とはいえ日本ってイケてるよね……?「ゆでガエル」から目覚めなければ、POST2020の日本は死ぬ

#POST2020 1/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「POST2020―2020年以降の社会問題とどう向き合うか」と題して行われたセッション(全6回)の1回目をお届けします。

登壇者情報

  • 松本 勝氏:VISITS Technologies CEO/Founder
  • Lin Li:DiDiモビリティジャパン 取締役副社長, Didi Chuxing 北アジア担当ジェネラルマネージャー
  • 梅澤 高明氏:A.T.カーニー 日本法人会長
  • 坂根 工博氏:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)/モデレータ

POST2020の日本を占う、90分

坂根工博氏(以下、坂根) 今日モデレーターを務めます、坂根です。

坂根 工博:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)。1986年建設省入省。建設省及び国土交通省で都市・住宅・土地政策、建設産業政策、環境政策などに携わる。この間、一橋大学大学院国際企業戦略研究科非常勤講師、ケンブリッジ大学客員研究員を務める。2013年国土交通省住宅政策課長。「住生活基本計画」の策定や既存住宅市場の活性化を担当。2016年厚生労働省雇用開発部長。「働き方改革」の実現に向け、高齢者・障害者雇用の促進、働きやすく生産性の高い組織づくりに取り組む企業への支援に携わる。2018年国土交通省大臣官房審議官(総合政策局担当)。2020年東京オリンピック・パラリンピック、国土交通省生産性革命プロジェクト、官民連携(PPP/PFI)など国土交通省における横断的な政策の企画立案を担当。また、キャリアコンサルタントとして、自律的なキャリア形成を目指す若者を支援するボランティア活動を行っている。

今日のテーマはPOST2020ということで、「2020年以降の社会問題とどう向き合うか」。ずいぶん大きなテーマだと思います。

日本はこれから本格的な人口減少、少子高齢化の時代を迎えます。歴史を振り返ってみると、明治時代、幕末から明治にかけての日本の人口がどれぐらいだと、皆さんは思われます? 約3,000万人だったんですね。第2時世界大戦後に7,000万人に増えて、2008年には1億2,000万人を突破した。これが日本の人口の頂点です。

これからどんどん人口が減っていくこととなっていまして、例えば2025年には団塊の世代が75歳を超えて、後期高齢者になります。国民の3人に1人が高齢者という、本格的な高齢化社会を迎えます。さらに、5人に1人が75歳以上という状況です。

皆さん若い人が多いですけど、自分の人生に当てはめて考えていただければいいのかなと思っています。日本は人類が経験したことのない高齢化社会を迎えることになります。

その一方で、今後、IoTとかビッグデータとか、AIとかロボットとか、そういった技術革新がどんどん進むと考えられます。それによって、新しい産業、新しい製品、新しいサービスが生まれ、私たちの生活がずいぶん変わっていくことも予想されるわけです。

そうした中で、人々の暮らし方とか住まい方、そして働き方、これは先ほどのセッションでもありましたけれども、働き方にも大きな変化が出てくるのではないかと今思っています。

その意味で、2020年から2025年の5年間は、日本の大きな転機を迎える5年間になるのではと考えています。そうした問題意識の中で、それぞれ各界でご活躍されています3名にお集まりいただきまして、議論を進めていきたいと思っています。

今日のテーマですが、大きく3つあろうかと思います。

1つ目は、「2020年以降の国民社会の本質的な課題は何か」。

2つ目は、「日本が豊かな社会を築いていくために必要な物は何か」。

そして3つ目ですけれど、「新しい社会を支えるテクノロジーや社会システムは何か」。

こういった3つのテーマを考えていければと思っています。これからの進め方ですけれども、1のテーマについて、お一方ずつこと前にキーワードを出してもらっていますので、キーワードを紹介しながら、ご自身のお仕事や考え方を自由に述べていただきたいと思います。

2と3については、キーワードは出していただいているんですが、よりフリーなディスカッションができればいいなと思っていますので、よろしくお願いします。

最後の部分では、皆さんからのご質問に対してこのお三方から答えをいただく形で進めていきたいと思っています。よろしくお願いします。

どうぞ皆さん、気軽に聞いてください。よろしくお願いします。

では、スライドをお願いします。

VISITS松本氏が指摘する、日本の「ゆでガエル」問題

一つ目のテーマ「2020年の日本の本質的な課題は何か」。まずお一方目、松本さんのキーワードです。お願いします。

「ゆでガエル」

松本勝氏(以下、松本) はい。

坂根 これはどういったことでしょうか?

