イニシアチブ・マッピングによって組織内の情報の透明性を高める【翻訳記事】
「誰が何をしているのか」「誰が誰をサポートしているのか」「全体のビジョンがどのようにブレイクダウンされているのか」をマッピングして可視化します
このMaptioのガイドは、Charles Davieのinitiative mapping, およびPeter Koeing のsource principle に基づいています。彼らのアイディアのおかげでこのガイドが作れており、ぜひ彼らの著作にも目を通すことをお勧めします。
Version 1.1. January 2018.
このガイドでは以下の点をカバーしています。
- クリエイティブな取り組みにおいてイニシアチブ・マッピングを行うためのレンズ
- イニシアチブ・マッピングが何であり、何ではないか
- 良いイニシアチブ・マッピングの原則
- イニシアチブマップの作り方
- 簡単に、効率よくマッピングするためのヒント
- 一度作ったイニシアチブ・マップをどう活用するか
なぜイニシアチブ・マッピングか?
イニシアチブ・マッピングの目的は、コラボレーションをスムーズにすることです。そうすることで、企業やチームのクリエイティブなビジョンに向けた取り組みが、より早く、不要なテンションを引き起こさずに実現します。
企業やそれ以外の組織で働いていて、もっと自律的で、一貫性があり、責任が明確で、アジャイルな状態を実現したいなら、イニシアチブ・マッピングが役に立ちます。
イニシアチブ・マッピングの基本
さきほど挙げた利点を踏まえて、頭の中で「組織」を意識して、組織の構造や組織図について考え始めているかもしれません。
イニシアチブ・マッピングに関して大事な点があります:これは私たちが慣れている「組織」とは違います
イニシアチブ・マッピングが「何ではない」か?
・法律的な枠組みや所有
・公式な肩書や役割
・公式な段取り、レポートライン、組織図
・公式なガバナンスやポリシー
イニシアチブ・マッピングを行うときには、伝統的な「組織図」や組織構造と混同しないことが重要です
もちろん、公式の組織図を作ることに意味がないといっているわけではありません。ただ、決してそこからは始めないでください。
イニシアチブ・マッピングとは何か?
イニシアチブ・マッピングでは「組織」に着目しないので、違ったレンズを使います:ビジョンが具現化するプロセスに目を向けます。
どんな仕事でも、本質的には何らかのビジョンを具現化するために行われているので、このレンズはとても強力です。
イニシアチブ・マッピングの約束
イニシアチブ・マップを正しく、明確に作れれば、公式な組織での取り組みももっと簡単に進められるようになります。
もっと言えば、物事が自然と進むようになることで、今ある公式な組織を大幅に減らせると感じられるはずです。
マッピングであり、デザインではない
作りたいものを本当に理解しないまま、何かを作り直すことは、決して良いアイディアではありません。イニシアチブ・マッピングはここを明確にします。
まずは、何かを「デザイン」するという発想を離れて、町中を歩いて、地図を作るのだと考えてください。町の「計画」でも「デザイン」でもありません。
今の状態をもっとも正確に表すように、地図を作ってみてください。(手を加えるのは後ほど)
マッピングをするときは、できるだけ思慮深い傾聴や、直観的な洞察を大切にしてください。
新たにデザインしたり、公式な決まり事をそのまま受け入れることはなるべく避けます。
得られる成果
イニシアチブ・マッピングの成果は、入れ子状のサークルによって表されます。これによって、誰が何に責任があり、誰を支援していて、全体のビジョンがどのように具体的なアイディアにブレイクダウンされているのかを見ることができます。
Maptioのようなシンプルなツールを使うことで、素早く簡単にマップを作り、アップデートしたりシェアしたりすることもできます。
ヒエラルキーを恐れる必要はない
入れ子状のサークルは、全体のビジョンが一つ一つの具体的なアイディアによって支えられていることを表すのに優れた視覚的なメタファーになります。しかし、これがヒエラルキーであるという事実から目を背ける必要はありません。可視化のフォーマットが多くのヒエラルキーとは違うだけです。
ヒエラルキーを恐れないでください。ヒエラルキーは、自然に存在するパターンです。自然なヒエラルキーをマッピングすることは、決して人を支配するヒエラルキーを強化するわけではありません。
では、どうやってイニシアチブ・マップを作るのかを説明していきます。
「始まり」から始める
最初に取り組むべきは、イニシアチブの輪郭をはっきりさせることです。この一番大きなサークルを、他の活動が行われるクリエイティブなスペースと捉えてください。
ここでは、誰がこのスペースを保持する責任をもっているのかをはっきりさせます。これはPeter Koeingがsourceと呼ぶ特別な役割です。
Sourceとは、アイディアを実現するための責任を最初にとった人であり、その人は、最初の具体的なアクションを起こすリスクを取った人でもあります。
