Webサービス開発会社でIoT製品を開発した話(プロトタイピング編)

Bluetooth対応のFeliCaカードリーダーを開発しました

Katsuya Kubo
nextbeat-engineering
13 min readApr 12, 2021

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こんにちは。エンジニアの久保です。
普段はKIDSNAコネクトというサービスを開発しています。
自作キーボード制作が趣味なのですが、それが高じて今回IoT製品の開発をマネジメントすることになりました。
現在量産体制に移行しているのですが、今回はその手前であるプロトタイピングをどのようにして進めたのかについて書かせていただきます。
また、私自信プロジェクトマネジメント自体も初めての経験でしたのでその観点での気づきも併記させていただきます。

何を作ったのか

割とコンパクト

写真はプロトタイプのものです。
BluetoothでiPadとペアリングして利用できるFeliCaカードリーダーを開発しました。
といっても汎用的に利用できるわけではなく、弊社が提供している KIDSNAコネクトの打刻用のiPadアプリで使うためにカスタマイズして開発しました。
FeliCaのIDmの読み取りを行うだけなので、入退室管理などにもよく使われるMifareカードのUIDも読み取れるようにしました。

なぜ作ったのか

前述した KIDSNAコネクト では主に保育士さん向けに勤怠・労務管理機能を提供しており、これまでは市販のBluetooth対応FeliCaカードリーダーを利用して出勤・退勤の打刻を行えるようにしていました。
しかしこれが生産終了となり代替品も見つからないという事態が発生しました。

もちろん打刻方法自体を変えることも検討しました。
web画面上で打刻する機能やQRコードで打刻、顔認証など様々検討しましたが、現状のFeliCaカードリーダーで使い慣れているお客様も多くいる中で代替手段を強いるのも忍びないという思いがありました。

そんな折に 「カードリーダー自体を作ってしまうのはどうか」 という案が上がり、自作キーボード好き・電子工作好きを公言していた私に声がかかりました。
無ければ作ればいい、という至極シンプルな発想です。
自社で作るメリットとして、他社製品に依存しない形で打刻機能を提供できるようになります。

協力会社の選定

まず弊社にはIoT製品開発に関するナレッジがありません。
そのためPoC・プロトタイピングはその知見のある会社の協力を仰ぐこととにしました。
今回は弊社CIO/VPoEである三井の紹介で もっけ技研 様にご協力いただきました。

またこの先、基板製造サービスや部品メーカー等様々な外部組織と連携して進めていきますが、選定基準としては下記の項目が上げられます。
どんなプロジェクトでも重視される項目ですが、IoTのプロジェクトにおいてはより強く影響する部分が多いかと思います。

①費用
やはり費用を如何に抑えるかというところはプロジェクトとして大事です。
仕事を依頼できそうな数社に目星をつけ、相見積もりを取りましょう。
「ここしかない!」というサービスを見つけても最低もう一社からは見積もりは取りましょう。
2社以上を比較することで、どのようなことをサービスとして提供してくれるのか?
どの辺りにコストがかかるのかなど正当性がわかります。

②納品速度
費用と同じくらい大切です。
同じ部品でもメーカーさんによって数週間〜数ヶ月単位で差があったりします。
「どこも同じだろう」と思い込んでいると、実はもっと短縮できたなんていうケースもあります。
見積もりを頂く段階で納期についてもざっくり聞いておくと良いです。

③レスポンスの早さ
プロジェクトにおいては返答一つの遅れがスケジュールに地味に響いてきます。遅いところは本当に遅く、見積もりを依頼した数社の中では一週間返事が返ってこないところもありました。
問い合わせへの返信の早さ・見積もり提出の早さ等で見てみると良いかもしれません。

スケジュールの策定

今回のプロジェクトのデッドラインは、既製品であるカードリーダーの保有在庫が尽きるまで です。
このプロジェクトは2020年4月に開始しましたが、その時点の試算では1年後である2021年3月までは保有在庫分で間に合うと判断しました。
ですので具体的なゴールとしては
「2021年3月末時点で自社製カードリーダーを500台納品すること」
と設定しました。
そこから逆算して「2020年9月末までにプロトタイピングを完了させる」というのを当面のゴールとして設定しました。
あとはそれに必要な部品の調達や実装など、作業をブレークダウンしてWBSツール(今回はInstagantt)を利用して可視化しました。
もちろんこの間に代替の打刻機能も平行して検討を進め、万が一に備えました。

スケジュールを左右する要素

大まかなスケジュールを引くことはできましたが、実際に進めてみるとソフトウェア開発ではあまり無い要素でスケジュールを左右するものがありました。

①部品調達にかかる時間
プロトタイプを作るには各電子部品や外装の素材等の調達が必要です。
一般的なものであればECサイトでも購入できますが、モノによっては直接秋葉原に行って電子部品屋さんで調達したほうが早いモノもあります。
特にモジュール系は定常的に量産していないものだとストックが無いことも多く、余裕を持った調達スケジュールが必要です。

