ラオスコーヒーの故郷

Akihiko Satoda
Tail Lab
Published in
9 min readFeb 6, 2018

ラオスの人口の8割は農村部に生きるという。農村民の生活や信仰文化に根付いている農業は、熱帯では珍しくない、森と農地を循環させる焼畑農業(移動農業)だ。しかし、この継続性を危うくする森林破壊がこれまで問題化してきた。

森林破壊の要因は何も焼畑農業と決まったわけではなく、インドシナ戦争中の米軍の空爆、社会主義政権のコメ自給政策に基づく開拓といった固有の事情から、人口増や市場経済の浸透、海外資本によるプランテーションの流入、都市インフラ開発のための伐採のような一般的な背景までの複合的なものだ。

しかし、この問題認識の過程で専らスケープゴートとされたのは、人々の暗黙知が営んできた焼畑農業だった。一度は焼畑農業撲滅を旨とするトップダウン的な農林管理政策がとられ、完遂には至らなかったものの、農地不足、森の再生サイクルの不順、利用価値の低い植林地への移行などのシステム的問題を残している。

そのラオスで持続可能な農業の推進のために活動している日本の会社がある。株式会社坂ノ途中のメコンオーガニックプロジェクトは、ラオスでのコーヒー栽培の普及を目標に定めている。

ラオスのコーヒーに馴染みがある人はそう多くないと思われる。コーヒーベルトと呼ばれる低緯度帯に位置するラオスでは、コーヒー栽培は農地の面積を減らさずに追加収益を上げられる農法として定着しており、仏領時代にさかのぼる歴史を有する。農産物輸出の1位はコーヒー豆で、産出量でみてもラオスは世界13位となっている。

それだけでなく、日本のコーヒー輸入においても、ラオスはこの5年トップ10を維持している。他の産地の豆に比べるとまだ存在感は低いものの、ブレンドという形で飲まれるラオスのコーヒー豆は、生産という面でも日本への輸出という面でも、コスタリカやケニアよりも大きいインパクトをもつ。

実は、なぜ今回ルアンパバンへ行ってみようと思ったかといえば、知人が関わっているこのプロジェクトの話を教えてもらい、詳しく話を聞いたのがきっかけだった。ということで、坂ノ途中で海外事業を担当する安田さんのご一行に一日だけ同行させていただき、コーヒーファームのあるロンラン(Longlan)村へ向かうことに。

ルアンパバンから車で1時間ほど移動し、さらに舗装を外れて山道を揺られながら進む。途中で日本で見るような田んぼが見える。もう少し上がるとゴムの林があり、ここに丁寧に植えられている木々は30年ものだという。

陸稲の田んぼ / ゴム植林

さらに山道を進むとそのゴム植林の上手にくる。この展望の右手に、ラオス政府が推進してきたチークの林が見える。周辺諸国で希少になってしまったがラオスにまだ残っているチークは高価値化して政府の収益源ともなり、また不法伐採などの余地を残してしまった。ここはコーヒーファームの外だが、自生しているコーヒーツリーもある。

ゴム林・チーク林の眺め / 野生のコーヒーツリー

一行は揺られながら、ロンラン村に到着する。今の村には約400人が住み、かつてケシ栽培を禁止された人々が引っ越してきたという成り立ちもある。入り口の地図では、居住区や農林や家畜などのゾーニングが表示されているが、焼畑に使える土地が制限され、従来の農業方式の維持が難しくなっているという問題は先述の通りだ。

村の入り口のゾーニング表示

鶏はルアンパバンにもいたが、さらに馬や豚も飼われていて、農村に来たという感じがする。

農村の風景

運んできたランチをいただく。ここのスタイルでは米も肉も全てを手で食べる。時々ピリッとするものもあるがどれも美味しい。お腹をすかせているのか、犬がじっと見つめてくる。

ランチタイム

腹ごしらえが済んだところでコーヒーファームの見学となる。ファームといっても、平地の畑をイメージさせるようなプランテーションが行われているわけではない。森の中のどこでも目にする赤い実や白い花をつけた何気ない木がコーヒーツリーで、ポメロなどと混農されている。森の中で植えられる空間にコーヒーを植えているのだ。植えられているのは多くがアラビカ種だが、民家の傍にはリベリカ種もわずかに目にすることができる。

コーヒーツリー群への入り口 / コーヒーの花 / リベリカ種のコーヒーツリー

コーヒーツリーの成長は、日光を適度に遮るシェードツリーの影響を大きく受ける。シェードが弱すぎると木が死んでしまい実はすぐに黒くなる。逆に強すぎると木が細くなってしまう。

一部が収穫を待つコーヒーチェリー / コーヒーツリーを日光から守るシェードツリー

死んだ枝は斜めに剪定することで、元気な幹や枝を残して栽培を続けることができる。

死んでいるコーヒーツリー / 剪定されたコーヒーツリー

しかし、この地に住むモン族は、宗教的な理由から、大きい木を切らない。また老いてあまり実がついていないとしても、先祖から受け継いだ幹を切るのは農家にとって抵抗が非常に大きい。

そこでプロジェクトでは、幹を曲げることを提案している。そうすることで、幹を切ることなしに、新しい枝の成長が促されるのだ。非効率の排除だけではなく、生産者の想いにも寄り添った方法論を粘り強く育てていくプロジェクトスタイルがここにある。

村人の方にまだ残っているコーヒーチェリーを収穫していただいた後、その中からちゃんと赤く熟れている実を集める。コーヒーというプロダクトの品質を左右する「赤い実だけを摘む」作業は、見た目よりも難しいものであるようだ。日の当たり方や見る方向によってコーヒーチェリーの見た目は違うし、また虫害などの危惧から、実際には熟していなくても急いで摘んでしまいがちだ。熟練を要する作業の品質を高めるためにコミュニティワークの導入も検討するが、それが難しいコミュニティもあるという。

コーヒーチェリーのピックアップ

日本のコーヒー製品やコーヒー紹介のメディアを村の方々に手渡し、プロジェクトの進み具合を確認し合う安田さん。筆者は、ラオス滞在中の次の予定へ向かう多忙の一行に別れを告げ、ルアンパバンへ戻る組に混ざる。

ピックアップされたコーヒーチェリー / 村の人と握手する安田さん

ラオスという国は独特の時間の流れが旅行者に人気の国でもあるが、先述したように農業政策などの経緯から持続可能性の課題を抱えた国でもある。以下のような書籍は、そういった面での関心がある人にとって参考になるかもしれない。

筆者はコーヒーを毎日飲む一人だ。どうせ毎日飲むのなら、何となく飲むのではなく、目の前にある一杯一杯に少し想いを馳せながら飲んでもよい。コーヒーの故郷で垣間見た表情は、農作物の生産者と消費者がどのようなストーリーを通じてつながりうるかということについて、何らかの示唆を与えてくれる。

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