不動産×テクノロジー=イノベーション-カギは不動産以外のテクノロジー産業にあり

# GlobalTrend 5/6

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『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「アメリカVCから学ぶ、世界の不動産テックトレンド」と題して行われたセッション(全6回)の5回目をお届けします。

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登壇者情報

  • Brendan Wallace:Fifth Wall Co-Founder & Managing Partner
  • 斉藤 晴久:リノベる 執行役員
  • 杉谷 武広:リノベる 執行役員 /モデレータ

不動産会社とVCが手を組み、イノベーションが加速する2つの理由

杉谷 少し質問させてください。アメリカでは大手の不動産会社がFifth Wallという一つの法人と共同でやっている話でした。

日本の場合、CVCなどは出てきていますが、最近になってやっとデジタルガレージなどの大きな会社がまとまってやるコンソーシアム的なプログラムが出てきています。

本日の参加者も大企業とオープンイノベーションすることに興味を持つ方も多いです。

大手の会社同士がFifth Wallに対して横並びで入ってくる場合に、大企業同士の競争環境や大企業同士でイノベーションが加速した事例などはありますか?

Brendan 2つの方法があります。

1つは競争です。大手企業が新興テクノロジーにいかにアクセスできるかという、新しいテクノロジーのための競争です。そのためには、もっとも巨大なプラットフォーム(であるFifth Wall)と連携することがベストな方法であるとほとんどの企業が結論づけたのでしょう。

Fifth Wallモデルの強みがコンソーシアムにあり、私たちが非常に多くの不動産所有者や運営者、デベロッパーとのネットワークを構築してきたからです。ネットワーク内にいる全員がイノベーションの種を探して、彼らにアイデアを共有できるようにしています。

もう1つは、競争のもう一つの側面にあります。市場における自社の差別化を図るために、ここで入手した技術的利点をどう活用するかだと思います。

活用している企業では、新しいテクノロジーを速く導入しているでしょう。Fifth Wallは同じレベルのサービスとサポートを提供していますが、企業文化と組織構造により、新しいテクノロジーを採用するのに適している企業とそうでない企業に分かれます。

不動産テクノロジーは、不動産以外の巨大産業との親和性が高い

Brendan これらは、Fifth Wallが投資してきた企業ポートフォリオの一部で、かなり広範囲に投資していることがわかります。

(Opendoorのような)住居用不動産領域、(Blendのような)住宅ローン領域、(Hippoのような)住宅保険領域、(Industriousのような)コワーキング領域、(WiredScoreのような)建物のインターネット接続性評価システム領域、(Lyricのような)短期レンタル領域、(enticのような)エネルギー効率化領域など(様々な範囲に投資しています)。我々は、Built World technologyの追求においてかなり広い視野で任務を遂行します。

なぜなら、これらの企業のすべてが我々が投資している不動産会社に戦略的な価値を提供できると思っているからです。

その逆も然りです。我々の企業群が新興企業に戦略的価値と流通および契約を提供できると考えています。不動産テクノロジーの面白い点は、他の巨大産業のテクノロジーとの親和性が高いことです。

だから、もっとも注力しているコア部分は商業用や居住用、小売に関するテクノロジーであることは明らかです。しかし見てわかるように、輸送や建設、エネルギー、アクティビティ、材料に関するテクノロジーとも多くの接点があります。

そして、我々はさらに多くの接点を提供するし、不動産会社は彼らのコア事業同様に業界を革新させる新たな領域にますます目を向けています。我々は、集合住宅から戸建てまでの全ての居住用と、商業用に投資することを明らかにしています。それが我々のモデルの核心だと思います。

我々が挑戦しているのは、大手不動産会社と新興企業との接続性が高く、我々が思い描いているコラボレーションが促進される世界を実現させて、不動産を未だかつてないほど効率的にすることです。

素晴らしいビジネスチャンスであると同時に、社会にとって大きな変革をもたらすものと考えています。

杉谷 Brendanさん、どうもありがとうございます。

なぜFifth Wallがトランスポーテーションテクノロジーに投資するのか

杉谷 いくつか補足質問をさせてください。

スライドの中で、Fifth Wallのコアな部分と外の部分があり、特に外の部分の広がりが大きいというお話がありました。

コアの外とコアの部分が境界線上にある部分は事業として既にやっていらっしゃると思います。

真ん中以外の部分にあるコンストラクションテックやインフラストラクチャ―テック、トランスポーテーションなどは、Fifth Wallの投資の枠内に入っているのでしょうか。もしくは投資をしないとか?

