Polkadotガバナンス解説

m_web3
Unchained
8 min readMay 27, 2019

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ValidatorやCollatorなど様々なステイクホルダーが存在する複雑なエコシステムをもつPolkadotは、それらを統治・管理するために洗練されたガバナンスを兼ね備えています。プロトコルへの変更は全てこのガバナンスを通して行われる必要があり、これによりエコシステムの長期的な成長と資金の最適配分を可能とします。

そもそもガバナンスとは何?なぜ必要なの?という疑問をお持ちの方は先に「政府の中抜きによるDAOの誕生」を読むことをお勧めします。

ガバナンスを理解するために以下の順番で解説していきます。

  1. 一般投票と協議会
  2. 全体の流れ
  3. 協議会メンバーの選定選挙

1. 一般投票と協議会

一般投票(Referendum)

ステーキングにより重みづけされた投票システムであり、変更は全てこのシステムを通して行われます。2週間ごとに最もステイクされた額が多い提案が投票にかけられ、DOTホルダーはトークンを任意の期間ロックすることにより投票することができます。投票が終わると施行遅延(実際に変更が施行されるまでの猶予)が用意されています。施行は”set_code”というsudo特権のコールをします。

協議会(Council)

6〜24のオンチェーンアカウントで構成された組織であり、エコシステムにとって重要な変更の提案や悪意のある提案のキャンセルなどを行います。ロンチ時にはWeb3Foundationが初期メンバー6〜12人を選定しますが、2週間ごとに席を1つずつ増やし、最終的には選挙(後述)で決められたメンバーにより構成されるようになります。任期は12ヶ月で、それ以前の降任は一般投票で行われる場合があります。

2. 全体の流れ

プロトコルへの変更の提案はパブリックや協議会など誰に提出されたかに関わらず、全て一般投票を通る必要があります。(ほんの少しの変更でも複雑なエコシステムでは大きな損益を生み出すため。)

提案が執行されるまでの流れは以下の通りです:

  1. 投票が提案され、待ち列(queue)に入る(図右下)
  2. 最もステイクの多い提案が投票に進む。
  3. 投票が集計される
  4. 投票が施行される
ガバナンスフロー
ガバナンスフロー時系列

1. 投票の提案

提案は以下の3つの方法のいずれかで行われます。

パブリック:最低限のDOT($50くらい)を一定期間ステイクすることで誰でも提案することができます。提案はステイク順のキューに入ります。もしその提案に共感した場合、同額のDOTをさらにステイクすることにより、その提案をサポートすることができます。いずれかの提案が投票に移行したと同時に、賭けられているトークンは持ち主に返されます。

協議会(満場一致):全てのメンバーが提案に賛成した場合、その提案はキューを通らず直接投票に移行します。(図左上)また、投票にはNegative Turnout Bias(後述)がかかります。

協議会(大多数):大多数のメンバーが提案に賛成した場合、その提案はキューを通らず直接投票に移行します。また、投票は単純多数決(後述)になります。

2. 提案への投票

いよいよ投票ですが、ただのコイン投票のようにトークン数によって決まるわけではありません。投票するためにはトークンを最低期間(施行遅延)以上ロックする必要があり、投票の重みはロックしたトークンの数と期間の累乗により決定されます。

投票の重み=トークン数 x 期間

トークンロックの仕組みにより、投票の売り買いを経済的コストでインセンティブを下げ、長期ロックの重みの増加により弱小ホルダーへの投票インセンティブを与えています。

3. 投票の集計

投票の集計方法は3つありますが、採用しているAdaptive Quorum Biasing(順応的定足数バイアス)により少々複雑です。簡単にいうと投票率や提案の状況によって、必要な賛成割合を順応的に調節することで、偏った意見や悪意のある提案が採用されないようにしています。

Gavin プレゼン at Sub0Summitより

1. 単純多数決:名前の通りです。50%以上が賛成投票した場合、施行されます。

適応ケース:協議会の大多数のメンバーが賛成/投票率が100%(ほぼありえない)

2. ポジティブ投票率バイアス: 必要な賛成割合が50%~100%。より多くの賛成票を必要にすることにより現状(最も安定)維持へのバイアスがかかる。上の図では投票率25%の場合、必要な賛成票は66%に調節されている。

適応ケース:投票率が100%未満

3. ネガティブ投票率バイアス:必要な賛成率が0%~50%。提案を拒絶するためにはより多くの反対票を必要とする。協議会が満場一致ということはエコシステムにとって重要な提案であることが明らかなため、投票が通りやすくなる。

適応ケース:協議会の満場一致

Adaptive Quorum Biasingの数式による解説

3. 協議会メンバーの選定選挙

選挙は認定投票(Approval-vote)を通して行われます。認定投票とは、投票者(トークン所持者)は各メンバー候補について是認するか否認するかの判断を別々に行う二分型投票です。投票期間はなく、常に投票することができます。

前述のように、任期は12ヶ月、メンバーが24人のため2週間ごとに1席の空席ができます。そのタイミングで最も投票数の多い候補がその空きを埋めるようにメンバーになります。選ばれなかった上位10人ほどは次回に票を持ち越すため、当選確率が上がり、別意見派のメンバーが選ばれやすくなります。

ラウンド1では3票集めたCが当選
ラウンド2では4票+2票=6票集めたAが当選

まとめ

ここまで読まれた方はPolkadotのガバナンスがいかに斬新で急進的であるかに驚かれた(もしくは疑問を抱えている)ことかと思います。協議会/投票ロック/継続的(Continuous)投票システム/投票重み付け/投票率バイアスなどの画期的な仕組みは、現状のガバナンスや現実世界の政治の様々な課題を解決するべく設計、実証実験されています。

現実世界では到底できないような実験が、クリプトエコシステムではスピーディに行われていくのは非常に素晴らしいことです。前回の記事で説明したように、ガバナンスは自律分散組織の維持に必ず必要となる要素であり、クリプトエコシステムで今最も盛り上がっている分野です。今後はRadical MarketやLiberal Radicalismで議論されている施策の実現可能性など個人的にも探っていきたいです。

5月23日Substrate勉強会登壇時のスライド

本記事は2019年5月27日時点でWikiなどで公開されている情報を参考にして執筆したものであるため、将来変更されている可能性が十分にあります。最新情報は以下の参考リンクを参照してください。

参考リンク:

Gav Original: https://github.com/paritytech/polkadot/wiki/Governance

Wiki Latest: https://wiki.polkadot.network/en/latest/polkadot/learn/governance/

Wiki Node: https://wiki.polkadot.network/en/latest/polkadot/node/governance/

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