未来の金融 Ⅲ

〜元ヘッジファンド・ポートフォリオマネージャー、ゴールドマンサックス為替トレーダーがみるWeb3.0の世界〜

Kenji Mitsusada
Secured Finance
Published in
Mar 29, 2022

--

本稿は、未来の金融 Ⅱ 第二章 情報の不均一性に潜む金融の光と闇 の続きです

第三章 非中央集権型の金融 -Web3.0が実現する未来の金融 (1)

「仮想通貨」と初めて聞いたとき、どういった印象を持っただろうか。私は「また怪しいのが来たな」だった。仮想の通貨ということは現実ではないという事になる。「ブロックチェーン」は革新的な技術だと学んだが、「NFT」、「ICO」、「億り人」などと世間を賑わせていても、飛び込もうとしてこなかった。なにしろ怪しい気がしていたからである。そして、知らないものや新しいものに対して、懐疑的に接するのは当然である。重要なのは、前章でも触れたが、しっかりと理解する事である。

では最近、巷を賑わせている「Web3」はどうだろうか。

Photo by Shannon Potter on Unsplash

Webの歴史

Web3は、一部で大流行しているキーワードである。Wikipediaを見ていただきたいのだが、、、さっぱり何を言っているかわからない。そこで、ここに自分なりの解釈を書いていきたいと思う。

その前に、インターネットとWebの違いはご存じだろうか。簡単にいうと、インターネットというのは、世界中に張り巡らされた通信網のことで、Web(World Wide Web)というのはネット上のコンテンツや情報を繋ぎ、閲覧できるようにする仕組みである。

そもそもインターネットというものが一般的に使われるようになったのは最近のことである。元来軍事用に、できる限り迅速に情報を伝達させるという需要があった。戦国時代の狼煙がいい例であろう。狼煙は、人や早馬を走らせるよりも効率的に危機を伝える効果があった。直って「Web1」というのは、ネット上に書かれたものを「タイムリーに読める」という大発明であった。

それを進化させて、読むだけではなく、書き込んだり主張したり、相互でコミュニケーションできるようになったものが、現代社会で活用されている「Web2」である。掲示板から始まり、ブログなどを経て、大規模なネットワークを生み出してきた。そこに産まれたのが、巨大テクノロジーカンパニーである。広告というビジネスモデルを基に無料で使える各種サービスを提供し、大きな利便性を生み出してきた。代表的なものをあげればFacebookやTwitterなどのSNS、Google、アマゾンやアップルなどのプラットフォーマーと言われる企業群である。

Photo by James Yarema on Unsplash

Web2.0の弊害

Netflixのドキュメンタリー作品、「Great Hack」と「Social Dielenma」をご存知であろうか。米国発の巨大テクノロジーカンパニーが、どのように大きくなり、どのように世界を支配しているかという話である。GoogleやFaceBookのサービスが始まった頃に、なぜ無料でこんな便利なものを提供できるのか、消費者から対価を受け取っていないのに企業価値がこんなに高いのはなぜなのか、と不思議に思ったものだ。日本では「ただより高いものはない」という格言があるほどだ。詳細には触れないが、いずれも中央集権的にテクノロジー企業にデータが集まっていることにより、現実社会に染み出している悪影響を主題としている作品である。知らぬ間に世界は革新的な進歩を遂げており、次世代を担う子どもたちを正しく導くためにも試聴をお勧めする。

さて、メディアは今も昔も群集心理を上手に操ってきた。新聞やラジオ、テレビのワイドショーやニュースなどを巧みに活用して、大衆を誘導しているのである。それがSNSに変わっただけとも言えるのだが、問題はその正確性と進歩の速さである。日々ユーザーからのデータを吸い上げ、蓄積し、分析することによって、思考や嗜好を捉え、アプリ中毒にする。さらにはフェイクニュースの拡散や、海外からの政治的干渉、ヘイトの増長を通して社会の分断を煽るなど、プラットフォームを提供している会社ですら把握、対応できないほどのスピードで問題は進行している。映画の中にあるのだが、1970年代のコンピューター黎明期に比べて、現代のパソコンの処理スピードは1兆倍になっているという。一方で我々の脳みそはどうだろう。おそらく変わっていない。気づかないうちに我々はAIに支配されているのである。

Photo by Shubham Dhage on Unsplash

Web3とは

「世界で最も価値のある資源は石油ではなくデータだ」とThe Economist誌が指摘したのは2017年のことだ。そのデータを独占し、肥大化した巨大テクノロジープラットフォーマーへの批判は大きくなってきている。同時に、世界各国でこういった企業への規制を強化しよういう動きが加速している。

ここでビックデータをどのように使用しているかという「透明性の欠如」や「所有権の曖昧さ」から解放されるためのキーとなるのがWeb3である。

ではどうやって?

まずは「分散化」。ブロックチェーン技術を利用することにより、個人情報を個々人が保守管理する。データをビッグテック企業から個人に取り戻すことによって、先に挙げた弊害から解放される。また、今までのように、ある企業が中央集権的にデータを集めて管理していた場合、ハッキングによって簡単に情報を抜き取られてしまったり、またそのサーバーがダウンした場合にサービスが使用できなかったりするのだが、そういった心配からも解放される。

次に「検証可能性」。ブロックチェーン技術の革新性の一つに「トラストレス」というものがある。これはチェーン上に書き込まれた過去のデータは改ざんが不可能であるため、検証も追尾も簡単にでき、安心して取引できるというものである。

そして「自己所有」。先にも述べたが、Web3ではチェーン上に保存されている検証可能な個人情報や個人の作品は個人で管理できる。逆に言うと、現在YouTubeやFaceBookやTikTokなどのプラットフォーム上に作成したあなたの作品はプラットフォーマーが所有しており、何らかの理由でアカウントを封鎖されてしまうと取り戻しようがないのである。

最後に「経済合理性」。自己所有しているものを自らのために活用し、今まで搾取されていた手数料を直接個人が稼ぐことが可能となる。

長々と書いてしまったが、まとめるとWeb3とは、インターネット上での閲覧の仕組みを既存のものから刷新していきましょうという動きである。なぜ変えてゆく必要があるかというと、Web2で知らぬ間に抜かれていた情報やプライバシーを、プラットフォーマーから個々人の手に取り戻し、それらを安全に、簡単に、効率よく自分のために活用できる世界にしてゆきたいからである。そしてWeb3というのはそれを実現する技術であり、概念であり、方向性の事だと考えている。

ではその次世代のWeb3の技術を活用してどのようなプロダクトを作っていきたいかは次回に説明したい。

--

--

Kenji Mitsusada
Secured Finance

Head of Markets @ Secured Finance. 18 years of interest rate derivatives trading experience. Former Co-Head of G10 FX Forwards and STIR Trader at Goldman Sachs