イノベーションは、異なる価値をぶつけるのではなく、境界線を溶かすことから生まれる

# Borderless 1/4

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「Borderless。価値創造のための境界線の溶かし方」と題して行われたセッション(全4回)の1回目をお届けします。

登壇者情報

  • 長田 英知氏:Airbnb Japan 執行役員
  • 豊田 慧氏:WeWorkJapan Design Director
  • 月森 正憲氏:寺田倉庫 専務執行役員
  • 小池 弘代氏:渋谷区観光協会 事務局長
  • 光村 圭一郎氏:三井不動産 ベンチャー共創事業部統括 BASE Q運営責任者 /モデレーター

イノベーションは、異なる価値要素の新結合で生まれる

光村 圭一郎:三井不動産 ベンチャー共創事業部 統括 BASE Q運営責任者。1979年、東京都生まれ。2002年、新卒で講談社に入社し、週刊誌編集者として5年間勤務。2007年、三井不動産に転職し、当初はオフィスビル開発業務、続いてオフィスビルのプロパティマネジメント業務に従事。2012年より新規事業担当。2014年、東京・日本橋にオープンイノベーションコミュニティ「Clipニホンバシ」を立ち上げ。2015年、自ら志願してオープンイノベーションの実践部門であるベンチャー共創事業部の立ち上げに関わり異動。2018年5月、東京ミッドタウン日比谷に「BASE Q」をオープンさせ、大手企業のオープンイノベーションと新規事業開発を支援するプログラムを提供している。

光村圭一郎氏(以下、光村) ではみなさんよろしくお願いいたします。この時間はワークショップ形式のセッションで、タイトルは「Borderless。価値創造のための境界線の溶かし方」です。

みなさんと一緒に考えていきたいと思っております。今日登壇いただくのは、各界のまさに境界線を溶かすことに対して一定の実績と経験をお持ちの方々です。こういった方々とご一緒にワークショップを行っていきながら、何らかの知見を今日参加者のみなさまにお持ち帰りいただきたいと思っております。時間も限られていますので、ガンガン飛ばしていきましょう。

まず、このセッションをやるに当たっての「境界線」の認識共有をしたいと思っています。簡単に申し上げますが、ヨーゼフ・シュンペーターさんのことはみなさんご存じかと思います。

シュンペーターさんは「イノベーションはどうすれば起こるのかと言うと、異なる価値要素を新結合することによって生まれる」と言っています。

「異なる価値」は当然様々な背景や文化や歴史という違う分野のものなので、簡単にぶつけ合うだけだと新しく結合しないわけです。そういった違いを乗り越える、まさに今回のテーマである「境界線を溶かすこと」を経て、いわゆる結合が生まれるならば、どうやってやっていくのかはイノベーションの生み方とクロスする内容だと感じています。

そして今日登壇いただく方々は、そういったことを実践されている方です。このあと登壇者のみなさんには各々の経験を共有していただき、それらを踏まえつつ今日参加されているみなさんの問題意識も絡めながらワークショップを進めていきたい思っています。

進め方は、まず前にいる私を含めて5人の登壇者が日々やっていることの中で、境界線の溶かし方・課題の乗り越え方の共有をプレゼンテーションします。第2部では、みなさんのテーブルごとに分かれて、それぞれのテーマに従ったワークショップをやっていきます。

それでは長田さんから順番にプレゼンテーションを進めていきますので、よろしくお願いします。

Airbnb 長田氏の考える「暮らし」と「旅行」の境界線

長田 英知:Airbnb Japan 執行役員。東京大学法学部卒業。市議会議員を1期務めたのち、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、PwCアドバイザリー合同会社等で戦略コンサルタントとしてスマートシティ、インフラ輸出、MICE戦略など都市・地域を切り口とした新規事業戦略・サービスデザインに携わる。2016年9月にAirbnb Japan入社、同社のホームシェア事業およびアライアンス戦略の責任を担う。外部役職として2018年度グッドデザイン賞審査委員。

長田英知氏(以下、長田) Airbnbの長田です。どうぞよろしくお願いいたします。今Airbnb Japanで宿泊事業を統括しております。

Airbnbですが、宿泊と体験のサービスの現代形を提供している旅のデザインをしていくプラットフォームです。現在191ヶ国以上81,000都市に500万件以上の物件を提供しており、累計ゲスト数は10年間で4億人以上。ホストの10年間での累計収入が約4.2兆円で、現在サービスを広げています。

2016年のリオオリンピックでは、宿泊施設の公式パートナーになり、期間中で85,000人にAirbnbを利用していただきました。その期間中のホストの収入額で約3,000万ドル、経済効果も含めて約1億ドルほどと言われております。最近では「Airbnb ビジネスプログラム」という形で出張利用も増えております。現在グローバルで70万社以上の会社が出張で利用していただいています。また、ホテルの代わりにAirbnbで宿泊をされる方々も増えてきています。

Airbnbのビジョンは「どこにでも居場所がある世界を実現させる」です。

我々のサービスは、これまでの団体旅行のように決まった観光名所に行って決まった場所でご飯を食べて決まったところでお土産を買うようなものではなくて、「1人ひとりがどこにいても自分たちがそこに今暮らしているかのように旅をできる」というコンセプトです。実際に様々なローカルのエリアに行って、ホストと出会って、そこで自分の特別な体験をホストから提供いただくサービスを考えております。

そう考えたときに、ちょっとここで境界線の溶かし方という話題に移らせていただきますが、我々は「暮らすように旅をする」と表現しているのですが、一方で「旅するように暮らす」とも考えられます。今回私は、「生活・暮らす」と「旅行」との境界線を考えていきます。

