3X(Explore/Expand/Extract)における速いか遅いか by Kent Beck
以下は、Kent Beckによる「Fast/Slow in 3X: Explore/Expand/Extract」の翻訳です。本人の許可を得て掲載します。
ソフトウェア企業の偉い人が「私たちは遅いでしょうか?」と聞いてきた。
3X思考の使い手である私は「まあ、そうですねえ……それは曲線のどこにいるかで決まりますね」と答えた。
要約
3Xの記事を書いてからしばらく経つので、簡単に説明しておこう。アイデアやプロダクトや企業が成長していくと、価値を最大化する振る舞いが劇的に変化する。
- 探索(Explore)―無関心を克服するために、小さな実験を数多く試してみる段階。
- 拡大(Expand)―拡大のボトルネックを解消するために、次に制約となるリソースの制限を緩和する段階。
- 抽出(Extract)―成長を維持するために、成長が終わっても継続的に収益性を高める段階。
「速い」か「遅い」か
「速い」か「遅い」かは、曲線のどこにいるかで意味が違ってくる。
探索―アイデアが生まれてからフィードバックを得るまでにかかる時間は? 大企業だと社会構造が複雑であり、リスクの許容度が低く、抽出の考え方が文化の大部分を占めているため、この遅延時間が増える傾向にある。また、遅延が「実験数が減る → 成功数が減る → 1つの実験に対するのプレッシャーが高まる → 実験数が減る」というフィードバックループを生み出すことになる。
時間/日/週/月あたりに、どれだけ実験を行なっているだろうか? 増えた遅延時間は、実験を行う人員を増やすことで一時的に低減できるかもしれない。だが、遅延は指数関数的に増加し、投資は一時的なものである。探索における成功とは常に予期できないものなので、速度の指標は「件数」にしておくとよいだろう。
拡大―新たなボトルネックにすばやく人やお金を投入しているか? 成長を滞らせるボトルネックは、時間が経てばだいたい判明する。だが、ボトルネックを軽減できる人やお金が動かないこともある。元の場所にいたほうが有益だからだ。
Facebookのエンジニアリングでは、新たなボトルネックに非常にうまく対応していた。最も優秀なエンジニアたちが、厄介な技術的問題に群がるのである。Facebookはこのようなレベルのレジリエンスを達成するために、大きな成功を犠牲にしてでも、喜んで対価を支払っている。複雑なマネジメント環境で、このような対価を支払う組織はそう多くはない。だが、これは実現可能である。
抽出―収益性の高いプロジェクトにかける時間は? こうしたプロジェクトは、収益を高めるかコストを減らす。成長している組織は、もはや価値を提供しないプロセス、引き継ぎ、遅延を放置している。使い物にならなくなったものが膨れ上がる危険性があるため、もはや価値を提供しないプロセス、引き継ぎ、遅延を排除する必要性(あるいは、レジリエンスを高めることで、価値を提供できるプロセス、引き継ぎ、遅延を増やしていく必要性)を省みることがない。
Conclusion
「私たちは遅いでしょうか?」
「探索しようとしていて、本質的な理由がないのに実験に時間がかかっているのであれば、遅いでしょうね。あるいは、月あたりの実験数が少ないのであれば、やはり遅いでしょうね。
拡大しようとしていて、重要なリソースが欠けているために成長できず、右往左往しているとしたら、遅いでしょうね。
抽出しようとしていて、収益性の高いプロジェクトに必要以上に時間がかかっているとしたら、遅いでしょうね」