創業社長からの引き継ぎ:失敗の原因と対応策【翻訳記事】

山田裕嗣 / Yuji Yamada
Maptio Japan
Published in
12 min readJun 23, 2018

もしあなたが、自分で会社を創業したことがあるか、もしくは創業者が成長をドライブする会社で働いたことがあるならば、創業者と会社の間には特別な結び付きがあることを知っているだろう。それは公式のCEOという肩書や責任よりもはるかに深い。

たとえ先進的な分散化した企業であっても、創業者が自ら始めたイニシアチブとは特別な結びつきがあり、またそれは特別なエネルギーの源泉となる。

後継者へ引き継ぐときに、公式の肩書や責任だけが扱われ、このような深いつながりに注意が払われない場合、とても残念な結果を生むことが目に見えている。

幸いなことに、この深いレベルでの継承は実現できる。そうすることで、創業者は本当にやりたいことに改めて取り組めるようになり、次のCEOはその新しい役割をうまく引き継ぐこともできる。

創業者の特別な役割を見るためのレンズ

これ以降の話は、やや不思議に思う人もいるかも知れません。ただ、お伝えするのは一つのレンズであり、ものの見方の一つとして捉えて下さい。実際に不思議な力が働いている、ということを言いたいわけではありません。このレンズは数百人の起業家や創業者との対話を通じて作り上げられてきたものであり、表面的な事象の背後で起こっていることに対して、深い示唆を与えてくれます。

Sourceという役割

創業者は、CEOとしての公式な役割とは別に、極めて重要な役割を担っています。この役割は、イニシアチブ全体を統合し、前進させる推進力を提供しています。この現象を何年にも渡って探求しているPeter Koenigは、Sourceと呼んでいます。

このsourceという役割を担うのは必ず一人です。共同創業者がいてもそれは変わりません。sourceとは、アイディアを実現するために自らリスクを取った最初の人物です。イニシアチブの経緯を調べたり、今の動きを注意深く見守ってみれば、そのイニシアチブでsourceの役割を担っている一人が必ず見つかります

イニシアチブ全体にとっての次のステップを感じ取る

そのイニシアチブについて「世界との情報チャンネルがある」というメタファーをKoenigは使っています。Sourceとなる人が受信する役割を担います。このチャンネルを通じて、このイニシアチブに含まれる(もしくは含まれない)ものを識別することができます。

実際には、その情報はsource本人が自分の内面深くに耳を傾け、イニシアチブを始めた動機やニーズに触れることで見つかります。もしくは、同僚の声に深く耳を傾けることかもしれません。sourceはある意味では中央集権的な役割ですが、その情報を得るためにチーム全体の集合知へ触れることになります。大事なのは、sourceはこのプロセスのホストとなり、責任を引き受ける必要があることです。

sourceの役割は、「独裁者」や「カリスマ的な起業家」であるかのような誤解を生むかもしれませんが、どちらかといえば「脆弱なビジョナリー」のような姿になります。Sourceがその役割をきちんと果たしているときは、イニシアチブに何が含まれ、何が含まれず、次に何が起きる必要があるのかを的確に感じることができます。

最後に、sourceの役割が「任命」できるものではありません。投票などの公式な選出プロセスを通じて選ぶことはできず、自然と生まれてくるものです。これは、子供の母親を決められないことと変わりません。

Sourceという役割の継承

CEOという役割を引き継ぐことができるのと同じように、sourceも継承のプロセスを通じて引き継ぐことができます。これが成功したときは、「情報チャンネル」も古いsourceから新しいsourceへと移ります。

しかし、それはCEOという肩書を持てば、自動的に引き継がれるわけではありません。Sourceはもっと深いところで果たされる役割であり、公式な肩書とは別のものとして特別な注意を払う必要があります。

sourceの役割が考慮されていなかった場合、どんな不都合が生じるかをかなり正確に予想することができます。これは誰かに責任があるわけではなく、深いところで起きている事象に対して、十分な注意が払われていなかったことに起因します。

