ブロックチェーンゲーム市場レポート:NFT取引(2019年4月)
前回に続き、4月末時点のブロックチェーンゲーム市場(NFTのセカンダリー取引)について各種データをもとに考察していきたいと思います。
今回からETHの価格変動を踏まえた市場動向をみていく目的から、ETH建の取引高に加えてUSD建(CoinMarketCap 参照)の取引高も表記しております。
なお、本レポートでは、下記抽出対象に基づくブロックチェーンのトランザクションデータを参照しております。(参照データ:Etherscan、BigQuery)
*抽出条件*
- NFTのユーザー間取引により発生(OpenSea、Auctionityなどのマーケットプレイス及びCryptoKittiesなどのゲーム内マーケットのトランザクションを対象とする)
- 独自トークンによる取引はETH・USD換算にて算出(MANAなど)
- Decentraland を除く取引を算出
- Ethereum上で発生
- 2018年6月1日〜2019年4月30日に発生
目次
- セカンダリーマーケット取引高
- タイトル別比較
- ユーザー動向
- 総括
セカンダリーマーケット取引高
取引高推移
【全期間の月次推移(2018年6月1日〜2019年4月30日)】
−ETH建−
−USD建−
4月は3月と比較して取引高が下落した月となりました。
さらに4月の日次推移が下記となります。
【4月の日次推移(2019年4月1日〜2019年4月30日)】
−ETH建−
−USD建−
これをみると4月1日以降 右肩下がりの推移となっており、2018年12月から続いていた上昇傾向から転じて、下落傾向にあることが日時の推移からもわかります。
平均取引高
【取引あたりの平均取引高(ETH・USD)】
ETHの取引高でみると若干4月は3月と比較して取引単価の低下が見られますが、USD建でみると2018年12月以降ずっと上昇傾向にあることがわかります。特に2月(9.89 USD)と比較すると4月(16.99 USD)は70%近い上昇となっています。
これは、取引されているNFTのアセット価値が全体的に向上した、あるいは個別タイトルが大きく牽引したなど、いくつかの要因が想定されます。
【ユーザーあたりの平均取引高(ETH・USD)】
こちらはETH建・USD建、共に3月と比較して低下しています。
先程の取引あたりの平均取引高と異なる点として、USD建で見ても3月の水準よりも低下している点があげられます。
これは、3月の高額取引ユーザーが4月は取引額を抑えたことが平均取引高を低下させた要因ではないかと考えられます。
【取引高上位10ユーザーが全取引高に占める割合】
実際に3月と4月の大口取引ユーザーの割合を見てみると4月は3月に比べて大口取引ユーザーが減少しているのがわかります。
この様に市場参加者がまだ限られている現状では、一人の大口取引ユーザーが与える影響が大きいことがわかります。
取引額ランキング
【4月の取引額ランキング(TOP 15)】
4月の取引額上位10件の内訳をみると、 My Crypto Heroes(以降 MCHと表記)が7件、ZedToken(以降 ZEDと表記)が3件で、この2つのタイトルの高額取引が多くを占めていたのがわかります。
この内、上位の取引詳細を見てみると3件中2件が下記の通り複数アセットをセット購入した取引であったことがわかりました。
さらに、この2つのタイトル(MCH、ZedToken)におけるセット購入の取引高推移を個別に見たものが下記となります。
【MCH、ZEDのセット購入の取引高推移(ETH・USD)】
この2つのタイトルだけ見ても月次でセット購入の取引高が増加しているのがわかります。
こうしたセット販売は、OpenSea上ですでに2,298点出品されており、セカンダリー取引におけるセット販売を利用するユーザーが多く存在することがわかります。
タイトル別比較
*OpenSea、Auctionityなどのマーケットプレイス上で発生したタイトル別の取引についても、各タイトル取引高に仕分けして算出しております。
タイトル別 全体取引高
【全期間の月次推移(2018年6月1日〜2019年4月30日)】
−ETH建−
−USD建−
タイトル別に見ていくと4月は3月と比較してどのタイトルも取引高が低下しているのがわかります。
