鑑賞者やユーザーに伝えたいことはどんなことでしょうか?

僕はメイカーのコミュニティがすごく好きなんです。モノづくりは難しくて専門知識がある人の特権、みたいな印象がありますが、チャレンジしたら楽しいし作れるということに沢山の人に気づいてもらい、物を作る人が増えたらいいな、と思っています。

「ものづくりの民主化」という言葉がありますが、もっと気楽にものづくりを楽しんで欲しいです。だから自分のカラーとしては、愛嬌があったり、ファミリアな親しみやすいデザインを意識していますね。ユーザー自身が考えられる余地がある、自分も関われる、そんな感覚が生まれることで、楽しくなる・よりよくなる、というものが自分のデザインの特徴かなと思います。

大学の夏期講座で講師としてそういったデザインにまつわる授業をやらせていただいく機会もありますし、そういった制作以外の活動も含めて「デザインは怖くないし、すごく楽しいよ」ということを伝えていけるものづくりをしていきたいなと考えています。

ありがとうございました!

本や旅、リサーチによって知見を得ることや、言葉にすることへの大切さ。そんなデザイナーとして知ることから制作に結びつける姿勢をお伺いしました。これらのリサーチから得た知見が、どのように今後のふしぎデザインのアウトプットに影響するのか、注目です。

撮影:岩佐莉花

秋山慶太
1988年生まれのプロダクトデザイナー。心を動かし共感を生むデザインやプロダクトを作り出すことを目標に、ものづくりに関わるデザインやプロトタイピングを行っている。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、象印マホービン㈱ デザイン室に勤務 調理家電/ 生活用品のデザインを担当。2017年に独立、デザイン事務所 ふしぎデザイン設立。
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KYO-SHITSU

メディアアートにまつわるプラットフォームKYO-SHITSUでイベントの運営と編集・執筆を手がける。デジタルデザインスタジオ RANAGRAM所属。プロジェクトのプランニングやアーカイブを行う。