いくつかの良くあるシナリオを見てみましょう。

新しいCEOがsourceを引き継ぐべき人ではないケース

多くの場合、CEOの役割は公式に継承されますが、sourceは継承されません。

新しいCEOがイニシアチブに対する権威をすべて引き継ごうと思っていても、それは決して簡単ではありません。創業者が引き続き「特別な情報チャンネル」からの情報を受信します。イニシアチブが本質的に何であり、どこに向かうのか、という最も重要な情報は、新しいCEOのところには届きません

新しいCEOがsourceではないときに起こる現象は予測が付きます。新しいCEOが自らの意思を貫くために過剰に独裁的なスタイルに向かうか、逆に終わりのない合意形成とビジョン浸透の努力に費やされます。私自身、過去には新しいCEOが就任した会社が、この2つの間を行ったり来たりしながら、sourceのような深さが考慮されずにいることを見たこともあります。

どちらの場合でも、優秀な人が去ってしまい、明確でクリエイティブなビジョンへの注力が失われることになります。

口を出し続ける創業者

引退した創業者が、新しいCEOに引き継いだ後に口を出すのを止められないことがあります。Sourceの役割をきちんと渡しきれていないことを意味します。

創業者がこんなことを言うときには注意が必要です:「新しいCEOに引き継ぐが、私はいつまでも創業者であり、新しいCEOを導くための助言はし続ける」。これは創業者がsourceを引き継ぐ準備ができていないことを表しています。

新しいCEOが就任した後も、ビジョンやバリューに関しては、組織のメンバーは引退したはずの創業者に助言を求めに行きます。新しいCEOは振る舞い方に迷い、組織を去る(もしくはクビになる)ことになりかねません。

新しいCEOは、大事な意思決定については、創業者の判断を仰いでしまうこともありえます。これは、両者がその関係性に納得していればよいのですが、多くの場合そこはハッキリされておらず、権力争いへとつながってしまいます。

引退したはずの創業者がSourceであり続ける

Sourceという役割がどれほど長く持続するものかを理解すると驚かされます。創業者が組織を離れてから何年も経っていても、sourceを公式に引き継いでいない限り、その役割は離れていません。本人は離れたと思っても、Koenigのメタファーに則れば、情報チャンネルへのアクセスは他の人に渡されていません。

これは、先ほど挙げた「独裁主義」か「過剰な合意形成」につながります。もしくは、権力の空白地帯を作り、結果的に権力闘争を生むこともあります。

興味深いことに、創業者自身も、新しいイニシアチブに没頭することが難しかったり、引退後の時間を楽しむことができなかったりします。たとえイニシアチブを離れたと思っていても、頭の中に占める割合が多いままになります。ときには離れたところから見守りながら、イニシアチブが迷走する様子を見ていることもあります。sourceである創業者は、どうすれば良いかがはっきり見えていても、どのように関わっていいか分からずに戸惑います。

お金への注力

優れた会社とは、クリエイティブなイニシアチブによって成り立っています。世界に意味のある変化をもたらそう、というクリアなビジョンを持っています。(スティーブジョブスが‘to put a dent in the universe’と言っていたように)

クリエイティブなイニシアチブにおいて、sourceがビジョンを実現するスペースをしっかり保持しているときは、多くの人を惹き付ける力を持っています。イニシアチブ全体に熱気が感じられて、人やお金などの必要なリソースが集まってきます。

イニシアチブとクリエイティブなビジョンから離れ始めると、多くの場合、お金への注力が取って代わります。少しの間はうまく行くかもしれませんが、組織がクリエイティブではなくなるほど、必要なリソースを集めるのが難しくなっていきます。クリエイティブな人材は、より魅力的な環境を求めて組織を離れ始めます。そして、多くの場合、給料の高い「傭兵」器質な人が入ってきます。彼らにとって大事なのはお金であり、ビジョンではありません。

長い時間軸で考えると、お金に注力することは結果的に財務的に不安定な状況を招きます。その分かりやすい例は、活気のあった華々しいテクノロジー企業が、大きな組織へと成長した場合に起こります。創業者が離れた後、新しいCEOは投資家を喜ばせようとします。マイクロソフトを率いていたスティーブ・バルマーはその典型でした。マイクロソフトは徐々に衰えていきました。このときは、興味深いことに、sourceであるビル・ゲイツがマイクロソフトに戻り、新しくCEOとして任命したサティア・ナデラが新しいビジョンを作り出すのを支援しました。マイクロソフトは新たなビジョンを与えられたようで、すなわち、sourceの役割がようやくビル・ゲイツから継承されたようです。