そんな中、4月に取引高を高騰させたのタイトルが「ZED」と「Neon District」の2つのタイトルで、いずれも前月比で大幅に上昇となり、4月全体の取引高の15%を占めるほどとなりました。
【2タイトルの3月・4月取引高推移】
現状、2タイトル共にゲームリリース前となっており、クラウドセールが3月に実施され、その直後のセカンダリー取引で上記の様な取引高推移を見せ大きな盛り上がりとなりました。
ZEDは競走馬育成ゲームで、購入したサラブレッドをレースに出して勝敗を楽しむだけでなく、繁殖によってサラブレッドの価値を高めていくブロックチェーンゲームです。
サラブレットの強さは血統と遺伝子の掛け合わせで決定し、繁殖を繰り返すことで最強のサラブレッドを作り上げることができる本格的な競走馬育成ゲームとなっています。
すでにセカンダリー取引では、当初0.4 ETHで購入したサラブレッドが7 ETHで売却されたとのことで、大きなリターンが期待できるブロックチェーンゲームとして話題となっております。
Neon District:https://neondistrict.io/
Neon Districtはバトルゲームで、カードゲームの要素とMMORPGの要素を結合させたブロックチェーンゲームとなっています。
特徴として、
(1) 近未来的な荒廃を舞台としたメインストーリーが存在
(2) キャラクターには職業が存在
(3) アセットはレベルアップなどを行うことで能力とともに見た目も変化
(4) バトルの観戦に加えて勝敗をベットすることが可能
(5) バトルはソロとギルドが用意
などの要素があげられ、これまでのブロックチェーンにはない本格的なバトルゲームが楽しめるゲーマー期待のタイトルとなっています。
いずれも今年2019年中のリリースを予定しており、リリース後にはさらなる盛り上がりが期待される注目のタイトルと言えます。
タイトル別 累計取引高 TOP 15
【全期間の累計取引高(2018年6月1日〜2019年4月30日)】
−ETH−
−USD−
先程のタイトル別取引高では徐々に減少傾向にあったCryptoKittiesも、累計の取引高では他を圧倒する数値となっており、続いて2位・3位がMCHとMLB Champions(以降 MLBと表記)となっています。
MCHが直近の取引高・取引額で大きな存在感を見せている中、毎月コンスタントに取引高を発生させているのがMLBで、なんとUSD建ではMCHを抜いて2位に位置しています。
MLBはメジャーリーグベースボールの選手をマスコットにしたデジタルカードで、ブロックチェーンゲームのユーザーだけでなく、メジャーリーグベースボールのファンもユーザーに取り込み毎月コンスタントな取引高となっているユニークなタイトルと言えます。
【期間別の取引高比較】
−ETH建−
−USD建−
直近3ヶ月と、それ以前(2019年1月以前)の累計取引高をタイトル別に比較してみると、TOP 5以下のタイトルが殆ど入れ替わっているのがわかります。
中でもETH TOWNについては、先程あげた「全期間の累計取引高」でTOP8に位置していましたが、直近3ヶ月は殆ど取引が発生していない状態となっています。
同様に、その他の多くのブロックチェーンゲームが一時的な取引は発生させるものの、その後毎月コンスタントな取引高を発生するに至らず、ユーザー定着が課題となっているタイトルが多く存在することがわかります。
タイトル別 平均取引高(取引高TOP3タイトルを比較)
【取引あたりの平均取引高】
−ETH建−
−USD建−
平均取引高をタイトル別(累計取引高 TOP3)に見てみるとMCHだけが右肩上がりの推移となっているのがわかります。
これは、ゲームがリリースされて以降、MCHのアセット価値が着実に向上しているのではないかということが想定できます。
実際にクラウドセール時からアセット価格が向上した、代表的なアセットをピックアップしたのが下記になります。
- クラウドセール開始価格:0.2 ETH
この2点限らずクラウドセールで販売されたアセットは軒並み数倍の値段で取引され、中には上記の様に35倍もの値段で取引されたアセットが存在ます。
- エアドロップ(無料配布)
また、上記の様に無料で配布されたアセットがゲーム内で活躍したことで人気となりセカンダリーで高額な取引が行われているといったケースも存在しています。
