未来の金融 Ⅱ

〜元ヘッジファンド・ポートフォリオマネージャー、ゴールドマンサックス為替トレーダーがみるWeb3.0の世界〜

Kenji Mitsusada
Secured Finance
Published in
Jan 31, 2022

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本稿は、未来の金融Ⅰ 第一章 金融機関の近代史 -100年に1度の危機がもたらした変化 の続きです

第二章 情報の不均一性に潜む金融の光と闇

金融業の根幹は、サービス業である。物を作ったり、売ったり、運搬したりするのではなく、預かっているお金を元に必要な人々にサービスを提供し、手数料として費用をもらっている。人間で言うと血液を回すポンプ、心臓のような役割を果たしていると言えようか。無論、預金と融資からの利鞘稼ぎだでは生き残っていけないので、リサーチや自己勘定取引やM&A、アドバイザリー業務など、さまざまなことを行なっている。

ではどうしてそんなに儲かってきたのであろうか。理由の一つは’情報の不均一性’にあると考えられる。

錬金術

前項でも触れたが、2000年代初頭は世界的な景気停滞期であり、米国は金利を段階的に引き下げていた。投資家は収益率の悪化に喘いでおり、高金利を稼げる商品を渇望していた。その需要を埋めるように、証券会社は金融派生商品(デリバティブ)という、中身の見えにくいものを次々に世に送り出していった。
大抵の人は、霊媒師を名乗る人物から高額な壺を勧められても買わない。一眼で詐欺だとわかるからだ。一方で、数学者が組成した中身がわからない新たな金融商品は、耳障りもよくできているし、儲かりそうだから買ってしまう。日本でも一時期流行った、タコ配と言われる投資信託などは良い例だ。高配当がもらえているので儲かっているように勘違いしがちだが、蓋を開けてみると実際は払った原資から取り崩しているだけだった。

デリバティブ商品と言っても多岐にわたるし、顧客に適したお互いがWin-Winになるような商品も無数にある。むしろそういった発想から元来は組成されたものである。しかし一方で、中身が見えずらい、もしくはリスクに対しての説明を十分にしないまま販売するようなケースもあったであろうことは容易に想像がつく。と言うのも、資本主義のど真ん中にある金融機関で働いている以上、収益を上げられないと無価値と見なされ実際にクビになるため、ウォール・ストリートの営業マンは短期的な収益をとことん追求する傾向にあったためだ。

政府の介入と規制の波

資本主義を野放しにしていた結果がリーマンショックであるならば、アダムスミスの市場経済論は間違っていたことになる。自動調整機能が成り立たず、失業者を大量に産み出してしまったのだから。そして歴史は繰り返す。バブル崩壊の後には政府の介入無くして早期の回復は望めないのであった。
100年に一度と言われる金融危機に直面した世界の中央銀行は、金融機関救済のために、大規模な資本を矢継ぎ早に注入し、セーフティネットを形成。公共事業なども同時に増やし、経済の下支えに奔走した。その甲斐あって、世界は徐々に回復してゆく。そして同時に、原因究明を進め、再発防止のために金融規制を強化していった。金融機関への自己資本比率や情報開示義務の厳格化、流動性要件の追加、毎年のストレステストなどなど、世論の後押しもあり規制強化は年々エスカレートしていく一方であった。中でも米国のGSIB(Global Systemically Important Bank)と呼ばれる銀行群に対する要件は熾烈を極めた。現場で働いていた人間からすると、規制がエスカレートしすぎたことによって、銀行間での流動性が枯渇するような事態が頻繁に起こるようになり、顧客にも悪影響が及んでいたのは本末転倒に思えたものだ。
ちなみに、この度のコロナ危機に対する中央銀行の適切かつ迅速な対応は、先のリーマンショックを経験していた賜物であろう。

新たなスキャンダル

’情報の不均一性’と先ほど述べたが、要は知っているか知らないか、中身が開示され、正しくリスクを理解されているかどうかである。規制当局は過去の履歴なども洗いざらい調べ上げ、金融機関へ罰金を次々に課して行った。その一環で明るみに出たものの一つが、当時国際指標金利として使われていた’LIBOR’の不正操作疑惑である。端的に言うと、一部の銀行が結託して、銀行側が儲かるようにベンチマーク金利を恣意的に決めいていたという、あるまじき事件であった。結局、LIBORは2021年末でほぼ全面廃止へと追い込まれた。

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こうしてリーマンショックを境に、規制・監督が厳しくなり、それに伴い過去の悪行が明るみに出てしまった金融機関への風当たりは強くなってゆく一方であった。前項でも触れたが、インターネットの普及、貧富の差の拡大などと相まって、憎悪が憎悪を生み、’ウォール街を占拠せよ’運動などに発展していった。

方向転換

私が勤務していたゴールドマン・サックスも例外ではなかった。相次ぐ訴訟・罰金・和解金に収益を圧迫され、段階的に人員整理が敢行された。景気が底打ちした後も、マーケット部門に昔のような羽振りの良さが戻ることは決してなかった。毎年恒例だった盛大な年末のパーティーなども、この頃以降、開催されなくなった。

マーケット部門では、淡々と人員とコストが減らされていったし、業界全体として、マーケットメイカーのリスク許容度が大幅に削減されていった。
一方で、採用を加速させている部署が二つあった。それは、「IT部門」と「コンプライアンス部門」である。2017年には、社内のエンジニアの割合が4人に1人になったと報道されていた。

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Kenji Mitsusada
Secured Finance

Head of Markets @ Secured Finance. 18 years of interest rate derivatives trading experience. Former Co-Head of G10 FX Forwards and STIR Trader at Goldman Sachs