急成長するスタートアップのアイデアは「狂ったアイデア」でなければならない

スタートアップは急成長を目指す組織です。では「急成長するスタートアップのためのアイデア」とはどのようなものでしょうか。

(※このエントリは以下のものの一部です)


良いビジネスアイデアは「課題」「解決策」「市場規模」

そのためにはまず、良いビジネスのアイデアのことを考えるところから始めます。スタートアップに限らず、成功するビジネスのアイデアはおおよそ「顧客の課題に対する解決策を提供し、その対価を十分に得られるアイデア」と言えるのではないでしょうか。

一言で簡単に書いてしまいましたが、ここでは難しい条件が 3 つ含まれています。

一つ目は顧客の課題の存在です。

クリステンセンが言うように、顧客は顧客のジョブを代わりに解決してくれる解決策に対して費用を支払います。そこには顧客にとっての課題、たとえば面倒な仕事を避けたいという思いであったり、作業の時間を短縮したいという願いであったり、あるいはゴキブリの駆除といった本当に嫌な仕事を代わりにやってほしい、といったような課題が存在します。また他にも、誰かと繋がりたい、適切な距離感で他人とコミュニケーションしたい、という欲望もまた課題と言えます。

課題がある、まだ課題として残っている、というのがアイデアの前提となっています。課題がなければ顧客も存在せず、顧客がいなければビジネスは成立しません。

スタートアップにとっては残念ながら、多くの分かりやすい課題は人類の進歩によって解決されてしまっています。もちろん人類の進歩によって新たな分かりやすい課題が出てきていることもありますが、喜ばしいことに(あるいはスタートアップをはじめようとしている人にとっては悲しいことに)わかりやすい課題にはすでに様々な人が取り組んでおり、そしてある程度適切な形で解決されている場合が多いです。

二つ目は、課題が適切に解決できるかどうかです。

良い課題を見つけても、解決できなければ意味がありません。まったく新しい課題を見つけない限り、課題は前から存在しています。そしてその課題がこれまで解決されてこなかったということは、解決するには何かが足りなかった、ということを意味しています。

課題が課題として残っているのは、解決策が見つかっていなかったからという可能性があります。あるいは解決策があったとしても、高価すぎて多くの人々にとっては未解決のままだったのかもしれません。

多くの場合、解決策には新しいテクノロジーが必要になるのはこのためです。テクノロジーの進歩はまったく新しい解決策を提供してくれたり、あるいはその価格を大きく下げるようなことが可能です。

エンジニアがスタートアップに向いているのは、新しいテクノロジーに触れる機会が自然とあり、新しいテクノロジーでいつの間にか解決できるようになっている課題に気づきやすいからだと言えます。

三つ目は、その対価を得られる、という部分です。これは市場規模の問題とも言えます。

そもそも、ささいな課題を解決しても顧客は対価を払ってくれません。対価を払ってくれなければ、企業は成長も存続もできません。だから、顧客がお金を支払おうと思う程度の大きさの課題があり、支払っても良いという金額の範囲内で、その課題が解決できることが必要です。

そして企業を維持可能な程度の市場規模がある必要があります。たった一人の顧客が数万円しか払ってくれない課題と解決策では企業を存続させることはできません。

なので十分な市場規模があるビジネスになる必要があります。その場合ビジネスの形態としては、大きな課題に対して大きな金額を払ってくれる少数の顧客がいるか、中程度の課題に対して中程度の金額を支払ってくれる中程度の顧客がいるか、小さな課題に対して小さな金額を払ってくれる多数の顧客がいるか、になるでしょう。

こうした三つのポイントを満たすアイデアが、「良いビジネスのアイデア」の最初の条件であると言えます。

そしてこれらの条件が揃った上で、多くの人が欲しがり(つまり大きな市場規模があり)、そして解決策を欲しい人全てに届けることができる(つまりスケールすることができる)、というところを目指す必要があります。

しかし、こうした良いビジネスのアイデアを思いつくのが難しいから、多大な資源を持つ大企業ですら、新規事業のほとんどが成功しません (ある調査では新製品の 40–90% が失敗すると言われています)。

