POST2020の日本あるいは世界に、求められる人材とは?

#POST2020 6/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「POST2020―2020年以降の社会問題とどう向き合うか」と題して行われたセッション(全6回)の6回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 松本 勝氏:VISITS Technologies CEO/Founder
  • Lin Li:DiDiモビリティジャパン 取締役副社長, Didi Chuxing 北アジア担当ジェネラルマネージャー
  • 梅澤 高明氏:A.T.カーニー 日本法人会長
  • 坂根 工博氏:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)/モデレータ

人生100年時代では、“変われる力”が重要に

坂根 はい、ありがとうございます。時間もだんだん迫ってきました。そろそろ話をまとめていきたいなと思います。

お三方のお話を聞いていますと、これまでもずいぶん言われてきたことかもしれませんが、シェアをすることとか、クリエイティビティであるとか、デザイン思考であるとか、あるいは「デザイン経営」という言葉もありますがそういったものが大事だいうことが分かります。そして、もっと共感をする力が大事だというお話もありました。

さらにキーワードを並べますと、新しい価値の組み合わせ

や「脱・平均」というお話も出ました。そういったことを通底する考え方として、やっぱり最後は人が大事だというところがあるように思えます。

これからは皆さんご存知の通り、『人生100年時代』です。これは2016年に日本で『LIFE SHIFT』という本が出ましたリンダ・グラットンさんが話していることですが、「人生100年時代」を生きるにあたっては、3つの資産が必要だと彼女は言っています。

一つは「生産性資産」。人が仕事で生産性を高めるスキル。知識とか仲間とか、評判といったものです。これはある意味、常識的な話ではないかと思います。

2つ目が「活力資産」と呼ばれるもの。肉体的、精神的な健康と幸福といったものと。幸福が大事だというのは、おそらく皆さんも共感していただけるのではないかと思います。バランスの取れた生活であるとか、きちんと休みを取れるとか。そういったことも、ちょっと手前味噌になりますが、私たち政府で「働き方改革」として進めているところです。

最後は、これが一番重要なのではないかと思うのですが、「変身資産」。100年を生きる中で、人というのはどんどん変わっていく。変わっていく自分にどう向き合うか。あるいは世の中の流れにどう対応するか。繰り返し変化できる力が大事だと彼女は言っているわけです。

100年生きる中では、これまで以上に大きな変化を経験します。また、自分自身が自ら変わろうとしないとといけない。そうした中で、例えば自分に対する知識・理解であるとか、多様な人とのネットワークであるとか、新たな経験に対する開かれた態度であるとか、そういったものが必要なのではないかと彼女は言っています。

これらは、今日のお話に共通する点があるのではないかと思っています。それを支えるのがテクノロジーであり、そうした人々の集積がこれからの都市や地域に求められるものであろうと考えています。

そういった中で、いま人生100年時代に必要となる資産の話をしましたけれども、最後にお3方から、「今後どういった人が日本、あるいは世界に必要なのか。これからの社会に求められるのか?」ということを、一言ずつお話しいただけますでしょうか?

自分の生きる目的を、自ら見つけることができるか?

松本 じゃあ、私のほうから一言。基本的に私が思っているのは、せっかく生きているのだから、楽しく生きて欲しいというのがあります。

私が伝えたかったことは、起業家はめちゃくちゃ楽しいです。お金がなくなって死にそうになることもありますけど、それでもなかなか企業には戻らないです。なぜかと言うと、自分が何かを世の中に生み出して、それを誰かが喜んでくれていると感じられる。自分のアイデンティティとか存在価値を感じられる、フィードバックをもらえる。その価値がお金よりも遥かに高いというのが実はあります。

でも、それはやった人にしか分からない。やるのが怖い? でも実は全然怖くなくて。やりたいことが分からない人たちが多い中で、自分で自分の生きる目的を見つける力。それは先ほどの共感であったりとか、誰かの課題を見つけた時に解いてあげようというミッション感であったりとか。そういったところで自分のモチベーションが湧いてくる。人に共感し、目的を持って、そしてその0〜1であったりとか人を幸せにするための課題解決力を身につけて、そしてそれのフィードバックを得られる。このサイクルを人生の中でいかに長い時間をもってできるか。

そして最後に、世の中に何か、知見として人類に残したと思って死んでいけるか、みたいなところが私は幸せなんじゃないかと思っています。そういう生き方の人が増えてくれたら、それが唯一の解とは言いませんけれど、今よりはみんなの目が輝いてくれるんじゃないかと。そういった人を増やしたいと思っています。

オープンマインドであり続けることができるか?

Lin 素晴らしいですね。完全に同意します。起業家は間違いなく非常に重要です。もう1つ追加するとすれば、オープンマインドであることも重要だと思います。それが意味する理由は2つあります。

一つ目は、もし新しい何かを創造したりワクワクするようなことをしようと思った時というのは、今までに一度もやったことがないことをするということです。その挑戦の過程には多くの不確実性が存在します。参考にすべき標準的あるいは確立された順序はほとんどありません。不確実な事象をうまく対処できる必要があり、その最善策こそがオープンマインドであり続けることです。これが一つ目の点です。

もう1つの点は、私たちが話しているように、テクノロジーの世界では物事が急速に変化しています。この世界はますますグローバルなコミュニティになってきています。現在の(米中の)貿易摩擦問題が悪い方向にならないことを願っていますが、世界中の取引がますますオープンになり、人々がますますつながりを深めると思っています。人々はオープンマインドをもち、アイデアを共有し、お互いから学ぶ必要があります。以上が、オープンマインドであることが重要である理由です。

自分自身の好奇心と美意識を、貫き通すことができるか?

梅澤 「好奇心」と「美意識」。好奇心を持ち続けている人は、いくらでも自分の領域を革新していくし、新しい仕事に飛び込んでいくし、起業もする。1番の根っこかなと思います。

美意識については、先ほど「他人が設定したKPIで戦うのはやめよう」と言いました。要は、自分の会社が何を実現したくて、そのためにどう戦うかを自分で決めて、だからどういうふうにその成果を測るのか、というふうに自分で物差しを持てる人しか世の中は変えられないと思うんです。

GAFA(編注:米国のイノベーションを牽引する企業群のこと。Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をとっている)にしても、世の中を変えてきた会社って、皆ある意味で極めて唯我独尊の物差しを持っていて、法律に触れるギリギリ、あるいはグレーゾーンでいろんなチャレンジをしています。

彼らの企業活動がグレーゾーンであっても、法律が古いのだから変わるべきは法律のほうだと胸を張っている。「俺たちのやっていることは世の中を良くしている」とやっているわけです。これはまさに、企業が持っている美意識です。

日本企業も日本人も、もっと自分の物差しを持つ。それが実は、さっき言った「脱・平均」にも繋がります。そういうふうに動いて欲しいです。

坂根 ありがとうございました。私も政府で仕事をしていますけれども、今日のお話を伺っていて、政府もあまり細かな法律や計画を作り過ぎないというか、あまりこと細かに事前のチェックをしすぎないで、もっと人々の自主性や創意工夫を誘発するような仕組みを作っていったた方がいいのではないかと思いました。今日の4人の出会いもそうですけど、違う個性を持った人々の偶発的な出会いやネットワーキングをもっともっと大事にしたい。その中でいろんな新しいアイディアや学びや遊びが生み出されるような社会を作っていければと思っております。

それでは、松本さん、Linさん、梅澤さん、そして今日お集まりの皆さん、ありがとうござました。これで終わります。

(終わり)

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