より参加型で多様なエネルギー転換のためのセルラーアプローチ

エネルギー転換の大きな特徴は、集中型から分散型の電力市場へと移行することです。すでに何百万人もの個人や中小企業がプロシューマーとして積極的に市場に参加しています。このような伝統的な電力市場の破壊は、新しいビジネスモデル(例えば、ピアツーピアの電力取引マイクログリッドのアプローチ)を可能にし、また要求するものであり、より多様な競争の場をもたらすでしょう。

同時に、新しいアプローチを実行するための受容と意欲を確保するためには、少なくとも現在と同等の信頼性と手頃な価格の電力システムをつくることが必要となります。

ドイツの研究・実証プロジェクト「C/sells」は、この目標を達成するであろうソリューションを提供しています。そのコンセプトは、個人や企業が「エネルギーセル」と呼ばれる集合体となり、共同で電気を生産・供給するセルラーシステムです。これらのエネルギーセルは孤立しているのではなく、互いにリンクしています。C/sellsという名前は、「cell」が細胞のアイデアを象徴し、「sell(売る)」が新しい経済的機会を表すという、プロジェクトのアイデアを反映しています[1]。

C/sellsプロジェクトの全体コンセプト (出典: C/sells)

C/Sellsは、未来の電力システムに重要な3つの機能、「セルラー性(細胞性)」「参加性」「多様性」を提案しています。

セルラー性(細胞性)とは、異なる細胞での分割を基本単位として記述するものです。セルのデザインは固定されたものではなく、例えば、都市や地区、あるいは空港のような単一のオブジェクトでも可能です。このレイアウトは、特定のセル内で発電量と消費量のバランスをとるという目標を達成するために必要な柔軟性を提供します。セル内でバランスが取れない場合は、隣接するセルとの交換が優先されます。C/sellsでは自給自足というよりは自律性を重視していますが、緊急時には独立したセルの運用が可能であり、送電網の復旧に役立ちます。

参加性とは、プロシューマーやフレキシューマーとして、電力システムに多数のアクターが積極的に関与することを意味します。フレキシューマーとは、「Flexibility(柔軟性)」と「Consumer(消費者)」を組み合わせた造語です。フレキシューマーは、電力網のニーズに応じて電力消費量を調整することで柔軟性を提供し、その見返りとして経済的な報酬を得ます。 このような参加型セルはすでに試行されていますが、ドイツで広く導入するためには、規制面での調整が必要です[2]。

将来の電力システムは、さまざまなアクターがより積極的に市場に参加することで、より多様化するでしょう。さらに、デジタルソリューションのイノベーションサイクルは特に短いため、さまざまな種類や世代の技術的ソリューションが同時に使用されることになるでしょう。多様性はレジリエンスを向上させ、イノベーションを促進しますが、同時に、電力システムの複雑性が増すことで課題も生じます。

C/sellsは、電力市場にセルラー性、参加性、多様性を取り入れ、現行システムの崩壊にともなう課題に取り組むために、3つの基本的な手段を提案しています。これらの手段は、近年のデジタル技術の進歩を利用しています。

インフラ情報システム(Infrastructure Information System, IIS)は、電力市場における現在の活動を監視するとともに、将来の消費量や発電量を予測し、エネルギーセル内およびセル間の効率的で信頼性の高い運用を実現します。これらのデータは、家庭や企業、ネットワーク事業者に提供され、データに基づいた意思決定を可能にします。

ハーモナイゼーションカスケード(Harmonization Cascade)は、これまで電子メールや電話で非効率的に行われていた送配電システムのオペレータ間のコミュニケーションを調整し、自動化するのに役立ちます。セルまたはセルクラスター内で検出または予測された危機的な系統状況は、トラフィックライトの概念によって簡単に識別することができます。トラフィックライトの概念とは、緑は危機的状況ではないことを示し、黄色は脆弱な状況を示し、赤は系統の安定性が直ちに危険にさらされていることを示し、青は系統の復旧が進行中であることを示し、黒はブラックアウトを意味します。トラフィックライトの状態に応じて、適切な安定対策を自動化・標準化して処理することで、系統の信頼性を確保することができます。このような自動化・標準化された通信は、ますます多様化する電力市場において、ますます重要になってきています[3]。

TSOとDSOの間のC/Sellsハーモナイゼーションカスケード (出典: C/sells — Showcases for massive Renewable Integration)

地域化された市場(Regionalized marketplaces)は、主に大規模な関係者が参加する中央化された市場とは対照的に、小規模なプロシューマーやフレキシューマーに容易なアクセスを提供することを目的としています。ピアツーピア電力取引プラットフォームは、近隣住民同士が直接電力を売買し、より効率的で地域に根ざした電力消費を可能にします。地域化された柔軟性プラットフォームは、ネットワーク事業者による系統の安定性を確保するための柔軟性の要求と、フレキシューマーによる電力消費量の調整を合致させます。

このようなセルラー式の参加型で多様性のある電力システムが完全に実装され、すべての規制の障壁が取り除かれるまでにはまだ長い道のりがありますが、南ドイツにある30以上の参加型セルとデモセルは、すでに概念実証をおこなっています。この4年間のプロジェクトに参加した300人以上の人々は、より多くの人々がデジタルエネルギー革命を受け入れ、ドイツだけでなく国際的にもセルラー方式のアプローチを実施するきっかけになることを期待しています[4]。

参考:

[1] B. Haller, O. Langniß, A. Reuter, and N. S. Hg, “1,5° Csellsius — Energiewende zellulär — partizipativ — vielfältig umgesetzt” 2020, [Online]. Available: https://www.csells.net/media/com_form2content/documents/c12/a357/f122/CSells_Buch_15GradCSellsius_WEB_20201209_compressed.pdf

[2] Forschungsstelle für Energiewirtschaft, „Altdorfer Flexmarkt (ALF)“ [Online]. Available: https://www.ffe.de/themen-und-methoden/digitalisierung/881-altdorfer-flexmarkt-alf

[3] A. Reuter, „C/Sells: Zellen, die 100 % Erneuerbare ermöglichen“ 2018, [Online]. Available: https://www.energie-klimaschutz.de/csells-zellen-fuer-100-prozent-erneuerbare/

[4] A. Reuter, “The C/sells project for decentralised transformation of the energy system via Smart Grid” 2018, [Online]. Available: https://www.youtube.com/watch?v=gnsT9P02UgQ

Text by Christian Doedt

Translation by Shota Furuya

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Shota FURUYA
ISEP Next Energy Transformation Micro Research

環境エネルギー政策研究所, 研究員/Institute for Sustainable Energy Policies, Researcher