それに比べて、Facebook、Google、Amazonは創業者が今でもsourceを担い続けており、巨大になった今でもクリエイティブであり続けています。

悪い状況をどう立て直すか

これまで見てきたように、注意すべき悪い状況には、独裁主義、過剰な合意形成、お金への注力、CEOの退任、sourceを手放せない創業者、などがあります。

どのケースでも、状況を立て直すために最初にやるべきことは同じです。公式な組織図よりもさらに深く組織を見て、誰がいまのsourceなのかを見極めることです。これは、創業のものがたりを見直して、誰が最初にリスクを取ったのかを探すことで見えてきます。または、公式にsourceの役割が引き継がれたことがないかも探して下さい。継承があったときは、新旧の両方のsourceがはっきりとどの場面だったか言い当てることができます。これが明確でないならば、おそらく継承されていません。

経験を積んでくれば、組織内のメンバーに話を聞くだけで、誰がsourceなのか直観的にわかるようになります。それは決してカリスマ的なリーダーではなく、根源的なビジョンやバリューに関して、最も強い影響力を発揮している人です。

Sourceは既に組織を去ってしまっているかもしれません。その人を探し出すことに意義があります。彼らに悪い状況を説明すれば、次に必要なことに対して彼らが持っている視座や視点に驚かされることも多いです。

Source自身、自分がまだその重大な役割を担っていると認識できたならば、改めてその責任を全うしてもらうこともできます。これは、改めて公式な役割を持ってもらうことで実現することもあれば、新しいsourceへの継承を公式に果たすこともあります。

必ずしもCEOがsourceを持つ必要はないですが、同じ人が担えるならばシンプルにはなります。新しいCEOが就任時点ではsourceではなかったとしても、後から継承することもできます。もしまだ準備ができていないならば、時間を掛けて育成される必要があります。そのときに大事なのは、イニシアチブで大切にされてきたバリューに焦点を当てることです。

そもそも、そんな問題を起こさないために

もしあなたが創業者の引退への準備期間にこれを読んでいるならば、そもそもこんな問題を起こさないことができます。

そのためには、創業者が引退する前に以下のどちらかが必要です。1)創業者がsourceの役割を完全に後継者に渡す、2)創業者が引退後もビジョナリーとして居続けることを、新しいCEOも含めて合意する。もしくは、創業者ではない第三者にsourceを引き継ぎ、その人が新しいCEOを導く役割となることもできます。

ここで挙げた選択肢以外の曖昧な形をとった場合、将来的には先程あげたような困った状況に陥る可能性があります。

関係している全員が納得できる形でなければ、うまくいきません。多くの新しいCEOは、sourceの役割も引き継ぎたいと思い、自動的に継承されると思いがちです。

鍵となるのは、取り巻く全体の状況に対して自然な対応をすることです。無理やりに進めてもうまくいきません。新しい体制が自然と湧き上がってくるのに委ねてみてください。注意深く、深いレベルで起きている変化を見れていれば、自然と新しい形は見えてきます。

企業はなぜ何百年も続くのか

Peter Koenigは世界にある最も古い会社について好んで語ります。日本の寺院を建てる大工の会社には、800年以上続いているものもあります。なぜ何百年も企業が続けられるのか?その秘密は?と今の世代の人に質問したところ、その回答はシンプルなものでした。
「ビジネスは、次の人へ、次の人へ、次の人へ、と託され続けていれば、永遠に続けることができる」

出典:“Taking over from a founder-CEO: Why it goes wrong and how to get it right” by Tom Nixon

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また、日本における筆者の役割については、こちらの記事を御覧ください。

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山田裕嗣 / Yuji Yamada
Maptio Japan

HR系のコンサル、大手ITのHRを経て、ITベンチャーの経営に参画。 2017年12月にEnFlow株式会社を設立。Teal/ホラクラシー/自然経営など、新しい時代の組織への変容を支援。 https://en-flow.com/