Brendan 非常に良い質問ですね。それらのカテゴリーに投資するという認識です。理由は、大手不動産企業との連携が事業成果に大きく影響する可能性のあるテクノロジー企業を我々が探しているからです。

具体的な例で説明しますね。たとえばLime。Limeは自転車や電動バイク、スクーターのシェアリング企業です。トランスポーテーションテクノロジー領域に特定される企業と大手不動産会社とのコラボレーションを推進することにチャンスを見出したからです。

スクーターはマンションやオフィスビル、ショッピングモールへの流通を促進するだけでなく、国中の不動産に充電ハブと充電ステーションのネットワークを構築することもできます。なので、この領域はFifth Wallが投資すべきトランスポーテーションテクノロジーです。

杉谷 ありがとうございます。非常に興味深い話でした。

VCが投資している企業に大企業がさらに投資して、イノベーションを加速させる

杉谷 特に、Brendanさんのバックグラウンドを拝見すると、先ほどの南米のUberと言われるCabifyを作られ、その後、LyftというUberのアメリカでのライバル企業にも投資され、その後、その先にある先端のLimeにも投資され、そういったところもFifth Wallのコアとして(不動産関連の)大企業が担っていることを理解しました。

その中で、大企業との関係を見ると、会社によっては、意識が高いところと低いところがあるというお話でした。OpendoorやHippoに関しては、Lennarというアメリカのビルダーが出資しているという理解です。

前のセッションでAmazonの話があったそうですが、このLennar社は、Amazonのエクスペリメンタルセンターというショールームをやっているパートナーで、比較的意識の高い会社です。この会社はFifth Wall社にLPとして関わりつつも、Fifth Wall社の投資先がある程度事業が大きくなった段階で自分たちも投資しています。その中で、OpendoorとHippo(家の保険の会社)に投資されています。

こういったように、Fifth Wall社が投資している会社に、大企業が大きな投資をしていくことはかなり行われているのですか?

Brendan 「OpendoorとHippoの間にシナジー効果があるのだろうか?OpendoorとHippoの両方に投資することで、それぞれのビジネスが良くなり、より多くの市場シェアを獲得できるようになるだろうか?」という質問ですよね?答えはイエスだと思います。

なぜなら、アメリカ最大の住宅建設業者であるLennarを通じて、OpendoorとHippoの両社に非常に大きな流通チャネルを持つことが可能だと信じているからです。OpendoorとHippoの組み合わせは、それらがアメリカの消費者の住宅購入体験を向上させられるので、補完的であり相乗的でもあります。

杉谷 ありがとうございます。大企業がFifth Wall経由でイノベーションにアクセスし、その後、自分たちでシェアを増やす場合もあれば、シェアを増やした同士でイノベーションをさらに加速させられるわけですね。

Fifth Wall社のスマートホーム市場への見解

杉谷 次に、LivingTechから見たグローバル主要プレイヤーについて見ていきます。LivingTechはBuild World Techにかなり近い概念だと理解しています。そこのプレイヤーを見ていきます。

まず、世の中にプレイヤーがどのぐらいあるのかを見ると、会社の数はかなり多いです。カテゴリーを申し上げますと、物件探し、物件売却ファイナンス、不動産取引の効率化、不動産管理、ローン管理、とあります。この真ん中の下の部分のローンの部分が多い印象です。

To Cが、「住む」、住宅テックだとすると、こちらは、商業不動産サイドサイドのREtechです。同じようにかなり多くのプレイヤーが出てくることがわかります。

加えて、建設テックですが、こちらには、ビルを建設するところから、ビルのプロジェクトマネジメントの話、設計事務所のマネジメントの話、ビルの設計設備のオートメーションなど、いろいろなものが入っています。

また、LivingTech、暮らし、Build Worldを見ると、スマートホームにこれだけプレイヤーが出てきています。ちなみに、Fifth Wall社のポートフォリオを拝見していると、スマートホームに対するデバイス系の投資が無いように見受けられました。Fifth Wall社ではスマートホームについてどういうお考えをお持ちか教えていただけますか?

Brendan アメリカの戸建市場や新築住宅市場の規模を考えれば、非常に魅力的だと考えています。

しかし、私たちは(スマートホーム市場が)それらと同じ規模になるとはまだ想像できていません。

その理由は、アメリカの主要住宅メーカーと重要なパートナーシップを構築するには至っていないからです。まだ住宅の特定カテゴリーで勝ち切ると期待できるスマートホームの会社がいないのです。

もちろん、スマートホーム経済圏に関わる新しいテクノロジーやハードウェアがD2Cで顧客に直接販売される革新的な企業をたくさん見ています。これは投資にとって非常に興味深いチャンスだと考えることもできます。

しかし、標準化されたスマートホームテクノロジーの導入を奨励する大手住宅建設業者や仲介業者を我々はほとんど見ません。その標準化されたテクノロジーが市場に浸透すればネットワーク効果が働き、十分なマーケットシェアを占めることができるはずなのにです。

そのため、このカテゴリには非常にワクワクしていますが、まだ投資していません。

杉谷 ありがとうございます。

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