その都市開発に「余白」はあるか? 未来に街を託すという選択肢

#都市経営 8/8

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「これからの都市デザイン&都市経営」と題して行われたセッション(全8回)の8回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 山口 堪太郎 氏:東急急行電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業統括部
  • 小泉 秀樹 氏:渋谷未来デザイン 代表理事, 東京大学 教授
  • 石田 遼 氏:MyCity 代表取締役 CEO
  • 林 厚見 氏:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター /モデレータ

モダンを突き詰めないまま、ポストモダンになろうとしていないか

石田 若干方向性が違うことを一個言わせてください。ウェットなスキマのつくり方も個人的には好きは好きなんですが、今の日本において求められているのは実は逆の話かなと思ってます。日本人って放っておいてもスキマができると思ってて。人口へりますし。

僕はずっと、渋谷とか六本木みたいなイケてる都市の“イケてる度合い”が減ることが大きな問題だと思っていました。だから意識的に大都市の話をしています。

あとは林さんの問いかけで「テクノロジーは大都市の話しかしない」というのがあったんですが、新しいテクノロジーやビジネスモデルはかなり人口密度が高いところを志向する癖があって、これはもう否定できないです。

よくある話が自動運転は当然人口が減っていて、バスがない地域のほうが求められているんです。しかし、技術面やビジネスモデル面から大都市のほうが絶対に先に実現される。逆にそれがないとそのあと横に広まっていくことも起こり得ないわけです。

ということを考えておくと、今この業界のイノベーションを起こす人々が若干ウェットサイドを見過ぎちゃうのも僕は危険だと思っています。

近代的なプランをし過ぎることの反動とはいうものの、さっきのPDCAの話じゃないですけど、根源的には都市計画自体がちゃんとプランを突き詰めて仕切られていないのに、やすやすと放棄していいのと思っていて。モダンを突き詰めてないのにポストモダンにいっちゃった感じです。なので、横丁はできるだろうし、あるのはいいと思うんですけど、その話ばかりし過ぎるのも少し危険かなと感じています。

分かります。僕もほっこりまちづくりトーンが強すぎると、そっちはそっちで抵抗を持つくせに、でも本能はそっちにいっているみたいなところがあるので(笑)。

小泉 石田さんの言うことはもっともだと思うし、正しいと思うんですよ。

だけど僕がすごく心配しているのは、例えば大手町。丸の内はこの20年ぐらいで再開発してきました。渋谷も10年前から本格的にやって、あと10年ぐらいまだ続く感じですよね。そして、これから日本橋も池袋も新宿もやります。

僕は同じ時期に同じタイミングでそんなに全部再開発して本当にいいのかなと思っていて。やっぱり、もっと時間をかけてゆっくりと時代のペースに合わせた街をつくっていったほうが持続性がある。それこそ時代の要請がどんどん変わっていくと、みんな一気に模様替えして一気に駄目になるみたいなことは避けたいじゃないですか。それこそ郊外住宅地が一気に駄目になっているのと同じように。

だから本当はもう少しゆったりベースで、少し体力があるところは、時間をかけてむしろあえてつくらないスペースを残しておくほうが、顔になる場所をつくっていく意味があると思うんですよね。つまり、余白を残しておく。あえて、大手町を全部やらないでおいて。

渋谷もそうだと思うんですね。渋谷の再開発も、これからまだ考えられてるんだけど、あえてやらないで、30年後のやりたい人たちに任せたほうがもしかするといいかもしれないと思うんですが、どうですか。

同じタイミングで同じ方向に進むことへの違和感

石田 おっしゃる通りだなと思います。

僕オフィスが大手町なのでいろいろ見てるんですが、大手町が結構おもしろいのは、グリッドできてて、「こっちつくり直すとこっちが古くなって」みたいな。新陳代謝して常につくれる部分はあると思っていました。狙ってるのか分からないですけど。

速度の話もありますが、より危険なのは同じ方向性の開発をしてしまっていることだと思っています。要は答えは誰も知らないから走りながら考えるしかないので、走りながら自分の頭で考えているとそれぞれが違う方向に向かうはずなんですね。