さらに、このスペースのクリエイティブに関する基本的な設計図(クリエイティブ・ブリーフ)を明確にし、何がこの境界の中に入るのか、逆に何が入らないのかがわかるようにします。
sourceとなる人を特定する
まずはイニシアチブが立ち上げるまでの物語を調べることから始めます。そうすることで、オリジナルな著者を探します。
長く取り組まれているイニシアチブならば、オリジナルな著者から引き継がれた人が居るかもしれません。その場合、前のsourceからその責任が離れ、次の人へと引き継がれた瞬間を探すことになります。
もし、誰か一人がその役割を持っている(決して2人以上の創業チームではない)ことに違和感があるならば、こちらを読んでみてください。
クリエイティブな設計書(クリエイティブ・ブリーフ)を明確にする
sourceとなる人だけが、クリエイティブ・ブリーフに関する権威をもっています。これは「ビジョン」「ミッション」「意図(purpose)」などと呼んでも構いません。呼び方は重要ではありません。
ここで話題にしているのは、著作者(authorship)と同じように権威(authority)が存在するということであって、人を支配する力のことではありません。詳しくはCharles Davieの権威(authority)に関する説明を読んでみてください。
誰に権威があるかを「決める」ことはできません、それはただ「そこにある」のです。権威は、誰かがイニシアチブを始めることで自然と生まれます。
クリエイティブ・ブリーフを明確にするのにVery Clear Ideasなどのプロセスも役に立ちます。このプロセスでは、ビジョンの外向きの表現だけに焦点を絞るのではなく、sourceとなる人にとっての「イニシアチブを推進する内面的なニーズ」にも目が向けられます。そうすることで、イニシアチブには深い権威が生まれます。sourceのことは、ヒーローのような起業家ではなく、脆いビジョナリーだと思ってください。もしくは、CEOではなく、アーティストとして。
イニシアチブをより明確にするために内面に向き合う
外側の輪郭がはっきりしていることで、イニシアチブに関わっている人に対して、全体のビジョンに対して誰がどのような責任を引き受けているのかを伝えることができます。
一つ一つの責任に対して、既存の責任を引き受ける特別な瞬間か、新しいイニシアチブがマップの中に持ち込まれる瞬間を探し続けることになります。
そして、同じ原則とプロセスを適用してください:
オリジナルのsourceか、現在の継承者を特定する;
クリエイティブブリーフからビジョンを明確にする;
誰がそれをサポートしているかを明らかにする。
これらのサブ・イニシアチブは、一番外側の境界の内側にあるサークルとして表現できます。階層が何段階か深くなることもあります。
ときには、同じ名前がsourceもしくはサポートする人として登場することもあります。Maptioでは、これらのつながりはネットワーク図として可視化されます。
イニシアチブ・マップを使い続ける
マップが一度完成しても、それは始まりでしかありません。昔ながらの組織図が机の中に放ったらかしになるのとは違って、今なにが起こっているのかを見るために継続してアップデートしていくことができます。そうすることで、新しい人がスムーズに状況にキャッチアップできるようになり、また、意思決定やイニシアチブを引き受けることにもつながります。
イニシアチブ・マッピングのための7つのヒント
1.真実を明らかにできる環境を整える
イニシアチブ・マップは、現実に起きていることが正しく表されていて、初めて役に立ちます。組織の本当の姿をマップに表すことに対して、誰も恐れを抱く必要はありません。マップを作るプロセスの中で、関わるすべての人に安心感を提供し、信頼関係を築けるよう、できる限りのことをしてみてください。
2.「組織」を中心とした考え方に引き戻されない
イニシアチブのマッピングに焦点を当てることが重要であり、決して「組織」が中心におかないことが重要です。
マッピングをする過程で、あなたを引き戻す発言をする人には注意してください。例えば「私は○○と△△という仕事をして、マネージャーであるBettyにレポートします」とか、「このプロジェクトはマーケティング部門に属する」といった発言を聞くかもしれません。そのたびに、マネージャーや部門といった抽象的な言葉ではなく、その下に隠れている「取り組まれているクリエイティブなアイディアはなにか」「より上位のビジョンにどう関連するのか」「誰が責任を引き受けているのか」を明らかにする必要があります。
あるプロジェクトが公式には特定の部門に属したり、ある人が公式には特定のマネージャーにレポートすることがあっても、クリエイティブなイニシアチブにおいては違う誰かをサポートしているかもしれません。このマップの中に表したいのはこういったクリエイティブなつながりの方です。
3.決してイニシアチブを重複させない
一つ一つのイニシアチブは別個のものであることが望ましいです。それぞれ明確で、他のイニシアチブの内側か外側のどちらかに位置するべきです。
あるイニシアチブがその一つ上のイニシアチブの境界をまたいでいるとき、テンションや混乱を経験することになります。
