【読書感想文】「ついやってしまう」体験のつくりかた

人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

tamagar
Shibuya design engineering
7 min readOct 18, 2019

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こんにちは tamagarです。
今回も渋谷デザインエンジニアリングギルドもくもく読書会の取り組みとして、読んだ本について書いてみたいと思います。

デザインエンジニアリングと言いながら、読んでいる本はUX関連ばかりだなあとは思いつつ、気が向いたときに探してみるのですが、デザイナー向けに書かれたエンジニアリング本ってあんまりない気がするんですよね。エンジニア向けのデザイン本はちょいちょい見かけるんですが。

次回があれば「デザイナーが読むエンジニアリング本」というテーマで選んでみても面白いかも知れないなーと思ったので、何かオススメがあれば教えてください。

さて話題が少しそれましたが、今回の本です。

読んだ本

発行年月:2019年08月
玉樹 真一郎 著
ついやりたくなる、つい夢中になる、つい誰かに言いたくなる。この「つい」こそが体験デザインの持つ力。人の心を動かし、人に行動させてしまう仕組みと仕掛けを、元任天堂の全世界1億台を売り上げた「Wii」の企画担当者がわかりやすく解説。企画・開発・マーケティング・営業等、幅広く役立つ体験デザイン(UX)入門

なぜこの本を手に取ったか

  • 元任天堂の人が書いたという評判のUX本なので

前回の記事でも触れましたが、任天堂のUXの考え方には個人的にかなり感銘を受けているので、これは読まねばいけないやつ、とさっそく購入しました。

どんな本だったか

内容に触れる前に、まだ読む前の方にご注意です。

本書自体が、「この本を読む体験」を設計して書かれているため、できたら予備知識ゼロで読むのをオススメします。

また、私はKindle版で読んだのですが、「ページをめくる」動作を想定した体験設計がかなり入っているため、本書の本領を体験しきれなかったのでは、とちょっと残念に思っています。
もしこれから購入を考えている方は、実物の書籍を手に取る方がオススメかも知れません。

さて、著者の玉樹真一郎さんは、任天堂で「Wii」のハードを作った方です。
コンシューマゲームは「ハード側の物理UIもゲームUXに関わるはずだ」との考えから、ハード開発のためにソフトの面白さを研究した考察がこの本に詰め込まれており、開発者視点よりはプレイヤーに近い目線でゲームのUXを分解しています。

1〜3章で、「つい」の正体を、「直感のデザイン」「驚きのデザイン」「物語のデザイン」と分類し、それぞれ、『スーパーマリオブラザーズ』と『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『ドラゴンクエスト』シリーズ、『ラストオブアス リマスタード』と『風ノ旅ビト』といった人気ゲームの具体的なシーンを取り上げて解説しています。

第1章 人はなぜ「ついやってしまう」のかで取り上げられている、スーパーマリオブラザーズ 1–1の「クリボーに出会うまで」の部分は、本書以前にもかなりあちこちで取り上げられている話なので、少しネタバレですが図にしてみました。

  1. スタート画面のビジュアルがすべて「右へ行く」ことを示している(=シグニファイア)
    → プレイヤーに仮説を立てさせる
  2. コントローラーには右に行けそうなボタンがある(=アフォーダンス)
    → プレイヤーの行動を促す
  3. 右へ進むとクリボーと遭遇する(本書では言及されてないけどこれはインタラクションですね)
    → プレイヤーに確信させる

この設計でプレイヤーに「自発的に体験させる」、そして3つのサイクルを繰り返すことで直感が当たった喜びを「何度も体験させる」、その結果プレイヤーは「このゲーム面白い!」と評価する — — これを著者は「直感のデザイン」と呼んでいます。

本書では詳しく触れられていないスーパーマリオの1–1に詰まったその他の様々な仕掛けは下記の記事などでも読むことができます。

第2章 人はなぜ「つい夢中になってしまう」のかでは、ドラゴンクエストシリーズでおなじみの「ぱふぱふ」とはなんなのか? を中心に「驚きのデザイン」の手法について、第3章 人はなぜ「つい誰かに言いたくなってしまう」のかでは、ゲーム媒体ならではの手法による「物語のデザイン」について種明かしされており、これ以降についてはぜひ実際の書籍で読んでみてください。

読み終えて

ちなみにワタクシ、2年ほど前まで5年間ほど、いわゆるソーシャルゲームのUIデザイナーをやっていた経験があります。

実のところ私自身、どちらかと言えばゲームリテラシー低い側の人間なので、何の因果かゲームUIを作らねばならなくなったときはかなり面食らいました。しかし今となっては「ゲームUI/UXを経験せずしてUI/UXを語るな」とちょっと心の中で思うぐらいには、面白かったし、難しかったし、大変だったし、勉強になるものでした。

ゲームUIの経験で一番感じたのは、ゲームを目の前にしたゲームプレイヤーと、その他多くの場合とでは、初期モチベーションの違いがかなり大きいということでした。
考えてみれば当たり前なのですが、ゲームのスタート画面まで辿り着いている時点で、ゲームが好きで、これはどんなゲームだ、さあ今から楽しむぞ、といった感じでその画面を見ているわけです。それにより、情報収集に対する感度が通常よりも高いのです。

ゲームのUI/UX設計が面白いのは、このユーザーモチベーションによるところがかなり大きく、特に本書の中で説明されている「初頭効果」に関して、ゲームとその他の場合で同じ想定をしたのでは、かなりギャップのある結果になるのでは、と感じました。

また本書のようにわかりやすく理論的な解説をされると、UXとはこのように計算高く設計するものと思ってしまうかも知れないですが、この理論にたどり着く裏ではおそらく何百回、何千回の泥臭いテストプレイが行われたはずです。

理論はあっても理論だけでUXは完成しない、必ずユーザーテストや試行錯誤が必要になる、と心に留めておきたいところです。

終わりに

前回の記事で取り上げた本「デザインはストーリーテリング」と、重複する部分が多かったのが印象的でした。
「強く感情が動いた体験が記憶に残る」、英雄の物語(ヒーローズジャーニー) 、ゲシュタルト、アフォーダンス、などなど。

あとがきによると、出版にあたり1/6まで内容を削ったとのことで、掲載できなかった件が何かの形で公開されるのを期待して待ちたいと思います。

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