MCHは独自のエコシステムでゲームリリース後にユーザーをしっかりと取り込み、ゲームプレイを通じてアセット価値を向上させたことが要因と言え、とてもユニークな事例と言えます。
【ユーザーあたりの平均取引高】
−ETH建−
−USD建−
こちらは冒頭で見た全体のユーザーあたりの平均取引高の推移同様にETH建・USD建、共に3月と比較して低下しており、大口のユーザーの減少による影響が大きかったのではないかと考えられます。
ユーザー動向
購入ユーザー数の推移
【MAU(monthly active user)】
【New user】
MAU、New user共に横ばいの推移となっております。
これは、New userの定期流入に対してユーザーが定着していないことが読み取れます。
そのため、MAUが積み上がらず横ばいの推移となっていること言えます。
Holder状況
下記事由により、ここで示す数値はあくまで参考値としていただけたら思います。
*ここではアセットを保有する1アドレスを1Holderとして算出しています。そのため、1ユーザーが複数アドレスを保有する場合であっても1アドレスをもとに1Holderとして算出しております。
*MCHの様にゲームプレイをオフチェーン で実行するために、特定のアドレスにアセットが集約されている場合、累計取引高とHolder数のタイトル順位に大きく異なる場合があります。
*Gods Unchianedの様にアセットがロックアップされてセカンダリー取引ができないタイトルの場合、累計取引高とHolder数のタイトル順位が大きく異なる場合があります。
【Holder数(TOP 15)】
CryptoKittiesが圧倒的なHolder数となっており、取引高で上位となっていたMCHやMLBもHolder数ではかろうじてTOP 10以内に位置していると言った状態です。
【複数タイトル同時保有状況】
現状、1つのタイトルのみを保有するユーザーが94.9%と大半を占めております。
【保有タイトルの組合せ(TOP 15)】
保有タイトルの組合せとして最も多いのが「CryptoKitties・Etheremon」で続いて2位が「CryptoKitties・Gods UnChained」、3位が「CryptoKitties・ETH TOWN」となっています。
Holder数のTOP3がそのまま保有パターンとしてもTOP3のパターンであることがわかります。
ここで気になる点として、MCHがTOP 15のパターンには出てこないという点です。
これは、ゲームプレイをするために特定のアドレスにアセットが集約されてしまっているという要因の他、MCHのHolderはMCHしか保有していないという要因が考えられます。
これはMCHでゲームプレイを楽しむために初めてNFTのアセットを購入したという新規のブロックチェーンゲームユーザーによってHolderが構成させているのではないかということが考えられます。
総括
4月は軒並みどのタイトルも前月比で取引高が下落し、全体的に落ち着いた月となりました。
そんな中、取引高の高騰が目立ったタイトルが「ZED」と「Neon District」の2つのタイトルでした。いずれもこれまでのゲームにはない本格的なゲームが楽しめるブロックチェーンゲームとして話題となっており、ゲームがリリースされる前の現時点で活発なセカンダリー取引が行われています。
ゲームリリース以降、ユーザーをしっかりと取り込み、ゲームプレイを通じてアセット価値を向上させたMCH同様に、ゲームリリース後のアセット価値の向上が期待させるタイトルではないでしょうか。
また、国内からも今月5月、MCHのエコシステム要素を取り入れた本格的なトレーディングカードゲームとして話題の「Cryptospells」がBETA版をリリースされ、翌月6月にはプレセールが実施されます。
これまでの取引高推移をみると、その大半がMCHなど限られたタイトルによる市場の牽引がおおきな割合を占めており、さらなる市場の盛り上がりには次のビッグタイトルの登場が求められる状態と言えます。
そんな中、「ZED」「Neon District」「Cryptospells」といったいくつかの期待のタイトルが2019年にリリース予定となっており、これらのタイトルが起爆剤となり市場全体に大きな盛り上がりが起きることを期待したいと思います。