Maptioを使ってマップを作るならば、イニシアチブの重複は起こせないようになっています。これはMaptioのもつ数少ないルールの一つですが、これによって様々な混乱を防ぐことができます。
一方で、イニシアチブの関係性は好きなようにマッピングすることができます。これは次のヒントにもつながります。
4.色分けによってイニシアチブのカテゴリーや関係性を表現する
一般的に、同じ人が複数のイニシアチブに関わることが多いため、イニシアチブ同士も自然とつながっています。一つ一つのイニシアチブは別個のものであっても、それに関わる人のつながりによって、自然と相互につながりが生まれていきます。(Maptioは人のつながりをネットワーク図によって可視化することもできます)
また、イニシアチブの中でテーマなどのつながりがある場合もあります。その場合、関連するイニシアチブに共通のカラーコードを設定することもできます。
Maptioでは、タグやカラースキームをイニシアチブに設定し、特定の条件に基づいたマップだけを表示できる機能も開発しています。
5.イニシアチブの名前をアクティブで分かりやすくする
これはCharles DaviesがVery Clear Ideasで使っているものでもあり、私の最も好きなものの一つです。
最も有効なイニシアチブの名称は、実際にそのイニシアチブが何をしているかを短い文章で分かりやすく表現することであり、抽象的な名前をつけることではない。
例えば、一番外側のサークルにおいて、ミッションの端的な説明をつけることが考えられる。「Acme Inc. — すべてのロードランナーのハードウェアに関するニーズを満たす」
説明文の最初の単語は特に重要です。実際に何が起きているかを表す「動詞」をつけてください。これがイニシアチブを活性化します。そのイニシアチブに取り組んでいる人は、本当にやるべきことに貢献できているか?をいつでも確認することができます。
逆に、可能な限り典型的な「ビジネス用語」は避けてください(たとえば「マーケティング」など)。どうしても曖昧になります。そのかわりに、あなたが「マーケティング」だと思って取り組むことを具体的に説明してください。
Whatに着目することは、サイモン・シネックの「Whyから始めよ」よりシンプルでパワフルです。
6.テンションが明らかになることを歓迎する
マッピングすることで、組織の中のテンションや問題点が自然と明らかになってきます。これは歓迎すべきことです。なぜなら、これは既に何らかの問題を引き起こしている課題を明らかにしているからです。テンションを解消する始めの一歩は、それを認識することです。典型的な例として以下のようなものが挙げられます;
誰も自然な権威として認知されていない、もしくは権威だった人が既に組織を去ってしまっているのに、後継者がいない。こういった「幽霊船」のようなイニシアチブはたいてい迷走していて、全体のビジョンの達成に貢献していません。最悪の場合、会社や組織全体がそのような迷走というケースもあるかもしれません。CEOは居ても、いま居る人の中でビジョンに対する自然な権威となる人がいないかもしれません。この場合、どんな組織の再設計も大した役には立ちません。大至急、権威となる人を改めて明らかにすることが必要であり、その上で初めて「組織」の問題に取り組むことができます。
本当にやりたいと思っていない人が権威になっている。そのようなイニシアチブは、放ったらかしにされ、十分な結果も出ません。やりたいと思っていない人に責任を引き受けさせることは不可能です。そのかわり、本当にやりたいと思っている人に引き継ぐことを後押しするか、そのイニシアチブを止めて、自由になった時間・リソース・エネルギーを全く新しいことに注ぎ込んでください。これはもちろん、会社そのものにも当てはまります。
7.細かくなりすぎない
「マップはどれくらい細かくするべきか?」という質問をよく受けます。分かりやすい経験則としては、イニシアチブをリストアップすることに飽きてきたら、おそらく細かくしすぎています。
きちんと持続するイニシアチブに注力してください。ときには1ヶ月しか続かないものもあるかもしれません。細かなプロジェクトやタスクをすべてマッピングしないでください。もしそのイニシアチブの進捗を細かく追っていく必要があるなら、取り組んでいる人たち自身に、自分たちで使いたい別のシステムを選ばせてください(たとえばBasecampやTrelloなど)。イニシアチブ・マップを、それらのシステムと連動させてください。
イニシアチブ・マップが最も有効なのは、組織全体の正しい概観を提供しているときです。あまり細かくすると、最新の状態を反映することに追われてしまいます。これはプロジェクトマネジメントを意図して作られてはいません。
出典:“Create organisational clarity using initiative mapping: A guide” by Tom Nixon
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また、日本における筆者の役割については、こちらの記事を御覧ください。