ROIを口にするとものづくりは死ぬ!? Rhizomatiks齋藤精一の憤り

#BuildingTech 4/7

--

2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「デジタル時代のものづくり」と題して行われたセッション(全7回)の4回目をお届けします。

第1回から読む

登壇者情報

  • 秋吉 浩気氏:VUILD 代表取締役CEO
  • 藤村 祐爾氏:オートデスク Fusion 360 エヴァンジェリスト
  • 齋藤 精一氏:Rhizomatiks Creative Director / Technical Director
  • 野城 智也氏:東京大学生産技術研究所 教授 /モデレータ

He is gone―マーケティング脳は終焉を迎えた

野城 それでは私のほうで2枚、抽象的ですが今のお話の復習をした上で、第2部は齋藤さんに、これを確からしくするにはどうしたらいいかという話をして頂きます。

その前に今の3人のお話を考えれば。「デジタル時代のものづくり」は、実空間というか実物とサイバー空間という、デジタルで作られたものとの間が行ったり来たりしているとみることが出来ます。

それでそのための技術も今ご紹介があったように出てきていますし、その回転速度を速くするためのAIなどの武器が出てきているのです。

その可能性を今日は考えているわけですが、紛らわしい英語で3つあるのです。

データをデジタル化することと、今お話にあったものも入ると思いますが、デジタル化したデータを使って動かす技術と、新しい仕組みにつながっていくことは、概念とは別々なわけです。今日3人のスピーカーが最初のときに「こういう可能性もあるけどちょっと問題がある」系のちょっと奥歯にものが挟まった部分があったのは、実は、新しい仕組みにつながらないことをおっしゃっているのではないか、この辺りを残りの時間で皆さんと考えていきたいです。

そういったものの具体的な問題提起を、齋藤さんにして頂きます。

齋藤 わかりました。

僕もそうですが自己紹介は良い部分しか出ないので(笑)、せっかく人数もいい感じで(笑)ちょっとディープな話をできればなと思っています。

僕は結構いろいろなことにズレを感じているのですが、特に先ほど言っていた日本のものづくりがなぜもっとクラウド化できないのかとか、お2人もやられている、先生も含めてプラットフォームを作ろうと思っています。

そもそもこれはディスカッションできればですが、例えばディベロッパーガバメントと書いてあります。これは大企業も含めて、あの人たちはマーケティング脳じゃないですか。要はどうお金を稼ぐかです。

最近大きな人が捕まりましたが、マーケティング脳がたぶん終焉を迎えていくと思っています。

それでマーケティング・経済・プランニング・安全安心・コンテンツ運営・広報、要はお金的にROI、リターンオブインベストメントが見えるようなものと、皆さんがやっていることはデザインやアーキテクトのように、デザインやエモーションなどを構築しようとしているじゃないですか。

そこのギャップがすごいあるのです。うちのRhizomatiksでもそこを結ぼうとしていて、今開発ばかりやっています。

例えばどこのディベロッパーでも、東急さんでも森ビルでも三井不動産でも、どこでもそうですが、まず一番最初に経済合理性で建物であれば建物を建てる。建物のプランを考えてみる。建築家に頼む前に、150mの高さでオフィスを何層入れて、低層には商業施設を入れて……という与件はほとんど決まっている状態でデザイナーに(依頼が)来るのです。

デザイナーは、グッドデザイン(賞の副審査委員長)をやらせて頂いていてもそうですが、最後の厚み10cmから30cmの間ぐらいしかデザインができなくなっています。

要はもう全部できている状態で、ファサードを何色にする、ガラスを何色にするといったことしかできないというのが世の中です。

これは車もそうで、車もほとんど外形はプレス機や生産合理性でできていて、最後の本当薄っぺらいところをデザインするのはたぶんあると思っています。皆さんデータを扱えるビジネスをやっているじゃないですか。

AUTODESKさんもいろいろサービスがありますが、先ほど出てきたBIM・CIM・シティデータのオープンデータ、あとは先ほど秋吉さんに見せて頂いた生産するときのデータをひとりで使うのではなくて、それも奈良のどこかで出力すればいいじゃないかということができるのですが、それがなぜ集まらないか?

ものづくりを加速させる、共通プラットフォームが抱えるジレンマ

これは僕の理想論です。ゼネコンやディベロッパーなど、みんなが(データを)共有すればいいのにと思っています。

先ほどの渋谷地下街をスキャンするときも結構大ごとなんです。なぜ大ごとかというと、地権者が多すぎるのです。

東京メトロも土地を持っていて、それの運営管理をしているのは東急さんで、東急もJRも国土交通省も一部の土地を持っているんです。

僕がやった方法は、全員偉い人を集めて2時間歩くことで、全員指差し確認でOKを取っていったのです。BIM・CIMデータがあるのであれば、それを全部集めるべきじゃないですか。

例えば先ほどの(Fusion360で実践した)WHILL(の案件)もそうですが、まずいところは出す必要はないですが、こういうストラクチャーでやりました、これだとすごく剛性が出るような3Dプリンターで出ました、ということをどんどんオープンにしていくべきです。

そういう共通プラットフォームがあるべきなのです。

結局うちがビルのデータなどを全部管理して、そのデータをデータアナリストが解析した上でビルの中の効率化をどれだけ測れるかという案件をやっています。

ビルで言うと防災センターがある、エレベーターの事業者がある、セキュリティシステムがあるなどいろいろな情報が入っているじゃないですか。

というのを集めようとするのですが、結局陥ってしまうのは鶏卵現象で、一番上の「やるべき」ところからスタートすると、(共通プラットフォームは)新しい可能性や新事業性があるよね、となるのです。

ただデータを揃える・整えるのはめちゃめちゃ大変で、いつこれがペイするのかわからないのです。

そうすると「あれは事業性低くない?」となって予算がつかなくて進まない、諦める。でも「(新しい可能性や新事業性があるから)やるべき」というループです。

昨日もとあるディベロッパーさんのICTコンサルで僕は言っていたのですが、約2年ずっとループしているのです。

「これはまずいな」と思って、僕はどういう人がこの事業主体になるかが大事だと思っています。今日のようにデジタルファブリケーションがデータで作れることは汎用性が高いわけであります。

だからこそビジネスの話になるとあれですが、結構ここはすごく現実的にぶつかるじゃないですか。秋吉さんのところ、確か孫泰蔵さんの会社(編注:Mistletoe)から出資してもらっていますよね。

泰蔵さんのようなインベスターがいるとこれはもう別件になるんですよ。

秋吉 あとLIFULLさんもです。

齋藤 LIFULLさんも入っているのですね。そうだともう別件になって、ガツッと(本腰を)入れられると。

夢にちゃんとお金を払ってくれる人たちがいるのは全然別です。

ただ(夢にちゃんとお金を払ってくれる人がいない中で)始めようとすると、大きな会社に頼んでコンサル入れて、そうしたら約2年で約6億(の費用が)飛んでということがあるので。

ここら辺を考えるディスカッションができたらおもしろいと思います。

--

--