日本企業がViva Technologyに注目すべき4つの理由 (2/4)

Taisuke Alex Odajima
7 min readFeb 21, 2019

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世界から熱い視線を集める、オープンイノベーションの祭典Viva Technology。前回の記事では、日本企業がこのイベントに注目すべき第一の理由が、フランスがイノベーション立国としてのポジションを確立すべく、国の維新をかけてバックアップするイベントだからということを解説した。今回は、2つ目の理由にして、同イベントの最大の特徴である、大企業とスタートアップのコラボレーションに関して見ていこう。

注目すべき理由その2:大企業とスタートアップのコラボレーションがテーマだから

細かな解説に入る前に、まずはViva Technologyのフロアーマップを見て頂きたい:

Viva Technology 2018のフロアーマップ

解像度の高い画像が見つけられずに恐縮なのだが、ブースに書かれた出展企業名には、フランス最大のモバイルキャリアOrangeを始め、ルイ・ヴィトンやジバンシィなどの有名ブランドで知られるLVMH、航空機の製造を行うAirbusといったフランスを代表する大企業から、Hewlett PackardやSAP、CiscoにGoogleといった世界トップレベルのIT企業と、およそスタートアップのイベントとは思えない超大手企業の名前がずらりと並んでいることがお分かりいただけると思う。

また、企業名の上をよく見ると、LVMHはTHE FUTUR OF LUXURY、AirbusがMAKE IT FLY、SAPはTHE INTELLIGENT ENTERPRISEと、わかりやすくそれぞれの企業が展開する事業と結びついたテーマを掲げている。実はこれらの企業名は、単純な出展企業名ではなくて、それぞれが掲げたテーマに基づいたスタートアップとのコラボプロジェクトを展示するゾーンとなっている。これが、Viva Technologyがオープンイノベーションの祭典と呼ばれる所以であり、同イベント最大の特徴である「ラボ」と呼ばれる展示方式だ。

例えば、LVMHが掲げるTHE FUTUR OF LUXURYラボであれば、SNS上でのブランドバリューを管理するCRMツールや、足のサイズや形状をスマホのカメラで認識するアプリから、ブランド名が刻印された香水のサンプルをその場で作成するスマートデバイスといった超ニッチなプロダクトまで、極めて幅広いジャンルのプロダクトが展示される。しかし、形は違えどすべてはTHE FUTURE OF LUXURY というテーマに沿った製品であり、すべてがLVMHが支援する企業の製品である。

LVMHのラボL’ATELIER LVMHには、ラグジュアリーの未来を体現するプロジェクトが集まる

そして、こうしたラボ形式の展示に触れることで、フランスが世界最先端のオープンイノベーション先進国とも言われる理由が分かってくるのであり、それこそが日本企業がViva Technologyに注目すべき大きな理由となる。もう少し詳しく見てみよう。

まず重要なのが、展示内容のほぼ全てが、独立したスタートアップのプロダクトであるという点。先に挙げたSNS上でのブランドバリューを管理するためのツールなどは、LVMHが自身の事業を推進する上で外部に発注して作らせたような印象さえ与えるが、こちらもAlcméonという企業が自社製品として開発しているサービスである。LVMHは、アクセラレータプログラムを通じて同社をサポートしているが、そこに受発注の関係はない。自社事業の発展に寄与する可能性のあるスタートアップを、支配するのではなく支援する、委託者と受託者という関係とはまったく異なる関係性であり、それがフランスのオープンイノベーション・エコシステムを根底で支える文化である。

もう一つ、同じくViva Technologyのラボから伺うことができる、フランスのオープンイノベーションの重要なポイントは、スタートアップだけでなく歴史ある中小企業も大企業のコラボ相手に含まれるという点にある。日本でオープンイノベーションというと、どうしてもスタートアップの文脈の上で語られることが多いが、同コンセプトの核はあくまで「お互いの強みを活かした他者との協業による革新」であり、何もスタートアップに対象を限定する決まりは無い。大企業が持たない強みを持った企業であれば、それが創業数十年以上の企業であったとしても何ら問題はないのだ。

香水サンプルのデバイスを展示していた Gaudier & Kuppelは、なんと1908年創業と100年を超える歴史を持った会社で、店頭における商品展示に関わる製品を数多く手がける老舗企業だ。彼らが展示していたPaperscentは、デパートなどの香水売り場でよく見かける、香水を紙に吹きかけて香りをかぐという展示方法に革新をもたらす製品である。

Paperscentの製品イメージ

どうしても周りに香りを撒き散らしてしまう従来の方法に変わって、機会内で紙にロゴを刻印すると同時に香りを染み込ませる形になっている。しかもその頻度や時間などをクラウドにアップしPOSの販売データと比較することで、香りを試した客数と実際に購買した客数を比較したり、店舗や時間などによって試されるフレグランスに違いがあるかなどのビッグデータを収集できるようになっている。

こちらの製品もまた、Christian DiorやGuerlainといった世界トップクラスのパフュームブランドを展開するLVMHの事業と極めて相性がよく、ラボが掲げるTHE FUTURE OF LUXURYともピッタリな内容である。

このように、各大企業のラボでは、様々な形でのコラボレーションで開発を行っているパートナー企業の製品を展示している。Airbusのラボであれば、同じシートでエコノミーとビジネスクラスを切り替えられる革新的なシステムや、SAPのラボであれば、同社が提供するAIやIoTのプラットフォームを活用したRFID管理システムなどが展示されている。

Airbusのラボで展示された革新的な座席システムButterfly

大企業が自社で開発した製品を展示するのではなく、自社のリソースを活用する形で、他のスタートアップや中小企業が開発した製品を展示する。そうした世界最先端のオープンイノベーション事例の数々を通じて、相互の強みを活かした協業というオープンイノベーションの本質を学べることこそが、Viva Technologyというイベントの大きな魅力なのだ。

さらに、この展示形式には、日本企業がViva Technologyに行くべき3つ目の理由、 世界第3位の超大手広告代理店Publicisグループの存在が大きく関わっている。次回はその点を深掘りしてみたいと思う。

注目すべき理由その3:世界第3位の超大手広告代理店が主催しているから

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