ベイエリアに進出する日本企業(4) -CVC編-

Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises
Published in
11 min readFeb 27, 2017

いろんなところで読んでいただいているようで、このシリーズの内容についてお話しをしてほしいという依頼もちょこちょこ出てきており、きちんと続けていかないといけないなと改めて思った次第。

前回は、ベイエリアにおいて投資にせよビジデブにせよ、そもそも論として企業の姿勢や心構え的な部分の話をした。今回はCVC(Corporate Venture Capital)、事業会社によるstartup投資に特化したファンド・子会社、のあるあるというか起こり得る問題について議論していこうと思う。

存在感を示し出したCVC

CVCは昨年1年間で$30Bの投資を実施し、関わった件数は全体の約13%となるほど、存在感を示してきた。2016年のシリコンバレー全体での投資額が$69Bなので金額ベースで行くと43%がCVCによるもの。

souce: https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/xx/pdf/2017/01/venture-pulse-q4-2016-report.pdf

どこかのVCのパートナーが、去年ピュアVCの活動が落ちていたところをCVCが受け皿になってくれていたとイベントで話ていたが、startupにとっても資金供給元の選択肢が広がり、大いに意義のある存在になってきている。

とここで言っているCVCとは日本以外の事業会社系のCVCのことである。以下は2QまでだがアクティブなCVCのリストである。

source: https://www.cbinsights.com/blog/corporate-venture-capital-active-2014/

圧倒的に海外のCVCが多いが中には日系のCVCもランクインしている。手前味噌だが、うち(CAV)もランクインしている。しかしCAVは、StrategicではなくFinancial returnを狙っているのでいわゆる日系CVCとは異なる。それ以外にもSMBC、ニッセイ、YJキャピタルなどが入っているが、彼らもうちと同じ立ち位置かと思案。むしろ古巣のドコモや楽天はstrategicをメインにやっているCVCとしてここにランクインするのは相当すごいことだと思う。

日系CVCと大きく異なる米系CVC

海外のCVC、特に米国の事業会社系のVCは日系VCとその生い立ちはほぼ同じだと思うが内容が大きく異なる。2つのもっとも異なる点の一つ目は、本社から切り離してautonomyとauthority、要は自治と権限を与えられている点だろう。もちろん全てがそうだとは言わないが、CVCの中で最も活動的なGVやIntel Capital、Comcast Venturesなどはその典型だ。

外部から投資家を募らず本社が一人LPにも関わらず、その使い道はすべてファンド側に与えられている。投資分野はある程度縛りはあるかもしれないが、投資するstartup、投資金額、人材採用、全てCVC側で決められる。特に人材についてはパートナークラスで数千万〜億のサラリーはもとより、きちんとキャリー(最終益の配分、通常VCで20%程度)も受け取れるようだ。

そして2つ目が、ビジネス契約を前提としないことだろう。基本的にstrategicを主目的とする日系CVCはビジネス契約がありきで投資するか否かを決めることが多い。そのため、非常に時間がかかることと、分野をきっちり決められていることにより投資対象が極めて少ないという問題を抱える。それらの縛りがない米系CVCは100社/年の投資するところもある。

Startup側からみて魅力的なVCとは実績やその分野に非常に長けたパートナーがいることも然りだが、当然「投資をしてくれる」VCであることに間違いない。もちろんビジネス契約も嬉しいが、それに引きずられて足元の資金が枯渇しては何の意味もない。

実はちょっと前(2008年ごろ)は米系のCVCも日系のCVCのようにビジネス契約を前面に押し出すところもあった。Intel Capitalなどがその一例で、ビジネス契約を投資契約に含めるせいで歪な契約書が出てきて、起業家から頼み込まれて他のVCが渋々サインをするような案件も何度か見てきた。しかし現状はそのような話は聞かない。想像だが、時代を経て、失敗を経て今の形に落ち着いたのだと思う。

順応と適応と、、、できるか日系CVC

以前は日系CVCのような振る舞いをしていた米系の会社も、エコシステムに併せ形を変えてきた。結局自分たちの活動を長く意味のあるものにするには、環境に順応し変化に適応するしかないのだろう。上記の中でも何点か触れてきたが、よくある失敗や向上すべき点をまとめたい。

  1. そもそもの活動の意義

結局のところこれに尽きるとは思うのだが、投資をしたいのかビジネス契約をしたいのか、この組織の目的・ゴールをどこに置くのか、を明確に設定するということだと思う。何度かこのブログでも言及してきたが、目的と手段を取り違えている場合が多いし、いいとこ取りをしようとして結局うまくいかないケースが散見される。

既存事業の向上や、コストカットのための新技術の導入に関しての投資は必要ないと個人的には感じる。全てビジネス契約で済む話だからだ。余計な話を絡めて、ビジネス契約にも投資契約にも何ヶ月もかけてstartupを疲弊させても何もいいことはない。そもそもビジネス契約をまとめる権限をCVCに与えているのか、という疑問もある。

通常CVC(corporate “VENTURE CAPITAL”)というくらいだから、ベンチャーキャピタルとしての機能、つまり投資の機能は与えられているが、事業を持っていないCVCにビジネスマターに関する契約締結の権限を与えられているはずがない。じゃあビジネス契約は一体誰が責任を持つのか?当然本社の主管部門だろう。だとすれば、CVCはビジネス契約にはタッチせずまたは、ビジネスに影響されることなく投資に専念するべきではと思う。

