ファミリーカメラのおばちゃん(1)

キムラマサヤ
にじだより
Published in
6 min readMar 31, 2019

目次

  • ファミリーカメラ
  • おばちゃん
  • きっかけ
  • 知りたいこと
  • 現状と今後

ファミリーカメラ

小田急小田原線柿生駅、新宿から約30分ほど走った各駅停車しか停まらない小さな駅。そこから30秒ほど歩いた場所に「ファミリーカメラ」という昔ながらのこぢんまりとした個人経営の写真屋がある。

お店に、プリントをする機械もなく、プリンターすらなく、現像機があるわけでもない。主な商品は、フィルム、カメラ用電池などのカメラ用品、額などの写真用品である。個人経営のお店なので、店頭における商品に限りがあり、取り寄せが多い。店頭における商品の中で、最近の売れ筋は「写ルンです」と「instax mini」(チェキ用フィルム)である。照明写真や記念撮影は今だにフィルムで撮影されている。最短でお渡しが可能なのは次の日の夕方である。そのため急ぎの方には別のお店を紹介しているほどだ。証明写真の焼き増しやデジタルカメラのプリントも同じである。また、サービスとしては時計の電池交換があるが、これも外注である。
正直に言ってしまえば、このお店が続いているのは写真業界の中でもレアケースだと思う。写真産業自体が斜陽産業であるし、今流行っている写真屋は一時的な(と思われる)フィルム写真ブームに乗じているお店である。実際にフィルム写真が好きで、とある写真屋でアルバイトとして働いている私が、客観的に冷静に見て、そう思う。ファミリーカメラはそういったお店とは対照的だ。「ファミリーカメラが続いている理由は店主にある」と、2年通った今、私は確信している。

おばちゃん

お店を切り盛りしているのは、今年で72歳になる増井敦子さんである。この歳になってもなお、月曜日から土曜日まで朝は9時45分から夜は19時15分までお店を開けている。日曜日は朝10時から12時まで営業されている。午後は友人とテニスに行く。膝が悪いため、ボール拾いと声出しを務めている。若いお客さんからは「おばちゃん」と呼ばれていて、私もそう呼んでいる。

きっかけ

私は大学進学と同時に柿生に出てきた。柿生に住み始めて1年間、通りに面するファミリーカメラの存在を知ってはいたが、特にお店に入ることはなかった。今からちょうど2年前、大学1年生の3月にちょっとした理由から私はファミリーカメラに初めて訪れた。初めは、用があるたびに訪れていたが、だんだん用事もないのにおばちゃんに会いに行くようになった。会いに行っては、両親や恋人にも言えないような悩みや愚痴を吐露していた。そしてある時気づいたのが、これは私だけに限ったことではないということだ。つまり多くのお客さんがおばちゃんに会いにきているのだ。もちろん用事があったり、買いたいものが存在することもあるが、大事なのはファミリーカメラに行っておばちゃんと話をすることなのだ。おばちゃんの人柄に魅せられてお客さんが集まってきているのだ。

知りたいこと

私が大学の卒業プロジェクトで知りたいのは、おばちゃんという人である。ファミリーカメラをフィールドとし、そこで発生するコミュニケーションなどを観察し、おばちゃんが生み出す居心地の良さ、心地良い空気感、なぜ我々はおばちゃんに悩みを吐露してしまうのか、といったことを理解したい。

現状と今後

通い始めて1年と半年が経過した、2018年の夏から卒業プロジェクトをファミリーカメラでやることを考え始めた。メンターである先生との相談の上、9月、おばちゃんに打ち明けた。卒業プロジェクトのことを話し始めた当初、おばちゃんはかなり困惑している様子だった。特に、「木村くんの卒論が、こんな場所でいいのかしら」としばしば言っていたのを強く覚えている(今でも時々言う)。私としてもおばちゃんの迷惑になるようなことはしたくなかったので、「もし迷惑に感じたらすぐに言って欲しいし、そうであればすぐに止める」ということは伝えていた。それでもおばちゃんは嬉しさもあることを教えてくれた。また、まとまった考えを書いたプリントアウトをリファレンスの代わりとして持って行き、伝え方にも工夫した。そういったように何度も話をし、11月の下旬には了解を頂けた。12月からフィールドワークを本格的に開始した。

12月からフィールドワークをスタートして、4ヶ月が経過した。現状、私がファミリーカメラにいる間のみGoProを設置することが許可されている。おばちゃんが生み出す独特なファミリーカメラの空気感が伝わるのは動画だと感じたため、ビデオカメラを設置することをお願いした。また、かなり狭い店内を撮影するのには、広角で場所を取らないGoProしか技術的には不可能であった。GoProの映像は、今のところ記録用としての役割が強い。フィールドワークを実施した日はその日の内に文章にして記録している。その際の記憶を呼び起こす役割、記録の補填としての役割になっている。今後、映像表現をする際、この映像が使われる可能性はあるが、現状ではそこまでは至っていない。

(パスワード : 181208)

おばちゃんは卒業プロジェクトへの協力には了解を示してくれたが、撮影されることに対してはずっと変わらず難色を呈しており、いまだに抵抗がある。そのため、リンクを貼ったGoPro映像の様に、わずかに端に映り込んでいる程度であれば良しとしているが、正面から撮影することは認められていない。卒業プロジェクトを始めた当初は、調査を続けているうちに関係性が変わり、「撮影することも認められるのではないか」とメンターである先生とも話をしていたが、初めてファミリーカメラに訪れてから2年そしてフィールドワークを始めて4ヶ月が経過した今でも正面からの撮影が許可される気配はない。これは表現方法としてスチル写真や映像を考えていた私にとっては痛手であった。そのため、最終的なアウトプットまで10ヶ月ほど時間があるにせよ、おばちゃんを表現するために、スチルや映像を使うのであればおばちゃんに関係の深い人(つまりおばちゃんの関係性が間接的によく伝わる人)を対象に、もしくは別の表現方法(例えば文章)などを考える必要があると考えている。

次号に続く…

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