歓喜と祝祭

2017年2月11日(土).2016年度のエンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)最終発表会が開催されました.協力企業8社を迎えての受講生たちの半年間の挑戦は,このゴールを目指したものでした.協力企業の皆さまを含めた来訪者の皆さま,御来場本当にありがとうございました.受講生およびスタッフの皆さん,本当に御疲れ様でした.(各チームの発表内容は,このサイトで公開しています.

エンジニアリングデザインプロジェクトに多大なる御協力をいただいた協力企業8社の皆様

振り返り

最終発表会は,全てのチームが最高のパフォーマンスを発揮してくれました!(これは,現場教員一同の一致した意見です!私自身は8チーム全ての発表が終わったあと感極まっていました…) 11月末に開かれた中間発表会の時点では全く,想像できないほどのレベルの高い仕上がりでした.さて,ここで何が良かったのかを少し振り返ってみたいと思います.

1.課題の本質への到達

8チームが全て,課題の本質にせまるインサイトを得ていました.ヒット率100%(マジか!).正直,これは嬉しい誤算でした.私は,これまで比較的長くPBLに関わってきましたが,全チームが最高レベルの達成感を得るところまで到達するのは(長期プロジェクトでは)初めての経験でした.こういった,長期戦のプロジェクトでは,いわゆる「消化試合」になって,戦意喪失のチームが出てきてもおかしくないのですが,全てのチームがあきらめずに「課題の本質は何なのか」を頭と体を使って問い続けてくれました.

2.体験デザインの物理的実装

8チームが全て,新たなユーザー体験をデザインし,それを感じられるデモを実演しました.中間発表までで深いインサイトとれたチームはほとんどなく,年明けになってもダンス(”Dancing with Ambiguity”を参照してください)は続き,デモ実施が危ぶまれるチームもありました.しかし,どのチームも「発表会のためだけのデモ」に甘んじることなく,新たな価値を体感できるデモを実施してくれました.

3.チームとしてのパフォーマンス発揮

8チームが全て,チームとしての最高のパフォーマンスを発揮してくれました.この授業では,8チーム全てに東工大生に美大生,社会人が加わり,非常に多様性の高いメンバー構成となっています.この多様性は,チームとして創造性を発揮するために意図されているものですが,育った環境,専門,年齢,立場が異なる人が,最初からスムーズにチームとして機能したわけではないようです.ただそれだけに,困難を乗り越えた最終局面でのチームパフォーマンスは私たち教員にとっても驚くべきものでした.

人生を変える歓喜

歓喜が人の人生を変えることがあります.それは,出来合いの「楽しさ」や「喜び」ではなく,仲間と目標達成に挑み,「やったぜ!」と腹の底から感じる時「だけ」に得られるものです.隣の誰かに勝つのではなく,仲間と世界に挑み勝ちに行き,「ギフトとしてのプロダクト(あるいはサービス)をユーザーに届ける」ことによって勝つ… この授業は,そんな歓喜を受講生に感じてもらうために立ち上げられたものです.一度,その歓喜を味わえば,人は,もう受身の人生では我慢ができなくなります.私はそういった人たちを少なからず見て来ました.(そういう私も歓喜によって人生が変わったクチです…) もし,今回も受講生の一人一人が歓喜に触れることが出来たのだとしたら,それがこの授業の最大の価値であり,私たち教員一同が目指すものです.

「最終発表会」という名の祝祭

私たちEDP教員一同は,最終発表会を祝祭にしたいと思っていました.それぞれの成果を祝い,それぞれのユーザーに届くことを祈る.内側での競争ではなく,外に開かれた世界に対して意識を向ける.そして,それは実現しました.昨年度と異なり,最終発表会をコンテスト(あるいはコンペティション)形式にしなかったのも,教員間の幾度もの議論を経て,祝祭にはコンテストは必要が無いと判断したからです[注].スタンフォード大学d.schoolの創立者の一人,Prof. Bernie Rothは,その近著の中で次のように述べています.

積極的に支え合う教師チームがロールモデルとして学生たちの学習環境にいる場合、そして学生たちに自由裁量が与えられている場合、コンテスト方式につきものの敗北感や失望感を味わわなくても、学生たちは興奮と責任感を自ら生み出せる。コンテストは一般的に、やる気を引き出すよい機会になると考えられている。それに異論はない。だが、それはコンテストだけではない。dスクールでは、競争ではなく協力から生まれたプロジェクトのプレゼンテーションを通して、学生の意欲を大いに引き出し、大勢の観衆も生み出している。ポジティブな動機づけは、コンテストによる悪影響を被ることなく、コンテストに勝るとも劣らない効果をもたらす。

- 競争を最小限に抑える「スタンフォード大学dスクール 人生をデザインする目標達成の習慣」より -

最終発表会集合写真.皆,祝祭を楽しんでいる表情をしています.

私たちEDP教員一同も同じような想いで,この最終発表会を迎えました.そして,それは受講生,教員,協力企業,訪問者の方々を巻き込んで大いなる歓喜を生み,本当の祝祭に昇華したのではないかと感じています.

長いようで短いような道のりでしたが,受講生,教員を含めた大きな一つのチームになれたのではないでしょうか.私にとっても素晴らしい体験でした.

本授業に関わってくれた皆さん,本当にありがとう!

謝辞

協力企業8社の皆さまへは,あらためて感謝の意を表します.皆さまの御協力がなければ,このような機会を創ることはできませんでした.

[注]チームの成果を受けて,自分たちの意志で授業外のコンペティションに出場することはむしろ望ましいものだと思っています.

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Shigeki Saito
東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト

Professor, Major of Engineering Science and Design, Tokyo Institute of Technology; Director of Engineering Design Project (EDP)