2. カニバリという名の思考停止

これは投資に限った話ではなくビズデブにも共通するのだが、例えば投資に関して投資委員会が本社の幹部で構成されている場合、なかなか投資実行できない場合がある。カニバリ(競合)問題だ。前にも述べたが、 大企業ともなるとstartupがやっているような内容は多かれ少なかれ検討していたり、着手していたりする。そうすると折角出てきた案件も、深く議論することなく却下されるのである。

自前主義による思考停止の極致だと思うのだが、そろそろこの辺の考え方を変えてもいいんじゃないだろうか。去年100件超もの投資を実施したComcast Venturesや累計で500社以上投資しているGVのポートフォリオを見ると、腐る程本業とカニバッてると思われるstartupが名を連ねている。ビジネス契約を前提としないというか自治を与えられている彼らは、分野において「投資すべき」対象に投資しているのだと思われる。そこに本社との競合だからと考えるような余地はないように見える。

むしろ、本社の研究や開発と競わせてどちらが生き残っても、会社としては関与できているという保険のような立ち位置でいるのかもしれない。または自社でやるにはリソースが足りなかったり、自己批判とならないためにも、外部(startup)に研究・開発をさせるという位置付けでstartupに投資をするという考え方を持っても良いかもしれない(しかも、他の投資家からも資金が入るので、自前でやるよりレバレッジが効く)。ある意味ポートフォリオを組むということと同義かもしれない。

3. 人材の欠乏

当たり前の話ではあるが、事業会社に最初からstartup投資ができる人材なんていない。ましてや、新規でCVCを立ち上げる場合、一番問題になるのが人材の話となる。特にディールソースとなる人材だ。手っ取り早いのは外部から経験と人脈のある人材を雇ってくるということなのだが、前述の通りこちらのVC経験者は非常に高い上、キャリーのインセンティブがないとまず話に乗って来ない。本社側も下手したら社長より給料の高い社員を雇うなんて前例のないことはしたくない。

ということで、大体のCVCは本社からの出向社員と、現地のコンサルor契約社員(しかも本当に投資の経験あるの?シリコンバレーに繋がってるの?というような人材)という構成で見よう見まねで始めて見る。ところがこっちは村社会だから、よそ者に冷たい。それでもくじけずに何度も門を叩きやっと認められ始めた頃には、出向社員はローテーションで本社に帰任、もしくは本社の都合でCVC自体を閉鎖。本当にあるある過ぎて今更な話ではあるが、未だに現実として起こっていることなのだ。

人事制度はエリート層の力の源泉だからローテーション制度を変えることが難しいのはよくわかる。一方で本当にいいディールを掴むためにはインナーサークルに入り込む必要がある。そのためにはじっくり腰を据え、実績を残し村人との繋がりを築き上げることが重要となる。それにこちらでは組織の力よりも個人の力量や実績が重要な場合が多い。何度かそういった理屈でアロケーションを取ってきた経験からも、こちらで本気でやって行くのであれば、人材への投資(金も時間も)はmustであり、成功の近道だと思う。

4. 過大評価する自社

もちろん、こちらに来るような事業会社は、事業規模も大きく一流だし、誰もが知っているブランドを持っている会社が当然多い。でもそれは日本での話。いやうちはマーケットシェア1位ですから、と言われても世界で1位なのかということである(もちろん中には世界でマーケットシェア1位というところもあるが)。

仮にビジデブ込みのCVCの投資活動をしていてなかなか良い案件にめぐり合い、もしかしたら投資までこぎつけそうだ。創業者との話で、日本での将来の協業の話が出た際、CVC側からは当然のようにexclusivityを持ちかける。当然マーケットシェア1位だし、日本では誰もが知ってるブランドだから、うちと組んでおいたら何も問題ないと自信を持って。ところがstartup側は渋い顔をしている。当然だろう。中国のマーケットやシェアが70%や80%を超える独占に近い状態であるならまだしも、何社も競合がいる中でその会社にしか提供できないとなると、自ら売り上げにキャップをかけるようなものだ。

自分の会社に誇りと自信を持つは良いし当たり前の話だと思う。ただ、客観的に自社の状況をきちんと捉えておくことが必要となって来る。通常startupは、世界中で自分のプロダクトやサービスを拡大することを狙っている。その際、数%に満たない投資家の1社が、株式の保有比率よりも低い売上比率となるような条件を強要して来るのは受入れ難い話だろう。純粋な投資家の立場で見た場合、投資先の企業価値の最大化を目指すなら、そのexclusivityがいかに乱暴な提案であるか理解できるはずである。必要なのは自分(自社)にできること、できないことをきちんと把握し最善の提案をぶつけること。それが合意できないのは縁がなかったということに過ぎない。

そもそも論、制度面、メンタリティ、と色々困難はあると思うし今回取り上げた以外にも細かい部分で色々ある。まずはやってみるというシリコンバレーのメンタリティの話からだいぶ遠のきそうだが、ここであげたのは本当によくある話なので、事前に回避できるに越したことはないと思う。

続く

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Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises

a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.