②基板製造にかかる時間
ソフトウェアの場合、失敗しても修正はすぐに行なえますがハードウェアはそうはいきません。
基板も最初こそブレッドボードなどで柔軟な形で検証しますが、いざ基板を作ってみると意外と部品配置を変えたいことも多く、2~3回は基板の作り直しが発生しました。
また、基板製造・部品実装には1回につき少なくとも約2週間ほどかかると見ておいたほうが良いです。

③プロトタイプ製品のやりとりにかかる時間
コロナ禍で製品開発をするにあたって障壁だったのがモノのやりとりです。IoT製品では不具合を確かめるにはやはり現物が必要になります。
今回は協力会社の他に社内のアプリエンジニアにも協力いただいていたので、そこに私を含めた3者間でプロトタイプ製品をやりとりしていました。
通常であれば弊社オフィスと協力会社オフィス間でやりとりできれば良かったのですが、緊急事態宣言で、フルリモート化したため、それぞれの自宅宛にモノを配送する、といった対応が必要になりました。
また、そのやりとりにも数日かかるため、わずかではありましたがスケジュールにも影響しました。

このようにIoT製品・ハードウェアはその性質から、物理的に時間が必要になることが多いです。ソフトウェアとは違い、工夫でどうにかできない部分もあるのでやはりプロジェクト全体として3ヶ月ほどのバッファは持っておくと良いと感じました。

見積原価計算書の作成

開発・製造にかかるコストも見積もらなければなりません。
書式や書き方については下記の書籍が参考になりました。
それ以外もIoTの製品開発・量産体制に関する有意義な情報が載っています。

予想のつかない部分の方が多いですが、分かっているものからリストアップし管理するようにしました。
具体的にかかるコストとしては

  • 協力会社への業務委託費
  • 基板製造/実装費用
  • 部品購入費
  • 外装製造費
  • 組立費

これらから、量産した際に1台あたりにかかる費用(原価)を試算します。
そのためにはまず各費用を固定費変動費に分類する必要があります。
固定費とは生産台数によって左右されないものです。
今回でいえば 「協力会社への業務委託費」 が当てはまります。
他の費用は生産台数によって左右されるので変動費にあたります。

生産数500台、卸率100%、各費用を100万円と仮定して表にしてみると下記のようになります。

項目や費用はあくまでサンプルです

当たり前ですが、価格は最低でも変動費単価より上に設定する必要があります。でないと作るたびに赤字になってしまいます。
また、卸率100%として考えると「固定費/生産台数」の分も足すことで1台目の販売から製造原単価を回収することができます。
しかし固定費は生産台数によって増えることが無いため、価格が変動費より高ければいつかは固定費分の原価も回収できます。

では、いくらに設定すれば、何台販売することで原価を回収できるのでしょうか。いわゆる損益分岐点ですが、それは下記のようにすると可視化できます。

本体価格を製造原単価より低く設定した場合、2ロット目に入ってようやく元が取れます

各費用の見積もり

①基板にかかる費用
今回、基板製造/実装費用と部品費用は協力会社よりプロトタイプが上がってきた段階で見積れました。
今回は P版.com という基板製造・実装を行なっているサービスを利用し、web上で見積もりを取りました。

②外装にかかる費用
外装に関しては大きく分けて3つの手段があります

  • 3Dプリンター
  • プラスチック射出成形金型
  • 市販品のケース

プロトタイプでは3Dプリンターで作成しましたが、量産時はそれだとコスパが悪いので金型を作るか、既製品を使う必要があります。
500台程度では金型はコスパが悪いので既製品を使うことを想定しました。

法令の確認

利用する部品や技術が決まったら、それが国内で販売可能かどうか確認する必要があります(確認しながら部品・技術選定するというのが正しい手順ですが)。
具体的には

  • 技術基準適合証明、技術基準適合認定(いわゆる技適)
  • 電波法
  • 特許/著作権

などです。
これらに抵触してしまうと量産しても販売できません。
量産フェーズに入った後で気づいた場合大きく手戻りするので、徹底的に確認しましょう。
弊社では法務担当を通し弁護士様に確認していただきました。
今回の製品では技適や電波法に関しては認証済みのモジュールをそのまま使っていたので問題ありませんでした。
しかし Bluetooth 技術を使っているので BluetoothSIG という団体に製品登録をする必要がありました。
登録料が必要なのですがなんとその額 $8,000 😱
Typoではありません。約80万円です。

このように法規制や特許利用額など、プロジェクト自体の続行可否を左右する要素が詰め込まれています。
なのでプロトタイピングの時点からこれらを考慮する必要があります。
実はこれに気づいたのは量産直前で、問題の解決に中々苦労しました……。

関連: ESP32を用いたBLE製品をBluetoothSIGに登録した話

量産に入る前に……

ここまで来ると現実的に量産して販売可能かどうか、費用面・スケジュール面・技術面で判断が付くようになるかと思います。
そうなるといよいよ量産です。
が、何事もぶっつけ本番では失敗します。やり直しの難しいハードウェアなら尚更ですので、やはりまだまだやることがあります。

これらも書いていきたいのですが少し長くなりそうなので、今回はプロトタイピング編として一旦ここまでとさせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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