「良いビジネスアイデア」=「良いスタートアップのアイデア」ではない

では「良いビジネスのアイデア」=「良いスタートアップのアイデア」と言えるでしょうか。残念ながらそうではありません。

上述のような条件を満たす「良いビジネスのアイデア」は世界中の賢い人たちが考えていて、誰もがその実現に尽力しています。そして賢い人たちの多くは大企業で働いています。大企業はそうした多くの人的資源のほか、資金的、時間的資源を持っており、良いアイデアに対して彼らが取り組み始めれば、恐ろしい勢いで追いかけ始め、そして大量の資源を投下してスタートアップを追い詰めることになります。それは Netscape のビジネスが Internet Explorer の登場によって破壊されたように、です。

「良いように見えるアイデア」は残念ながらスタートアップ向きのアイデアではありません。

良いスタートアップのアイデアは狂っている: 3 つの特徴

では良いスタートアップのアイデアと良いビジネスアイデアの違いはなんでしょうか。

良いスタートアップのアイデアが異なる点は「悪いように見えて、実は良いアイデア」、つまり「狂ったアイデア」であるかどうか、という点です。狂っているように見えるので、大企業は手を出したがりません。仮に気付けたとしてもなかなか企業内の承認が下りません。その陥穽こそがスタートアップが狙うべきアイデアです。

狂っているアイデアは以下の 3 つのうちのいずれかを特徴として持っています。

1. 市場規模が無視できるほど小さい

まず一つ目は、「市場規模が無視できるほど小さい」マーケットであるということです。

しかしただ小さいだけではなく、今後急成長するであろうマーケットを狙う必要があります。小さいマーケットに参入できる企業はそう多くありません。スタートアップは小さなマーケットでも生き延びることができ、そしてそれが急成長するマーケットであれば、マーケットの成長に従ってあなたのスタートアップも成長します。

たとえば Apple は 50 台のコンピュータを自分たちで組み立てて売るところから始まりました。それでも二人の創業者が生きていく分には十分な稼ぎでした。同じことを大企業はできません。人件費が高い上、様々な制約があるため、そうした小さい市場への参入は承認が下りないでしょう。

2. 従来の社会的規範や慣習に反する

二つ目は、従来の社会的規範や慣習に反する、という特徴です。しかし徐々にその規範が変わりつつある状況である必要があります。

たとえば Airbnb は自分の家のソファを他人に貸す、という、従来の社会的規範に反するところから始まりました。社会的規範に反していれば、大企業の参入は後手に回らざるを得ません。そして社会的規範が変わりつつある、というのは顧客に近いスタートアップだから気づけることです。

3. 他人の知らない秘密を自分だけが知っている

三つ目は、他人の知らない秘密を自分だけが知っている、という特徴です。

上記の社会的規範が変わりつつあることを知っている、というのはその一例になります。そのほかにも、顧客の課題にいち早く気づいているとか、あるいは解決策の新しい作り方を知っているとか、ほとんどの人が信じていないけれど自分だけが信じていること、といったような「秘密」があります。

たとえば Google は、Yahoo! など他の企業がポータルサイトの中でいかに顧客を巡回させるか、というところにフォーカスしている時期に、「Google で精度の高い検索してすぐに Google のサイトから離れてもらう」という全く異なるビジネスを立ち上げました。彼らだけが「顧客はもっと早く目当てのページにたどり着きたいという課題を持っている」ということに気づいていて、それを信じ、課題に対する解決策を誰よりも早く提供できたのです。

スタートアップのアイデアは以上のように、悪いように見えて実は良いアイデア、つまり狂っているアイデアである必要があります。それ以外のアイデアでスタートアップをした場合、多くの場合大企業やほかの企業との競争に巻き込まれることになります。なのでビジネスコンテストなどで誰もが賞賛するアイデアは、スタートアップ向きではなく、大企業や政府などで豊富な資源にものを言わせて実施するべき事業なのかもしれません。誰もがその重要性を理解できないような、そんな狂ったアイデアこそがスタートアップがやるべきアイデアです。

