POVの新フォーマット
東工大EDPでは、POVの作成フォーマットとして「タテマエメソッド」というものを提唱し、長らく使用してきました。
[状況]にある[ユーザー]は、
[行動]をしている or する必要がある。
なぜなら[タテマエ]だからだ。
とはいえ、本当は[インサイト]である。
ユーザーリサーチは非常に難しく、なかなか本音を聞くことはできません。表面的に得られる言葉はあくまでも建前であり、インタビューアはそこから本音を想像する必要があります。この「本音」と「建前」の距離が離れていればいるほど(対立や矛盾を抱えていればいるほど)、あたらしいモノやコトを創造しやすくなるため、両者を明確に区別できるようなフォーマットにしています(過去の記事も参照してください)。
しかし、この「本音」と「建前」の距離をうまく離すことができず、ユーザーの声を否定するだけのPOVが目立つようになりました。
- なぜなら[○○に行きたい]からだ。
とはいえ、本当は[○○に行きたくない]。 - なぜなら[○○があると便利]だからだ。
とはいえ、本当は[不便である]。 - なぜなら[○○が楽しい]からだ。
とはいえ、本当は[楽しくない]と思っている。
単純に否定するだけでは、ユーザーリサーチをした意味がありません。これでは自分で好き勝手にものづくりをするのと違いがありません。
そこで、フォーマットを更新して、最後に「否定の否定」を書く部分を追加することにしました。こうすることで、自分の意見を考慮しつつ、ユーザーの意見も尊重しながら、新しい概念を生み出しやすくなりました。
できあがった新しいPOVフォーマット:
[状況]にある[ユーザー]は、
[行動]をしている or する必要がある。
なぜなら[ひとつの意見]だからだ。
とはいえ[対立する意見]である。
つまり、これは[インサイト]ではないか?
例として、2022年度の学生が作っていたPOVを新しいフォーマットに変形させてみました。
1. 在宅勤務で家にいることが増えてきた共働き夫婦の女性は、
2. 子供が起きていない時間帯(早朝など)に外で散歩をしている。
3. なぜなら1人の時間を作ってストレスを発散したいからだ。
4. とはいえ、天気が悪いときには外出できずにストレスがたまってしまうだろう。
5. つまり、天気を気にすることなく、自宅で1人の時間を確保できればいいのではないか?
1〜3行目はユーザーリサーチの結果であり、インタビューから抽出したデータです。4行目はインタビューアの感想であり、自分の違和感を表したツッコミ(EDP風に言えば「ざわざわ」)です。そして、最終行が「インサイト」であり、このリサーチを通じて発見した気づきになります。
インサイトの材料は「ざわざわ」です。「ざわざわ」は「なぜなら〜とはいえ〜」の2つの対立から生まれるものであり、それぞれ何であっても構いません。この対立部分は、いくつかのパターンが考えられます。
- ユーザーの建前と本音パターン(従来のタテマエメソッド)
なぜなら[建前]だからだ。とはいえ[本音]である。 - ユーザーの声とデザイナーのツッコミパターン(上記の例)
なぜなら[ユーザーの声]だからだ。とはいえ[ツッコミ]である。 - 人によって意見が違うパターン
なぜなら[Aさんの声]だからだ。とはいえ[Bさんの声]である。
ユーザーリサーチで得られたデータに応じて、使い分けてください。
「ざわざわ」がわかったら、最終行のインサイトを発想します。ここが最も難しいところで、こうすればいいってのはないんですけど、「その発想はなかったわ!」って言われたら「勝ち」ですかねえ。ここはもっとツールキットを洗練させる必要がありますね。
作りながら途中で気づいたのですが、新しいPOVのフォーマットは弁証法のような感じになりましたね。弁証法について説明するのは大変なので、あとはChatGPTに任せることにします!
弁証法は、対立する概念やアイデアを統合し、新しい概念や段階への発展を促す思考プロセスです。デザインにおいて、弁証法は新しいアイデアや解決策を生み出すための有益な方法となります。デザインプロセスにおいて弁証法を適用することで、対立する要素や矛盾を解消し、革新的なデザインやアイデアを創出できます。
デザインにおける弁証法の適用は以下のような形をとります。
・テーゼ(主張):デザインの現行の状態や概念が存在します。これは、既存のデザインやアプローチを表します。
・アンチテーゼ(反主張):現行のデザインや概念に対立する新しいアイデアやアプローチが提案されます。この段階では、デザイナーは現行のデザインの欠点や制約を明らかにし、それに対処するための新しいアプローチを考えます。
・シンテーゼ(統合):テーゼとアンチテーゼの対立が解消され、両者を統合した新しいデザインや概念が生まれます。この段階では、デザイナーは対立するアイデアや概念を取り入れ、矛盾を解消するように組み合わせることで、新たなデザインや機能を創出します。デザインにおいて弁証法を用いることで、デザイナーは革新的なアイデアやデザインを生み出すことができます。また、弁証法はデザインの改善やイノベーションを促すプロセスであり、デザインの様々な段階で適用されることがあります。デザイナーは、弁証法を用いて、対立や矛盾を乗り越えることで、より効果的で革新的なデザインを実現することができます。