すごい専門家さんとすごい素人になるためには

コーポレートの仕事を多くしていると、プロフェッショナルワーカーと仕事をする機会は非常に多い。いまの仕事だけでも、弁護士、会計士、投資銀行(、コンサル)のような職種の人はよく仕事をするし、そうでなくてもエンジニア、デザイナー、広告代理店、IR、サイエンティスト、人事労務、税務、・・・など、非常に幅広く専門職の仕事に関わる可能性がある。そもそもCorporate Developmentの仕事自体も専門職のような感じだ。

かつて『どういう人がすごい◎◎(専門職)なのでしょうか』という、どストレートな質問が飛んできたことがあった。何がスゴい弁護士とそうでない弁護士を分けるのか。何がスゴい人事とそうじゃない人事をわけるのか。ついでにいえば、何がスゴい買収担当と、そうじゃない買収担当を分けるのか。これはちょっと面白そうな話だ。

すごい専門家さんを構成するもの

一言でいえば、専門職というのは『求められている仕事の内容』と『優秀さのパラメータが全く別になってしまっている仕事』である

一番わかりやすい例えは、通訳だ。通訳はもちろん会話を翻訳をするのが仕事だ。2カ国語をペラペラ喋る人である。じゃあ、優秀な通訳の方はどういう人かといわれたら、それは語学ではなくて、例えばめちゃくちゃビジネスが詳しい人である。パフォーマンスを決めるのは、話すコンテンツの方をどれだけ理解しているか、にかかっている。英語を喋れるから発注するわけじゃない。だから優秀な通訳さんは少ないのだ。

弁護士さんは法務判断をし、法的な書面を作成するのが仕事だが、それができたとしてもそれは当然のことであって、優秀とはいえない。なのに、事業のことをめちゃくちゃ知っていたとしたら、いきなり優秀な弁護士さんなのだ。おんなじ契約書を書いているにも関わらずだ。事業側がやろうとしていることのエッセンスを理解した上で、事業の意向を一つの法務文書にゴーストライティングしていく。すごい人は「みなまで言わんでもいい。後はこちらでやっておく。」的なカッコいいセリフを吐いて、勝手に論点をつぶし、検討をほぼ終わらせている。もはや法務の部分を超えて、事業側の論点の抜けすら一撃で刺してくる。恐るべしプロフェッショナル。

買収担当もそうで、ディール実行は作法としてわかっていて、コーポレート・ファイナンスを理解しているのは前提なのだが、それだけだと、買収のオペレーションを回すことしかできない。

プロダクトがわからないと完全にセンスの悪い案件を持ってきてしまうし、役員人事要件がわからなければ、いい経営者を見間違う。現場の数字を知らなければトンチンカンな計画を書いてしまう。業界知識に関しても、知らない領域であればセンスのいい案件にたどり着くまでに1年以上かかったりすることもありえるが、わかってれば1秒で1撃だ。だから、パフォーマンスファクターはどうしても買収実務以外にあるのだ。だから優秀な買収担当も探すのがくそむずかしい。

エンジニアさんもデザイナーさんもそうである。人事もそう。推して知るべし。

こういった話に共通するのは

  • 仕事自体は専門知識を問われるものなのに、GoodかGreatかをわける基準が自分の専門分野にはない

という事実だ。

専門家として要求される役割は絶対できなければいけない。でも、すごい人になるためには、ぜんぜん違う勉強が必要になる。

でも、誰もやれって言わない。

すごい専門家さんになる資質

だが、この『勉強』ができる人間はどの分野であってもめちゃくちゃ少ない。なぜ少ないかというと、他の分野まで勉強する意志のある人はすごくすごく少ないからだ。

自分が職責を負っているわけもないのに、余暇の時間を消費してでも関係ないこと・優先度が低そうなことをを学習するというのは普通受け入れがたい。

第一、そんな簡単でもないし、時間もない。忙しい人であればせいぜい時間を作れて週に5時間−10時間だろうが、サラッと勉強するだけじゃ大抵はわからないので、それなりに腰を入れて相当な時間勉強することが必要になる。

勉強する分野は、仕事と関係しているけど微妙に遠いので、分からないことは聞きづらいし、効果も見えにくいので、かなり忍耐が必要になる。

こういうたぐいの学習をできるかどうかは、ほとんどメンタリティの問題であって、地頭とか素質とかの話ではない。必要か必要でないかは、それぞれ個人の価値観に左右されるので、やらない人は絶対にやらない。そういう人には必要だと説得することすら難しい。だって実際「いま絶対に必要か」「それは俺の仕事か」といわれたら、NOだ。納品するだけなら専門知識だけでできるので、永遠にWANT要件のままである。

悩ましいのは、これが小さな差ではなく、けっこう致命的な差であるということ。

こういう勉強というのは、地道で線形に伸びるタイプのものだ。100時間がんばれば、だいたいの人は100時間分の知識を身につける。積み上げるのには相当時間かかるし、かなり継続が必要になる。

