ベイエリアに進出する日本企業(5) -ビズデブ編-

Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises
Published in
12 min readMar 22, 2017

前回はCVC周りで起こるよくある失敗や問題点について議論をしたが、今回はシリコンバレーを中心とした事業会社のビジネスデベロップメント(ビジデブ)活動において起こり得る同様の内容について。

こちらで大手経済新聞社やISP事業者などの事業会社のビジデブ担当の若い人たちが中心となって、過去の失敗や経験を学ぶための自主的な勉強会(Shungiku)を開催しており、先日その勉強会に参加してこの辺りの議論を行ったのでそれも踏まえた内容を共有したい。

ビジデブとは

まずはビズデブの定義だが、既存の販路、サービス、ユーザーベース、データ、技術等の事業アセットとスタートアップの持つ事業アセットを組合せ、

i)商品メニューの拡充や補完

ii)効率化、コストカット、ドメインやスコープの拡大など既存事業の向上や拡大

iii)全く新しい事業の構築

を目的とすることだろう。難易度的にはi) < iii) <ii)といったところか。

ビジデブが直面しがちな壁

CVC編で取り上げた課題の多くはビジデブにも共通する(特にカニバリ)。ここでは重複をしない内容についてあげていきたい。

  1. 組織の壁

以前のポストでも述べたが、ここ何年かビジデブや新規事業に特化した専門部署が新設される話を良く聞く。若干組織論の話になるかもしれないが、一つ目の課題としてはこの組織の作り方に問題がある。

一番よくあるダメなパターンは既存事業部に並列でビジデブ専任部隊を作ってしまうケース。多分一番手っ取り早くできる(&役職の数を増やせる)のでこの方法を取るんだろうなと思う。が、基本大企業の組織は縦割りであまり部署間の連携がない中に、新たに「敵」を作ってしまっては、それこそ機能しないのは明白だろう。もっとも商社やソリューションの販売代理を行うような会社でi)を目的としたり、とにかく新しいことだけをということでiii)を目的とするのであれば、この建付でも問題ないかもしれない。

最近社長直轄の部隊なども出始めているが、結局中間層の実行部隊ときちんと握れていないと、これまたただ敵を増やすだけになってしまう。また、社長が変わったり、目の前の業績にネガティブな変化があった途端、この取組自体がないがしろにされ、送られてきた社員が途方にくれると言うケースも何度も見てきた。

もうお判りだと思うが、すべてに対処できる万能な組織の組み方はない。というのも、このブログで何度も言ってきたが結局は何がしたいのかに依存するし、その定めた目的に対し最適な組織の組み方があるからだ。そして最も肝心なのは、その組織にどれだけの自治と権限が与えられているかにかかっている。言い換えると、その目標に対しどれだけ本気で取り組もうとしているのかということが成功のポイントとなる。

2. タイミングの壁

iii)において新規事業を社内で検討、開発していてどうしても足りないパーツを外部のstartupから調達する場合、問題になるのがタイミングだ。最近大企業の事業開発のスピードが上がったとはいえ、起案からローンチまで1年とか1年半とか平気でかけている会社は未だに多いと思う。

一方、startup側の立場にしてみると、既にプロダクトとして商用で出しており、今すぐカスタマーが欲しい状況であるのに、実際金が落とされるのはその企業のサービス・プロダクトがローンチされるタイミングまで待たなければならない。その間にそのstartupが死んでしまうことやピボットして違うプロダクトを提供していることもあり得る。(だから投資とセットが良いという声が聞こえてきそうだが、彼らの事業活動に縛りを入れないのであればそれもありだとは思う)

象の時間、ネズミの時間である。彼らにとって半年ですら永遠に近いくらい遠い将来の話。ピンポイントでタイミングがあう案件に出会うのは宝くじに当たるくらいまれなことだと認識しておくべきだし、きちんとマーケットに合わせ判断のスピードを上げるための改善を本気で取り組むべきだろう。

3. first customerの壁

i)でよく直面するのがfirst customerの壁。これは日本企業に限った話ではないが、販売代理などを行うB2B系の大企業は、基本的に一番最初のユーザーにはならない。どんなに優れたプロダクトをstartupが提供していたとしても、他社の(しかも大手の)導入事例がない限り手を出さない。

