テクノロジーにできないことはない。しかし、そもそも人は何を欲しているのか? Premium Analogからの問いかけ

#PremiumAnalog 6/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「 テクノロジー時代における『Premium Analog』な体験デザイン」と題して行われたセッション(全6回)の6回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 内山 博文氏:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役
  • 松田 正臣氏:アルティコ 代表取締役 PERFECT DAY 編集長
  • 中村 真広氏:ツクルバ 代表取締役 CCO エグゼクティブ・プロデューサー / モデレータ

テクノロジーでできること/できないことの境界は?

中村 ほかにいらっしゃいますか?はい、どうぞ。

質問者2 株式会社LIFULLの齊藤と申します。普段は「LIFULL HOME’S」という、住みたい家を見つけられる物件検索サイトを担当しています。

オンラインでできることとできないことがあると思うんですけど、どこまでWEBやオンラインを使って価値提供できる、どこから先が(オンラインではなく)アナログなのか、という住み分けが難しいなと思って。

例えば物件検索サイトを作っていても、最終的に内見してはじめて、家の雰囲気とかリアルにわかる部分もあります。でもWEBでできるだけ情報提供したいし、というジレンマがあって、今回のトークテーマもあります。

お三方にぜひオンラインでできること・できないことについて、ご見解をお伺いしたいです。

中村 ありがとうございます。住まいに限らず、それぞれの領域でお話をいただいたほうがいいかなと思ってます。いかがですか、松田さん。

松田 僕は、究極はオンラインでできないことないんじゃないかなとは思っているんですよね。時間の問題というか、ARやVRという技術を高精細化していったり、センシング技術が上がっていくと、ほとんどのことができちゃう。

例えば、物件の内見も今過渡的な問題であって、将来的にはVRで全て解決するんですよね。そういった中で、逆にアナログがどこまで残っていけるのかは結構大きなテーマです。

僕個人としては、そこは食だったり、フィジカルに身体を動かすところに関しては、AIと人間の違いは肉体を持っているか・持ってないかというところもすごく大きいです。

人間はどうしても脳を特別に考えがちなんですが、実は(脳を介さない)不随意運動のほうが非常に多くのことをしていて、自律神経が勝手に心臓を動かしていたりとか、意識を使ってできていることが少ないとか。

あとは『ホモ・デウス』とか最近の書籍なんかでも、もしかして自由意志はないのかもしれないみたいな話もあったりしますんで。本当にそういう際々のところしかアナログは残らないのかなと。

そこをどう探っていくのかとなったら、過渡期も長いので、その間でアナログをどう活用していくのかなという議論になると思います。

人は、想像以上に“自分のこと”が分かっていない

中村 内山さん、いかがですか?

内山 おっしゃる通りで、(デジタルで)できないことは、僕もないとは思っているんですけど、あえて(質問者の所属先が)LIFULLさんなのでお話をすると、そんな厳しいことを言うつもりはないんですが、ユーザーを勘違いしているところがあるなと思っているのが特に住宅系のメディアとか。cowcamoはそうじゃないと言っておきたいんですけど(笑)。

お客さんって自分の価値観が決まっていて、そこに最短距離でたどり着けるようにしてあげることが大事だと思ってらっしゃると思うんですけど、ほとんどの人が、本当の自分の価値観に気づけてない人が多くて、いきなり条件検索からものを選べる人は多分どんどん減ってきている。

今までマスメディアから与えられてきた情報を見て、こんなのがいいな・あんなのがいいなって、ある程度のところで嗜好性というか。選択肢もこれまではそんなに多くなかったので、じゃあどこのハウスメーカーにしようかぐらいでよかったわけです。

だけど今って住宅といっても、リノベーション含めて無数の選択肢があるので、多分選べなくなってきていて。どんどんわからなくなってきている人が増えているんですよね。

そういうときに、今のLIFULLさんのプラットフォーム、隣に(SUUMO編集長の)池本さんもいるので言うけど、そういう人たちから見たときに、プラットフォームが最初の導入口として親切かというと……。

賃貸とかはまだいいんですよ。なぜかというと、嫌だったらまた住み替えればいいんで。失敗を繰り返していけばいいからそのぐらいライトでいいんですけど、いざ家を買う人たちからすると、その入り口に対するインターフェイスというか、そういう情報が足りないというか。

そういう人は多分そこに行かずに全然違うところに行ってて、その一部が今cowcamoに流れてきていると思うんですね。街の紹介もされていたりとか、普通のメディアに載ってない情報がたくさん載っているので。

本当はそこもVRでできるかもしれない。その地域にどんな人が住んでいるとか、どんなおじさんがいるかとか、そのへんも情報として出せるかもしれない。

だけどそこは最後、僕は必ず事業をやるときには現地に行く。現地に行って周辺をぐるっと回ってみないと、ここにどんな人が住んでいるか想像つかないところがあるように、その地域性が最後にアナログで一番大事。