また、これは取り返しがつかないとも言っていて、一度5年分の差がついたら、ほぼ追いつけない。直近6ヶ月で何もしてないなら、たぶん6ヶ月後もゼロだ。この差は時間が立てば立つほど開いていくので、追いかける意志のある人もだんだん減ってくる。

最終的に「勉強を続けられる人」か「勉強を一切しない人か」のゼロイチにわかれていってしまう。

素人(専門家じゃない側)のすごい人

いきなり話が反対になっちゃうが、専門家じゃないビジネス側の人も同様に、こういう勉強はものすごく大事である。戦略のような結構影響範囲が大きい話のときには、致命的になる。

はっきりいって、ふつうの考え方では「専門領域は専門家にまかせてマネジメントに専念する」みたいな考え方が一般的だ。まあそうかもしれない。

だが、言うは易し行うは難しとはこのことで、専門領域もかじっておかないと、現実的には非効率すぎてお話にならない。

知らない人が持っている武器はたった3つである。

  1. 「それってすごいんですか?すごくないんですか?」
  2. 「ほかと比べてどうなんですか?」
  3. 「それってできるんですか?できないんですか?」

知らないと、これしか言えない。だから丸腰な人が専門家と仕事するとだいたいこんな感じになる。

「ディープラーニングってすごいんですか」→「いやー、何に使うかですよね。ぶっちゃけバズワードになっちゃってる感あるし、結局画像とかだし、特にものすごい新しいことやってるわけじゃないし」
→「なるほど画像しか使えないらしい、じゃあダメだ」

「AIって人間を置き換えるんですか」→「うん、可能性はなくはない。 (=人工知能は過去60年見ても非連続に突然進化する分野だからやっぱ読めないしねえ。)」
→「やばいマジ未来ですね。AI活用した◎◎探してみます」

・・・こんなヒアリング力で戦略なんか立てられるわけない。聞いた人が本当に知識があって信頼できる人なのかすら評価できないだろう。

こういう人は、自信のある人や学歴が立派な人に会うと、コロッといったりするので、そういう意味でもとても危険だ。

一緒に仕事をするだけなら研修資料くらい、戦略を立てるなら基礎知識(大学レベル)の概要は抑えておくべきだ。そっちのほうが明らかにセンスが良くなるし、最終的に100倍早い。

グローバルなインターネット領域では、PDCAをまわして2年経つっていうのは、スピード感から言って、ほぼその領域を諦めてるに等しい。筋の良い仮説を1発か2発で決めていかないと、タイミング的に間に合わない。だから、その本番の1発のために、余計に勉強が必要になる。

WANT要件ぽい勉強が、実はMUST要件に近くなっちゃうのだ。

ちなみに、素人が専門家さんを評価するやりかたというのは、明らかに正攻法が存在していて面白いんだけど、またこれは今度書いてみる。(これ)

すごい専門家さんのスタンス

少し話は変わるが、スタンスについて。主にコーポレート、つまりビジネス側をサポートする職種に関して、すごい専門家さんとしての仕事のスタンスはだいたいこの2パターンにわかれる

  1. 鉄壁のディフェンス
  2. まるで中心メンバーかのような当事者意識

1は、何を持っていっても、全て詳細に検討してくれる人である。受注側なのに強い意志を持っていて、ダメなことにはダメとはっきりいう。事情を考慮してヌルっとやってくれるとかは絶対ないので、事業側としては全力で説得・お願いしにかからなければならない。だいたいの場合敵対的になるけど、逆にその全力のオフェンスとディフェンスが、質につながる。あの人がOKなら大丈夫、となるし、どんだけゆるい状態で持っていっても、ダメなところを全部ボコボコに叩いてくれる、っていう感じになる。結果的に正しいものがアウトプットされるし、わりと速い。

2は、完全に内輪に入ってくる人である。見えている視界の広さから『勝手にこれ考えてみたんですけど、こっちのほうが良さそうです』とか言ってくるタイプの人である。言ってもないのにビジネスサイドまで突っ込んでくる。本来的には事業側が専門知識をわかった上で検討しないといけないのだが、どうしても専門知識が抜けてることが多くて抜け漏れがでる。こういうエネルギッシュな専門家がいるとそもそも検討精度自体が上がり、手戻りがなくなって、すごく早くなる。

どちらにも当てはまらない専門家さんは、一転してボトルネックになりがちだ。とりあえず、杓子定規にダメなことだけダメという。ダメという理由は、規定がそうなっているから、そういう運用だから、になる。そもそも考える素地がないので、議論しようがない。

優秀は専門家は、完全な知的労働者で、非常に幅広い視野を持っているが、そうでない専門家は、ほぼ作業者と化してしまっていて思考を受け付けない。

スタンスだけでもこういう違いが出てしまう。

ほいでは。