プロダクトの安全性や信頼性が自社のブランド価値を毀損しないかを鑑みてのことであることは理解できる。が、いつまでたっても新しくエッジのたったプロダクトを扱うことはできない。というかむしろある程度リスクをとってそういった全く新しいものを導入しないのであれば、シリコンバレーでビズデブをする必要は無いような気もする。

プロダクトの先進性や新規性を買うのであればある程度リスクは取るべきである。もちろん、きちんと製品として出す前に、相応のバグ取りをしてあげる必要はある。一方そいういった対応はstartupにとって大変ありがたいことで、一度そのような実績が生まれると、この村社会にあっという間に浸透し案件が次から次へ入ってくるようになる。昔、シード段階の投資先のプロダクトを担いでくれた日系のソリューション企業があったが、販売の面でもプロダクトのブラッシュアップの面でも精力的に対応してくれた。こういうことは我々のような投資家も後々まで覚えていて、次の案件が出た時はあの会社に最初に話をしようと思うものだ。

4. 規定・前例の壁

判断も権限移譲も、人事評価や異動、その他会社の活動ほぼ全て規定によって縛られている。しかもそれらの規定は長い年月をかけて作られ、会社の「常識」として社員のDNAに刷り込まれている。これら常識は既存事業が大きくなり安定稼働するようになって完成形をむかえ、その後長きにわたって大きく変化することなく運用されている。そのため、ここで議論しているような新たなチャレンジやそれに伴うリスクを取るためにはデザインされていないのである。むしろ新規事業とは前例のないことをやろうとしているのだが、それが大きな障害になっていることは言うまでもない。

特にiii)などは、既存の事業から何歩か先の話を議論する上で、今までの評価基準やマーケットの捉え方などworkするはずがない。そもそもマーケット自体が存在しないので、既存事業の延長で捉えるのではなく、新たな指標・基準を柔軟に導入していくべきだろう。時には朝令暮改もどんどんやるべきだと思う。まさにstartupはそうやって新しいことに日々挑戦しているからだ。専門の子会社を作り既存の枠組みの外で実施するというのも良いかもしれない。ただしその時絶対に必要なのは自治と権限を与えることであり、間違っても本社と同じ指標・基準で運用してはならない。あと個人的には長い目で見て欲しいということもある。VCが運用期間を8−10年程とっているのも、投資先が結果を出すまでに相応の時間がかかるからだ。大企業が実施したからといって、1–2年で結果が出るとも思えない。そして100回打席に立って1–2本ホームランを出し利益が出るという打率のことも忘れてはならない。新規事業とはそういうものだというメンタリティも必要かもしれない。

一番苦労するのがii)のケースだろう。現行ビジネスへの+αを狙っていくということは直球で既存の枠組みに挑む必要があるからだ。よくあるのは新規事業をやれと言われシリコンバレーに来たはいいが、色々な提案を実施していく中で、一番やらなければならないのはまず本社の規定を変えることに気付くということだ。当然新規事業ネタを探しつつも、大半の時間や労力は本社のルールを変えるために割かねばならず、深夜の電話会議や日本への頻繁な出張を強いられるケースも散見される。そして社内改革に奔走し、ローテーションのタイムアップで日本に帰任となると、一体何をしにシリコンバレーまで来たのかとなってしまう。本末顛倒もいいところだが、最初に気付けないのはやはり既存の常識と前例主義の上に成り立つ想像力の限界故だろう。組織論の話に戻るが、こちらで新規事業の担当者が成果を出すためには、受け手の本社側にこれらルールや常識を変えることができるキャッチャーの存在が不可欠になる。むしろ新規事業の成功の鍵は、社内を変えられる人の有無にかかっていると言えるかもしれない。