マンションでいけばそのマンションの雰囲気が定量的にはなかなか見えてこないものなので、そんなところが残るんだろうなと。

コミュニティというか人と人のふれあいというか、いろんな言い方あるけどそこは大事で、そこを営業が感覚的に持っている必要も大事かと。このお客さんだったらこの街がいいんじゃないか、みたいな。

そのマッチングがAIでもできるかもしれないけど、営業の役割って最後それをしてあげるところなので。そこは人がどうしても必要な部分で、逆にそこのスキルを上げていかないとダメ。物件情報だけ集めてよかった時代から、コンサルティングというか、ダメなときはダメだよと言ってあげられるところが人に求められる気がします。

Analog = フロー?

中村 今お二方の話を聞きながら僕も思ったことがあるんですけど、オンラインでできることってもっと増えてくるんじゃないんですかね。

今はできてないけど、例えば視覚的なVRで行った気になれるというのは今も結構あります。

ただ、素材の手触りを、なんてことは今はまだかもしれないけど、多分そのうち触覚のセンシングとかでなってきますよね。そうなると「じゃあ訪問やらなくていいじゃん」っていうことになるんですけど、さっきの松田さんのお話の、最後の薄皮一枚はどこなのかだなと思ってて。

僕も最近、福岡伸一さんという生物学者がいて、動的平衡とかいろんな本を書かれてますけども、福岡さんの本で「世界は分けてもわからない」という本があるんです。

それを読んでいてすごく面白かったのが、人間の身体もそうで、全ての細胞や組織に分けて再構築にしたら人間になるのかというと、ならないじゃないですか。それは何が決定的に違うのかというと、昔の人は魂が死ぬと抜けるから身体がちょっと軽くなるんだみたいなことを言ってましたけど、軽くならないんですね。

生きているときは身体を様々な物質が巡っていて、意識、思考という流れがある、と福岡さんは言っていて。なので、フローなんですよね。フローの情報は、僕は最後までオンラインには乗らないと思っています。

なので、先ほどの「食」っておっしゃったのも、まさに食も食べて最後は外に出すというフローですよね。フローの情報こそ、最後までオフラインであると思っています。それ以外はオンラインに乗っちゃうんですけど。

質問者2 ありがとうございます。

テクノロジー化されないもの、されるべきでないもの

中村 時間が押してきていて、会場盛り上がってきましたけども、最後もう1問ご質問いただければと思いますが、誰かいらっしゃいますか?

質問者3 ダイヤモンドメディアの関戸と申します。今日はありがとうございました。楽しかったです。

(質問は、8つのキーワードにあった)「都市生活の未来」にも関わってくるかもしれないんですけど、「こんな未来は嫌じゃ」みたいな。

さっきの「これをオンライン化するのはどうなの?」みたいな、個人的な感情で構わないんですけど、ここはテクノロジー化されすぎると思うのはどこですか?

中村 いかがでしょう?思いついた方からぜひ。

松田 意思決定を奪われる未来が嫌だなと思いますね。つまり、AIですね。

嫌だけど(方向としてはどんどん)そうなっていくんですけど、ビッグデータがすごく進んでいって、自分よりも知識のバックボーンが多くて、判断も自分よりよくできる。

僕、直近で言うとGoogleマップなんですけど、Googleマップで運転しているときに。

中村 やばいですよね(笑)。

松田 はい。自分の価値観とGoogleマップの価値観がすごくぶつかるんです(笑)。

ここは真っすぐだろと思いながら、(Googleマップが提示する価値観=ここでいうと選ぶべき物理的な道を)聞くときと聞かないときがある。今は聞くときと聞かないときがあるんですけど、いずれ絶対負けてくると思うんですよね。その負けてきたときに、全部従っちゃう。

それはGoogleマップだけに限らず、全ての選択を、与えられたものは確実に正しいというときに、自分の自由意思をどこまで出せるか、ということが出てくると思うので、そこのところが怖い未来だなと思っています。

中村 知らない道を走るときはGoogle信者ですもんね。

松田 そうなんですよ。で、当たるときと当たらないときあるんです。

中村 ありますよね(笑)。内山さん、(質問者の問いに対して)あります?