ただ注意しなければならないのが、悪いように見えるアイデアの大抵はただただ単純に悪いアイデアである、ということです。悪いように見えるからといって、それが即スタートアップにとって良いアイデアであるとは思わないでください。多くの悪いように見えるアイデアには顧客がつかないでしょう。しかしもし、ほとんどの人は分かってくれないものの、そのアイデアを買ってくれる熱狂的な顧客が複数人見つかれば、それはもしかすると「悪いように見えて良いアイデア」の可能性があります。狂っているアイデアを見つけたと思ったら、まずは顧客を探しましょう。それも熱狂的になってくれる顧客を、です。

狂っているアイデアは最初おもちゃのように見える

狂っているアイデアをもとに作った解決策は最初、おもちゃのように見えます。ビジネスにはならなさそうで何の役にもたたなさそうで、だけど一部の人が熱狂しているような、そんなおもちゃのようなアイデアです。

狂っていれば狂っているほど、誰もがそのアイデアを理解できないでしょう。誰かに話しても納得してもらえず、時には嘲笑することもあるかもしれません。しかし、当時はなんの重要性も感じられず、ただただ面白いというだけのものが世界を何度も変えてきました。パーソナルコンピュータもその一つです。

たとえば Microsoft は Altair 8080 というオモチャのようなコンピュータに Basic を提供するところから始まりました。Facebook はお金を落とさない貧乏な大学生同士のストーキングツールとして始まっています。最初、これらはビジネス畑の人から見ればただのおもちゃとして認識されていたことでしょう。けれど、だからこそ、両社ともに時代の寵児となったと言えます。(学生のスタートアップの強みと弱みも参照してください)

これをうまく表現しているのが、クリステンセンのイノベーションのジレンマです。イノベーションのジレンマにおいて、ハードディスクの事例を用いながら指摘されている、「ジレンマ」を引き起こす 2 点を簡単に振り返ってみます。

1点目は、大企業が顧客のニーズに合わせて技術を進歩させていく、ということです。これは当然のことです。これを持続的イノベーションと呼んでいます。しかし持続的イノベーションを続けていると、ある時点で多くの顧客の求める性能を超えてしまいます。一方で従来の製品の価値を破壊するかもしれない、まったく新しい価値を持つ破壊的イノベーションが生まれてくるときがあります。破壊的イノベーションは「最初はおもちゃだと思われていたような」安価な製品、あるいは一部の限定的な用途でしか使えないような新しい製品として最初は世に出ます。これを技術の改善によって多くの顧客の求める性能をある時点で超えて、その結果破壊的イノベーションによって作られた製品が持続的イノベーションによって作られた製品のシェアを奪っていく、ということです。

2点目はそれが構造的に避けられない、という点です。大企業は大口の顧客のニーズに合わせて自社の技術の性能を改善していきます。そして一部の用途にしか使えない製品は小さな市場規模にしかならず、組織を維持する上ではそこを狙うメリットはありません。ましてや安価な製品を出そうものなら、主流の高額な製品の売り上げを食ってしまい、デメリットにすらなります。なので大企業は論理的な思考の帰結として、新しい市場を無視せざるをえません。また新しい市場は不確実性が高く、本当に大きな市場規模になるのかどうかわからないので、組織としてそこを狙うという判断になりにくい、という点もあります。

つまり、大きな組織の能力のメリットそのものが破壊的イノベーションの前では無能力の原因となる、ということです。だから大企業にはジレンマが発生します。

スタートアップにはそのようなジレンマは発生しません。むしろそのジレンマが起こる場所こそがスタートアップが攻め込む領域であると言えます。

タイミング

これらを総合して、人は「スタートアップにはタイミングが重要」と言います。テクノロジーが揃い、社会的規範が変わり始め、そして誰も気づいていない秘密に気づいて、今はおもちゃのように見えるすごいアイデアを持っている。そんなタイミングがスタートアップをするべきタイミングです。