最近の新しい取組

最近まずPoCを実施し、その結果を持って日本に持ち帰るケースも出始めた。これは非常に良い取組だと思う。結局実績主義な日本の会社において安心材料を提供することで効率的に案件を進めることが可能となる。ただし、PoCに向けたバジェットを与えられ実施の判断をきちんとこちら側できることが必要だろう。結局PoC向けのバジェット取りに本社と折衝して時間を費やすことになれば、80:20の法則は変わらないと言うことになる。一方でこの動きはstartup側にも嬉しい話となる。お試しで且つ人の金で初期のマーケティングができるので、本格展開に向けた知見が溜まり判断しやすくなる。

また、こちらでの小さな取組(実績)をメディアをうまく使って日本向けにアピールするような話もでてきている。残念な話ではあるけど、社内向けのレポートや報告会でいくら説明しても反応は薄いのに、新聞や雑誌で記事になった途端食いつきが違ってくるのもよくある話。それを逆手にとって「うまく」やってるということだと思う。パナソニックなどはそのいい例で、この取り組みなどは有志活動だが日経新聞に取り上げられることで、恐らく日本側も反応次第では本気でサポートするようになってくるだろう。

これら新しい取り組みはまだまだこれからかもしれないし、最初はできることが少ないが、継続していくことで以下のようなポジティブなループを作りだす第一歩かもしれない

① できることの確認

② ①をベースとした実績作り

③ ②より社内外が仲間化→①

というループをぐるぐると回ることにより、できることがより大きくなり、より大きな成果が出せるようになる。

<番外編>シリコンバレーのツワモノ達

こちらは全ての会社に適用できる話ではないが、シリコンバレーの猛者たちの奮闘ぶりとしてご紹介したい。

とあるオーナー企業でアメリカで巨額買収も実施している超大企業のビズデブ担当としてこちらで駐在している方のケース。彼は自分が案件を通す際、社長の出待ちをしてエレベーターピッチをしたそうだ。役員会の前か後で他の役員たちも勢ぞろいしている横で「面白い、やってみろ」と言わせたそうで、すんなり案件が進んだそうだ。実はその前に、担当役員からはNGを出されており大逆転での実施となった。もちろん、NGを出した役員を含めその他中間層からはとてつもなく恨まれる形にはなっているが、結局案件を本気で進めたいと言う熱意と既存の枠組みとしての「常識」を打ち破った典型だろう。さらに彼は通常のビズデブとは違い、自らリードして日本での展開を行う覚悟を持っていた。こういった覚悟があったからこそ、クレージーなやり方かもしれないが、実現までこぎつけたのだと思う。

次のケースは、これまた老舗のモビリティ系の大企業の話。当時ビズデブ担当としてこちらに赴任し、こちらで腰をすえた活動の必要性を感じ、ビズデブ・投資を組織として立上げる起案をした際、社内からは多くの反対があった中、社長を含め役員をシリコンバレーに連れてきて、多くのstartupと面会させた。そのほとんどが2歩も3歩も先を目指した、要はぶっ飛んだ会社だった。そして「ああいった新しいことを理解できないのが役員を含めた会社の問題だ」と社長に言わしめ、見事立上げに成功した。こちらも既存の常識が通用しないことをrule makerに分からせ、新たにゲームができるルールを作った好例だと思う。

実は自分も前職時代、とあるstartupとのパートナー契約を進めるのに、当時の会社にとってはとんでもないミラクルを実現したのをメンバーとして携わった。時の上司である役員が、自分の所掌・主催する、社長を含めほとんどの役員が出席する会議において、その目当てのstartupにプレゼンをさせ、彼らの口からパートナーシップを提案させた。社長としては、最後に握手するしかなくなり結果的に数ある会議体をスキップし社長を含め役員にその案件の承認をもらったことがある。恐らく会社としては前代未聞だったし、そんな案件の通し方は後にも先にもないだろう。これは現行の制度の中で、うまくやったという事例だが、よく探せばこのような抜け穴は色々あるのかもしれない。

どの事例においても、既存の枠組みを壊したり抜け穴を通すために非常にクリエイティブに行動した結果だと思う。そのクリエイティビティをもっと外向きに発揮できるようになれば日本企業も新しいことができるようなるんじゃないだろうか。

続き

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Daisuke Minamide(南出 大介)
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a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.