スライドにちょっと線を引いて1泊・30泊・730泊と書いています。

1泊はいわゆるホテルや旅館・Airbnbもそうですが、旅行で1人で1泊される旅もありますよね。これが30泊になるとマンスリー。730泊=2年ですが、賃貸という概念です。ここは結局同一線上にあるわけで、考え方を変えると「2年で賃貸する」は「同じところに730泊している」という考え方もできます。

1泊・30泊・730泊のそれぞれにホテル・マンスリー・賃貸と書いてありますが、実際には30泊以上Airbnb上で宿泊されたり、海外で1年間Airbnbで暮らしたりという人も増えてきています。さらには賃貸をしないでAirbnb上で色々なところを転々としながら暮らしているという定住所を持たない方々も増えてきています。

そうした中で今回「旅すること」と「暮らすこと」はどのような違いが出てくるのか、1つ境界線を溶かしていくことで考えていきたいと思います。

もう1つの考え方が、場所としての境界線の溶かし方です。

Live・Work・Play、スライドには住むところ・働くところ・遊ぶところと書いてありますが、そうした場所に今まで時間の比重はWorkがわりと多くて、LiveとPlayは少なかったと思います。これが働き方改革でなるべく均等にしていこうという話も出てきています。そこから今まで住んでいたところで仕事をしたり、あるいは遊んでいたところで仕事をしたりといった形で、場所としての機能の境界線がだんだん溶けてきているわけです。

例えば隣に座っている(豊田さんの所属先である)WeWorkさんもそうですが、1つの企業の中でこうしたもの、例えばWorkが完結するのではなくて、他の企業のWorkや他の方々のPlayとのアクセスがすごく曖昧になってくる中で、場所として住む・遊ぶ・働くをする機能の境界が溶けてきています。

ここに移動や旅行の要素をどのように絡めていって、これからどのように暮らしていくのか、あるいは仕事をしていくのかをディスカッションしたいと思っております。以上です。よろしくお願いします。

光村 はい、ありがとうございます。

一枚のガラス壁がもたらす事業のコミュニケーション。WeWork Japan 豊田氏

豊田 慧:WeWorkJapan Design Director. Syracuse University 建築学部卒。2006年にNYの東京国際フォーラムを設計したRafaelVinolyArchitectsへ入社.2007年から2年間ロンドン支社で、BatterseaPowerStation再開発プロジェクトや20FenchurchStreetオフィスビルの設計に従事.2009年にNYへ戻り、2017年までNYの432ParkAvenue高層高級住宅の設計や、アジアでの事業の責任者を務める。2018年1月WeWorkにNewYorkにて入社し、企業相手のエンタープライズ事業に携わる。WeWorkを通じて“世界での日本を再確立する”という志の元、日本へ帰国。

光村 続いて豊田さんですね。

豊田慧氏(以下、豊田) WeWork Japanのデザインディレクター・豊田です。よろしくお願いします。

現在世界中でメンバーシップを持たれているお客さんが35万人以上います。

73都市25ヶ国以上で毎月色々な拠点がオープンしていて、日本では2017年の7月にソフトバンクさんとの合弁会社で進出してきました。2018年の終わりまでで、日本では11拠点オープンし、今後もどんどん展開していく予定です。

WeWorkの空間をご覧になられている人たちはご存じですが、どこの拠点でもアットホームなラウンジが目に入ります。

自分も入社したときに「こんなところで仕事できるのか?」と思ったのですが、意外と仕事をされている方たちがいて、ここで様々なコミュニケーションや簡単な打合せが行われています。

こういう空間がなぜ一般企業の中でなかなか見られないのか。それは、やはり会議室や仕事机をなるべくたくさん置きたいので、このようなゆとりのある空間を置くとぜいたくに見られることが多いためです。

我々としては働いている時間・自分の机にいる時間は1日を通して何時間あるのか・1週間を通してどれだけ座っているのかと考えたときに、「机にいる時間は限られているのではないか」「それでは机がある空間をなるべく密度を高めてなるべくムダのない空間で、効率化された床の中にラウンジなどの色々なバリエーションを持った働き方ができる空間を作ったらどうだろう」ということでラウンジを作り始めました。

それらの空間をコミュニティラウンジと呼んでいて、ソフトの面で色々なお客さんたちがコミュニケーションしやすいように、コミュニティマネージャーたちが常駐してコミュニティを作っていくサポートをしています。

一般的な執務空間の、廊下の幅の取り方は物理的・意図的にあまり緩やかな空間を取らずに、2人が歩いたらちょっと肩が触れるぐらいにすれ違わなければいけない意図的にちょっと気まずい環境を作っています。そういう気まずい環境も何度か期間を通すと、どこかで「挨拶しなければもっと気まずいよね」とコミュニケーションが発生する。

またガラス張りの部屋も、一般的な壁でもいい空間をあえてガラス張りにしているわけです。隣の部屋のまったく違う会社のコミュニケーション・接点のない人たちもガラスを通して、やはりどこかで目が合います。それもある程度の期間を経るとどこかで挨拶をし始めて、もう少し時間が経つと世間話をし始めたりします。

そのあとの段階になると、コミュニティラウンジでビールやお茶などの飲み物も提供しているので、飲み物片手に「そういえばどういうお仕事をされているのですか?」というコミュニケーションが発生し始めます。

そういう中からそれぞれの会社の事業の説明をして、新しい発想が生まれたら新しいビジネスチャンスが生まれる。

境界線、物理的な壁を取り外したらOKというわけではなく、ガラス張りであったり普通の壁を使ったりラウンジのようなオープンな空間だったり、色々な境界線の使い方を駆使して様々な形のコミュニケーションを達成していきたいと思っております。

以上です。

光村 はい、ありがとうございます。

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