内山 僕、前職でシェアハウスを始めたりだとか、最後やったホテルも「THE SHARE HOTELS」というブランドは一つなんですが、地域ごとにホテルの名前が違って。ローカライズすることをコンセプトにやっているんですが、結局そこでしか起き得ないことをどう起こすかということを考えてやってきたので。

それってまさにさっきの僕が一番大事にしている“人”の部分というか、この人がいて、スタッフも含めてこの人間がいて、このお客さんがいて、この地域の人がいて初めてできるもので、同じものは隣にできるかというとできないです。

それをサービスというのかコミュニティというのか、体験というのかわかりませんが、人を通した体験は永遠に僕はバーチャルでできないし、オンラインでは味わえないと。少し垣間見ることはできる気がするんですけど、人肌や温度感は現地でしか味わえないと思うので。

僕は旅と食はその中で結構重要なワードだと思っていて、旅しなくてよくなるのはちょっと寂しいなと思うし、いつも思うのが、現地で食べるからうまいんですよね。同じもの買って日本で食べるんですけど、全然おいしくないんですよね(笑)。

やっぱりその体験はその場でしか感じられない、という感覚があるんです。僕も食べるのは大好きなので。そこに人がどう関与するかというところで、より価値が高くなるかもしれないと思います。

中村 僕は、今の都市生活は一回作り直したほうがいいと思っていて。東京という都市の生活をポジティブに解体したほうがいい。

今の都市生活って、完全に無理してるんです。無理してません?エネルギー的にも。これを解体する方向にテクノロジーは使ったほうがいいと僕は思っています。

例えば、自動運転車とかが本当に実現したとしたら、都心に住んでいる必要なくなるじゃないですか。なので例えば、インターチェンジ脇のほうがよっぽど地価が高くなったりするかもしれないし、空気いいところに住んだほうがいいよねみたいな。東京はもっと解体されていくと思うんですね。

例えばさっきの「KOU」みたいな話で、地方の村社会のほうがよっぽど進化しているわけですね。信用経済でも回っているし。よっぽど都心の生活のほうが信用で回ってないので、むしろ都市生活者を村人化させたいなと。

本質的な原点回帰をテクノロジーでできると僕は思っているんですね。なので、1回ぶっ壊すと。それで、新しい都市像を作る。そのためにテクノロジー、何か使えないかなと最近は思っています。

質問者3 思ったより革命的ですね(笑)。ありがとうございます。3人のアナログ、テクノロジーのバランスの良さに脱帽しました。ありがとうございます。

中村 では、そろそろお時間がよろしい感じになってきたんですけど、本当はここで皆さんにもう1回チェックアウトタイムしたいなと思ったんですが、せっかくなのでそこはこのあとの懇親ムードにいったんおまかせします。

最後にお二方から今日の締めの一言というか、全体通じて、このテーマで一言ずついただきたいなと。

内山さん、いかがですか?

テクノロジーを使うのは、“人間”である

内山 僕が最初に話していた話につながるんでしょうが、どんどんテクノロジー化されていくがために、人の内面だったりその本質がどんどん大事になってきて、ビジネスやる上でも大事にしていかなきゃいけない気がしていて。

テクノロジーというと形骸化されているイメージがあるんですが、逆に便利になっていく部分があるからこそ、より本質に向かえる部分は増えてきて、そこの価値軸に左右される人が、僕はすごく増えてくる気がする。

要は、テクノロジーがあることで均一になっていくわけですね。

ただ、均一じゃない部分をどこで作っていくのかというときには、その人と人だったり、思い合う気持ちというとすごく古臭いんですが、テクノロジーの中に、それを使う人だったり、どれだけ想像できて、それを慮る気持ちが結果的には大事な時代がくる気がするんです。

だからこれからはSEのような、いわゆるテクニカルに物事を作れる人だけでなく、その横に人の重みがわかる人たちが寄り添うことで、テクノロジーがよりよく活用していける時代になると思います。

ぜひそんな付き合い方を、僕はアナログ派なんですが、デジタルの方にはお願いしたいなと思っています。以上です。

松田 僕も、全部デジタルでできると思います、とは言ったものの、内山さんと同じで旅と食がものすごく好きで。基本的にはアナログな体験を体感することがものすごく好きなんですね。

ただそれを、これからデジタルの技術が進んでいったからといって、その本質はきっとなくならない。その感覚を求める気持ちはなくならないと思うので、デジタルもきっとそれを補完してくれるというふうに、ポジティブに捉えたいです。

テクノロジーを使うのは人間なので、結局人間から発想されて、人間の利便性のためにテクノロジーが生まれてくるので、それを僕たちはポジティブに使っていくことを考えていきたいです。

中村 ありがとうございました。そろそろお時間になってきたので、この場はいったん締めますが、このあとはランチタイムですね。ランチタイムなので、まだまだ交流は続けられます。お二方もまだいらっしゃいます。

内山さんは最後まで、最後のセッションも今日はやられるので、このあとは懇親ムードの中でアフタートークができればと思っています。では、このセッションは以上になります。皆さんありがとうございました。

(終わり)

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