松本 はい。VISITS Technologiesの松本と申します。よろしくお願いいたします。ちょっと後ほど、簡単に自己紹介をさせていただきます。

松本 勝:VISITS Technologies CEO/Founder. 東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマンサックス入社。株式トレーダー、金利デリバティブトレーダー(ヴァイスプレジデント)を経て、2010年、人工知能を用いた投資ファンドを設立。2014年にはVISITS Technologiesを設立し、人のアイデア創造力、目利き力、アイデアの価値を独自の合意形成アルゴリズムにより定量化する特許技術「ideagram」を開発。シリコンバレーと東京を拠点に、世界中の社会課題とそのソリューションの可視化を、独自のマイニング技術とブロックチェーンによりリアルタイムに実現する研究を行っている。元文部科学省委員、早稲田大学講師。2010年、アームレスリング全日本選手権優勝。

この「ゆでガエル」。直前の打ち合わせが無いまま、皆さんが出されたスライドを見て、私だけ結構カジュアルなことを書いてしまっているなと思って。

私自身が思っている日本社会の課題というところ。これは2020年以降というより、今から20年以上も前から始まっていることではないかと思います。

「ゆでガエル」現象ってご存知ですよね?カエルって、熱湯の中に入れるとすぐに熱いと分かるので死なないんですね。なんですけど、水の中にカエルを入れてゆっくり蒸していくと、変化がゆっくりなために自分たちがどういう環境に置かれているかに気がつかないまま、気がついたら死んでいる、というのが「ゆでガエル」現象です。

私自身、イノベーションテックをやっているスタートアップという仕事柄、海外に行くことがすごく多くて、私が20年前に新卒で入った時に、ニューヨーク研修に行ったりとか、学生の時に海外に行ったら、日本ってすごく裕福だとか、貨幣が強くて良かったなとか感じました。

今アメリカに行ってホテルに泊まるとめちゃくちゃ高くて、日本ってすごく貧乏な国だなと思います。外食もできない、チップまで払ったら結構ヒヤヒヤするみたいな気になっています。

日本は先進国だと、結構みんな思って育って来て、ある時代には合っていたと思うんですけれど、今スナップショットとかで日本の立ち位置を見ると、徐々に世界の中でのプレゼンスが落ちて来ている。記事を見ると、中国がすごいとか。それは昔から言われますし、中国が伸びて来ているとか言うんですけれども。もちろん、中国が伸びているだけではなくて、日本が他の先進国の中でもすごく落ちて来ている。

その原因については後ほどお話しさせていただきます。

自分たちが相対的に落ちて来ていて、死に向かっていることの認識が、ある人にはある。経済界の人たちにはある。日々テレビとかを見ると、いい意味でその危機感がなく、平和な日本があり、気が付いたら貧しい国になっているところがあって、その「ゆでガエル」状態を、私は危惧しています。

「賛成する人がほとんどいない“大切な真実”」を、データとテクノロジーで抽出

詳細は後ほどとして、簡単に自己紹介をさせていただきます。

私の自己紹介をさせていただくと、新卒でゴールドマンサックスという証券会社に入りまして、AIでトレードを自動化するプロジェクトとしてやっておりました。AIと言われるよりもずっと昔の時代からやっておりました。

2008年リーマンショックの時に、私たちが作った仕組みの中でも損失が出ました。今はAIがブームになっていますけど、どちらかと言うとAIの限界みたいなものを、リーマンショックで私は感じました。

