小児科オンライン 橋本直也氏「小児科医から社会に飛び出して、子どもたちとお母さんを守りたい」

Miki Kusano
Open Network Lab Blog
6 min readAug 26, 2016
小児科オンライン 代表 橋本直也氏

Open Network Lab(通称Onlab)卒業生にインタビューするLearn from Batch。
今回は、12期生の小児科オンラインを運営する株式会社Kids Publicの橋本 直也氏に取材をしました。

子どもたちの健康問題は、お母さんの孤独に結びつく

—サービスについて教えてください

小児科オンラインは、小児科医による医療相談サービスです。一般的なクリニックの診療時間外の平日18時から22時の空白の時間にお母さん達が手軽にスマホで直接小児科医に相談することができます。例えば、子どもの発達で気になることがあるけど、仕事の都合上クリニックに行く時間がない。そうした方々にとっても気軽な相談窓口になりたいと思って作っています。

— 小児科医になったきっかけ

子どもが好きというのが大きいです。小児科がどの科とも違う点は、その先の80年の人生に関われるということ。小児科は生まれた瞬間から15歳までが受診対象なんですが、病院での子どもたちとの出会いを通じて、その子たちの健康に関わり、その先の80年間の人生に関わることができる、未来に関われる医療として興味がありました。

— 病院勤務時代はどのような課題があったんでしょうか

病院で働いているときは、基本的に病気になった子ども達を必死に治療することに専念します。ふと「なぜこの子は、病気や怪我を負ってしまったんだろう」と考えたときに、小児科医ができることって病気になった状態を、治すことしかできない。そうじゃなくて、そもそもこの子たちが病院に行かなくても良い社会を作ることができたらもっといいんじゃないかなと感じました。要するに、元気な子どもを元気なままでいさせることができたら、と考えたんです。

それを大きく感じたのは、お母さんが手を上げた結果、傷ついてしまった3歳の女の子が搬送されてきたときでした。大腿骨が骨折していたんですけど、お母さんが救急車で連れてきて、「私が殴りました」と。そのときの僕はその子に痛み止めを打ったりすることぐらいしかできません。そして、この子がこうならないように小児科医として何ができるのだろうと考えました。子どもたちの健康を守るためには、まずお母さんを孤立させてはいけない。なぜお母さんが手をあげてしまったのか、という問題の上流を考えないと、子どもたちは傷ついて病院に運ばれ続けてしまう。子どもたちの健康を守るためには、外来で待っているだけではなく、病院を飛び出して子どもたちが生活している場所にどんどん関わっていく必要があると思いました。もしかしたらあのお母さんが、泣き止まない我が子を前に手をあげてしまう前にスマホを手にとって小児科医オンラインにかけて「泣き止まないんですけど」って相談していたら、手をあげていなかったかもしれない。家庭と小児医療の接点を増やすことで子どもたちの健康を守ることができるのではないかと考えたんです。

一人の医者で届く範囲を超えて影響を与えたい

— ITとの可能性を感じたのはどんなときでしょうか

大学院に行って、公衆衛生学という、どういう社会の枠組みで人の健康が決まって行くかという分野を勉強していました。そこでは、例えば貧困や家庭の社会的孤立が子どもたちの健康に関わっているということを勉強しました。そして、今度は自分でその状況を少しでも改善したいという気持ちが芽生えました。ちょうど、ウェブメディアを起業した友達が大学院の仲間にいて、そこで人生初めて起業する人を目の当たりにしました。自分自身もライターとして参加して、自分の記事が意外とバズったりして、会ったことない人に読んだことあるよとか言われたりすると社会に届いてるんだっていう感覚が初めて芽生えてましたね。ITやビジネスの歯車をうまく使うと、自分のやりたい、社会と小児医療をつなぐということが出来そうだなと大学院での出会いを通じて感じました。

— 小児科オンラインのアイディアが生まれたのはいつ頃でしょうか

去年の8月に厚生労働省が日本における遠隔診療の立場を明示した動きがあり、それを見て、自分のばらばらだった点が繋がりました。ITで家庭のレベルで、遠隔診療ができれば、小児科医として関われるなっていうのがもやもやが晴れた瞬間です。メディアという選択肢もありますが、相手のリテラシーに依存してしまって、正しく伝えることが少し難しい。リアルタイムで直接コミュニケーションをとるということは、それに代えがたい価値があると思います。ただ、まだ「診療」へのハードルは高いので、より自由が効き、小児科領域と親和性の高い「医療相談」という枠組みの中で今は運営しています。

— ビジネスとしての起業という形になったのはどうしてでしょうか

起業しようと思ったきっかけは、知り合いの起業を目の当たりにしたときに、ビジネスの推進力を借りることで、社会規模で何かすることできるんじゃないかと思ったことです。当時学んでいた公衆衛生学の分野でもビジネスのノウハウやマーケティングを学ぼうという流れがありました。ビジネスの人たちは人間の行動を分析して、購買行動に導くことが得意です。医療の分野も、禁煙など、人を健康に導く行動変容をもたらそうと試行錯誤していますが、なかなか苦戦しています。「行動変容」が得意なビジネスの人たちの思考をぜひ学び、実践したいと思いました。

会場からの投票でDemodayではオーディエンス賞を受賞

結局、僕らのゴールは、子どもたちが健康になることです。ビジネスの推進力を借り、毎年生まれる100万人の子どもたちとそのご家族に届いたらいいなと思っています。一人の医者が目一杯腕を伸ばして届く範囲を超えて社会規模で影響を与え、持続可能な体制を作りたいと考えたとき、ビジネスという方向になりました。

後半は以下からご覧いただけます。
「患者と向き合ってから8年、ヒアリングで見つけた新しい発見とは?小児科オンライン 橋本直也氏」

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