日本橋、渋谷、六本木は違うかたちのトライ&エラーをするべきだとは思っているんですけど、新しいテクノロジーにみんな飛びついて同じほうに行っちゃうから。

小泉 そう。FinTechや新しいテクノロジーというとみんなシェアリングのスペースだとか、コワーキングだとか、みんな同じようなものもつくってるじゃないですか。同じようなのをつくっていて本当にいいのかなというのを考えませんか。どうですか。

石田 それはおっしゃる通りです。

都市経営にデザイン思考を

不動産会社が来期の利益、成長を追わなきゃいけなさすぎるんですよね。

アメリカでディベロッパーは上場しないじゃないですか。もういいかなと思ったら10年間南の島に行って、また戻ってくるのが欧米のディベロッパーなんで。それは成熟してるなと思うんですけど。

僕はTechはガンガンやったらいいと思っています。最適化だろうがなんだろうが、UberだろうがWeWorkだろうが、ガンガンやってたからこそ分かることがある。パクって失敗する人が出るのもある程度は仕方ない話です。

よくブルックリンと東京の比較をたまに言うんだけど、東京は湾岸の工場がなくなったとき、最大ボリュームの高層マンションを建てて「経済的にベストですね」ってことにする。

一方ブルックリンは、最初はウィリアムズバーグ(編注:ブルックリンにある人気の地区)がおしゃれにディベロップされて、いい感じになっていったあとに、次はイノベーションサイドをガッと寄せ集めた。まず沿岸のネイビー・ヤードとか倉庫とかを、自由とスキマの嵐みたいな低層のまま積める容積を一旦置いて、そこにわあっとやってきた人たちが次に成長したときに構える場所を探す。

ブルックリンが“損して得取る”をやっていて、次の勝ち馬と文化の融合がきちんとデザインされてるんですよね。いろんな意味で。東京はやっぱりそこが弱い。

デザイン思考がないマネジメントを都市経営的にしているのが上の世代の歴史からすればしょうがないのかもしれないけれども、それを変えるチャンスもあるだろう……というあたりで、実は時間がきてしまいましたので、言い残したことがあればお願いします。

小泉 ひと言だけ言わせていただくと、都市のデザインってこの20年間ディベロッパーが相当頑張ってやってきたんですよ。だからそこはすごく評価しなければいけないんだけれども、でももうちょっとオープンなイノベーションがあってもよかったな、と。あとは全体のマネジメントやデザインが弱い点ですね。

ディベロッパーがエリアを越えて、「渋谷と大手町と日本橋と六本木と虎ノ門はそれぞれ違う戦略で」という話が、お互いに握れる協調的な戦略づくりの場がもう少しあったほうがいいと思いました。

典型的なソリューションとしては、自治体の都市計画系の人たちの中で、2人ぐらいでいいからITベンチャーに20代前半に3年行かせて、戻ってくるだけで発想が全部変わると思うんですよね。ちゃんと戦略的思考ができるようになるので、それはいろいろなところに提案したいと思います。

山口 都市計画の専門家の中に1人違う人が入って話をすると、やっぱりすごく刺激になる話がありました。渋谷ではまさにそれを実践していて、みんなで考えるときに結局ディベロッパーの論理ではないところで議論して、結果的に都市として何ができるかみたいなのをはめつけていくほうがいいという話をしています。

渋谷は、さっきのスキマ、坂とストリートを一番大事にしながら、「じゃあ何をやらなきゃいけないんだ」とあとからつけていく方法が向いてると思っています。

ほかのディベロッパーさんと話してるのも、東京の中で戦うんじゃなくて、どちらかというとチーム東京としてどの街がどの個性を押していくかというのをやっていく中で、産業政策をしっかりかけあわせてやっていくべきということで。結構東京都さんも含めていろいろな話がし始められてる気がします

いろんな方向の話がごちゃ混ぜにはなりましたが、何か得るものがあったなら幸いです。どうもありがとうございました。

(終わり)

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