そして誰も気づいていないうちに、そのアイデアを実装できるチームが揃っているかどうか、というタイミングも重要です。大企業が「悪いように見えて実は良いアイデア」に気付く前に、スタートアップが自分たちのプロダクトを出して、そしてビジネスの基盤を固めてしまえるかどうかがスタートアップの成功を決めます。なので多くの場合、スタートアップは迅速にプロダクトを作るために、共同創業者を必要とします。

あなた自身の狂ったアイデアを見つけるために

ではそのような狂ったアイデアを見つけるにはどのようにすれば良いのでしょうか。それには大きく3つの方法があります。

1. 自分自身の好奇心に従って学ぶ

一つ目は「自分自身の好奇心に従って学ぶ」というものです。そうすれば、まだ誰も気づいていない狂ったアイデアに気づくことができます。

まず秘密を知るためには、顧客の課題に対する深い理解か、解決策に対する専門性が必要です。それを知るためには、誰よりもその分野について詳しくならなけれなりません。そしてその分野について詳しくなる、という好奇心が必要です。Google の創業者二人が Google を作れたのは、彼らが運が良かっただけではなく、彼らの専門性が検索エンジンだったからです。

またTwitter の創業者であり、シリアルアントレプレナーである Evan Williams は、まず最初に Blogger というブログサービスで成功し Google に売却、次に Twitter というマイクロメッセージングサービスを立ち上げ大成功を収め、そして今は Medium というテキストディストリビューションのスタートアップを運営しています。彼の始めたスタートアップは、すべてテキストでの情報流通に関するスタートアップである、という点で一貫しています。その時々の状況に合わせてサービスの内容は変えていますが、彼の好奇心がテキストにあるのは明白です。

好奇心をもって動けば、そうした専門性が身につくだけではなく、様々な体験が可能です。そして体験は洞察を与えてくれ、それがまたスタートアップのアイデアへとつながります。また好奇心があれば、スタートアップに立ちはだかる様々な艱難に対して、勇気を持って対応できるはずです。

2. 同じ好奇心を持つ、頭の良い人たちの周りにいる

二つ目は「同じ好奇心を持つ、頭の良い人たちの周りにいる」というものです。なぜなら正しく狂っているとは、未来を生きている、ということだからです。頭の良い人たちの多くは未来に生きており、彼らが今週末にしていることが10年後の普通になります。たとえば登場当初のコンピュータやインターネットは、頭の良い人たちが週末に遊んでいたプロジェクトでした。

そしてもしあなた自身が正しく狂っていて、未来を生きているのであれば、自分自身が欲しいものを作ればいいのです。そこには明確な課題があり、顧客がいて、そして今後急成長する市場があるはずです。あなたが未来に生きていて、未来には普通になっていると思うのに現在に足りないと思うものがあれば、それがスタートアップにとっての良いアイデアです。そして頭の良い人たちの周りにいれば、良い共同創業者を見つけることもできるでしょう。

3. 何かを誰かと作る

三つ目は「何かを誰かと作る」というものです。大それたものでなくても、ただ自分が興味のあるものを作りましょう。作ることを通して様々な新たな気づきを得ることができますし、それに新たな課題を発見するかもしれません。

Facebook も Twitter も自分が楽しいと思うサイドプロジェクトから始まりました。今をときめく Slack も、ゲームを作っている途中でサイドで作られたものです。何かを作ることで自分の本当に欲しかったものに気づくことがあります。

だからスタートアップをするためのアイデアを見つけようとするのではなく、あなたの好奇心に従って学ぶこと、ただそれだけが狂ったアイデアを見つける方法だと言えます。

まとめ

良いスタートアップのアイデアは、課題、解決策、市場規模という三つの良いビジネスのアイデアの条件を満たした上で、さらに狂っている必要があります。そうしたアイデアを見つけるには、あなたの好奇心にしたがって学び、そして誰かと何かを作ることです。

最初はおもちゃのようなアイデアに見えるかもしれず、また誰もがその可能性を信じてくれない厳しい時期が続くかもしれません。それでも自分自身の好奇心からくるものであれば、きっとその厳しい時期を耐えられるはずです。そしてその好奇心からくる顧客や解決策に対する専門性が、スタートアップにとっての唯一無二の競争優位性となります。

参考文献

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