患者と向き合ってから8年、ヒアリングで見つけた新しい発見とは?小児科オンライン 橋本直也氏
Open Network Lab(通称Onlab)卒業生にインタビューするLearn from Batch。
今回は、12期生の小児科オンラインを運営する橋本 直也氏のインタビュー後編をお届けします。(前編はこちら)
医療は、ユーザー目線で考える視点が少し欠けている分野
— 8年間患者と向き合ってきた中で、ユーザーヒアリングは、発見と確認どちらが多かったでしょうか
どっちもありましたね。やっぱりそうだよねっていう確認のほうが多かった気がします。本当に8年間その人たちと話をしてきたので。ただ、医療ってユーザー目線で考えるっていう視点が少し欠けてしまいがちな分野だと思うんです。遠隔医療は、安全性さえ担保できればユーザー目線にたった一つのよい提案だと思います。例えば、「病院で一番何が嫌ですか」って聞いてみると、「待ち時間やその間で病気をもらっちゃうんじゃないかっていう不安です」という声を多く聞きました。こうした小児科に子どもを連れてくる親御さんの本音は、患者対医師の関係性では、なかなか聞けない意見だったので、とても興味深かったです。あと、自治体によって差はありますが、子どもたちの医療費は大体無料なんですね。だから、その無料を前提とした中で、どう有料の小児科オンラインを使ってもらうか、などは医者だけを続けていても考えなかったことですね。
— Onlabのプログラムに参加してよかった点を教えてください
まずは、ピア・プレッシャーが良かったですね。僕らのバッチ*は、これからMVPを試そうとしていた弊社と違ってもうプロダクトを持ったチームが多くて、いつも焦りを感じながら日々を過ごしました。それとプロダクト作りの考え方。ビジネスについて経験がなかったので、どこにニーズがあるか、ペルソナを徹底的に考えてっていうシード期にやるべき思考を教わったこともよかったなと思います。後は、ピッチですね。どういう風に話せば心に刺さるのかっていう点です。卒業した後も生きています。
ビジネスの世界は私には未知すぎて、はじめは臆病になっていたかもしれません。しかし、Onlabで指導に当たってくれた方々は皆、ソーシャルインパクトを重視する弊社のポリシーに共感し、尊重してくださる方ばかりで、安心感を感じました。モチベーションは人それぞれなので、いろいろなものがあっていいと思いますが、解決したい社会問題があって、それに貪欲に取り組むこともビジネスの世界では尊重されることを知り、僕もやれると思いました。
バッチ* プログラムの年度、学年のようなもの。Onlabでは春と冬に2度アクセラレータプログラムを実施
医療費は、無料じゃなくて実は誰かが払っている
— 現在取り組んでいることを教えてください
今は、とにかく営業に注力しています。今は個人向けの料金設定も提示していますが、本当は困っている親御さんからお金をとりたくないんです。なので、まずは法人の福利厚生や健康保険組合向けの営業に力を入れています。法人や組合が料金をもってくれることで、その社員や組合員で小児科オンラインを利用してくださった親御さんからはお金をとらないモデルを実現したいと思っています。
子どもが時間外に救急にかかると、実は6000円くらいかかるんです。でも、親御さんの窓口負担は0円、つまり誰かが6000円払ってくれているということ。この場合は、健康保険組合や自治体の医療費助成が払っていて、同じような仕組みでこのサービスを提供できればと思っています。
外来を受診する子どもたちの多くは、実は家で過ごしていても大丈夫な子です。ただ、親御さんは当然不安を感じ、判断ができずに外来を受診されます。判断材料として小児科オンラインを使っていただければ、親御さんの負担を減らし、医療費は適正化されて健康保険組合の負担も減り、現場の小児科医も疲弊しない、三者にとって利益がある構造を作れるのではと思っています。
— 個人以外で利用を想定しているところはありますか
保育園ですね。働くお母さんが増えて200万人以上の子ども達が保育園に通っていますが、まだ保育園と小児医療の関係が希薄なまま、保育園の箱だけが増えています。保育士さんはそこでの子どもたちの健康状態に対して不安をかかえながら業務にあたっています。なので、そこで小児科医に相談できる安心ホットラインがあると嬉しいという声がありました。こうした形で、病院で子どもたちを待つのではなく、子どもたちがいる場所に小児科医がいる社会を実現したいと思っています。まずは着実に実績を積み上げていき、将来的に自治体と契約して社会サービスとしてみなさんに届けたいと思っています。
これがやりっぱなしの事業に終わることなく、本当に子どもたちの健康に貢献できたという結果を示すことが会社の理念の一つなので、これまでの実績をまとめて学会発表の準備をしています。小児科に特化した遠隔医療相談を日本でやってみたら、こんなことができて、こういう結果がでました、という結果をまとめています。
— 今後の展望をおしえてください
僕らは、親御さんからも小児科医からも評価される小児科オンラインになっていきたいと思っています。そのためには、プロダクトを磨くことはもちろん、学会発表などのアカデミックな活動も行って、きちんと健康への貢献を表していきます。ユーザーが増えました、おしまい、では不十分だと思います。このサービスがあることで本当に親御さんの不安に寄り添い子どもたちの健康の向上に貢献できたのか、そのソーシャルインパクトも評価すべきだと思っています。例えばそれは不要不急の救急外来受診の減少などで測定できるかもしれません。産学連携で本当に社会になくてはならないインフラを作っていく、これが僕らがこの事業をやる意味だと思っています。