AIは、教師データというモデルに対して、そのための無駄は何かを可視化して、効率化するのが得意です。いわゆる教師データがないビジネスの世界で、いわゆるイノベーションには教師データがないわけです。

そうすると途端に、ロールモデルがないと何をしていいか分からない。トレーディングシステムには、リーマンショックみたいなものには教師データがなかったので、対応ができなくて損失を出したんですね。

ですが、世の中のほとんどのものって、データがないんですよ。その中で日本の教育を改めて考えたときに、「こういう問題を解きなさい」「これはこうやって解いたらいい」という練習問題を何千回も何万回もやって、当日再現できる人がいい大学に入れちゃう。

社会の中で、例えば日本が発展途上国だった時には西洋を追いかけて「こうやればいい」と分かっている時にはすごく得意なんです。ところが、同じ先進国になった時に「何か新しいことをしなさい」という時には、そもそもそれができない。イノベーションとかクリエイティブに対して、日本の社会システムが全然合っていないと。それでこのベンチャーを立ち上げています。

イノベーションがどのような組み合わせで起こるのかということを、確率分布で数式化しています。最近は、スタートアップとして海外のダボスに行かせていただいたり、Googleさんと提携を発表したり、そういったところでグローバル展開をしております。

これは大したことないんですけど、「どんな会社ですか?」というと、いわゆるデータサイエンティストが中心となっております。AIだけに限らず、様々なアルゴリズムをスクラッチで書いています。

あとは、イノベーションのアイディアその物をそのまま渡してもしょうがないので、企業さんのサポートをするという課題がありまして、グローバルなコンサルティングファームで活躍していた人間が多いと。

私のところのビジネスを一言でいうと、この中でピーター・ティール(編注:著名米国VCで『 ZERO to ONE 』が有名)って知っていらっしゃる方いらっしゃいますか? 皆さん、知っていらっしゃいますね。

彼が言う「多くの人が賛成しない真実を、君は答えられるか?」ということを、起業家に言っています。Facebookとかの最初の投資家は、こういうものなんではないかと。

定性的だったのですが、それが何なのかを数式で、数学で探していくアルゴリズムを作っております。「そんなことができるのか?」という話ですが、詳細をお話しすると何時間もかかってしまうので。

イメージとしては2ステップあります。

目利きがある人は誰なのかを、人の確率分布を計算します。その人の行動や発言から、どのぐらい信頼が置けるのか(というデータ)を取ってきます。

信頼できる人たちが何を言っているのかというところの共通項をベクトル化して探して、「最も目利きを持っている可能性が高い人が何を言っているか」の重心を探すことによって、今ある全てのデータの中で、未来の最も起こり得る未来を予測するという特許を持っております。

イメージとしては、例えばモーターショーに行くと、何となくコンセプトが斬新で「何だこの車は!斬新すぎるよ」と思われるかもしれません。でも10年後になると、今の車がすごく古く見えてくる。

目利きある人が見ている未来とは何なのか。別に車だけではなくて、様々な分野についてそれを可視化するという技術を持っております。

少し長くなってしまいましたが、こんなことをやっております。

坂根 はい、ありがとうございます。

日本社会とか日本人って「ゆでガエル」状態にあるということなんですけど、今、松本さんから見て、日本人っていい具合に茹だっていますか?

松本 そうですね。

私は仕事柄、24時間のうち一番長く話しているのはお客さんです。お客さんで、お金をいただいているので悪くは言えないというのはあるんですけど、主に大企業さんのイノベーション室だと、イノベーションを起こして数を打たないといけないのに、「検討します」と言ってから半年くらい、1年くらい経って「あの件ですけど」と。「あの件ってどの件でしょうか?」と。いい感じの「ゆでガエル」的速度で動かれているのが課題だと思っています。

坂根 私の組織に対する厳しい言葉みたいですね。

松本 あ、そうなんですか?

坂根 ええ。なんか。

松本 まあ、いろんな組織がありますけどね。またそれはそれとして、いろんなお話を伺えれば。

坂根 ぜひ。

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