2016年はカンバセーショナル・コマースの年

by Chris Messina

This is a Japanese translation of the article titled, “2016 will be the year of conversational commerce”, published by Chris Messina on Jan 20, 2016.

I was very inspired by his thought and got a strong urge to translate this phenomenal piece into Japanese so that I can share the idea faster with my colleague and many other peoples in Japan.

下記は、1月20日に Chris Messina 氏が “2016 will be the year of conversational commerce” のタイトルで Medium.com へ寄稿した文章を日本語に翻訳したものです。

Chris Messina 氏は、ハッシュタグの考案者としても有名ですが、Google やスタートアップ・コンサルティング業などを経て、1月から Uber の Developer Experience Lead としてご活躍されている方です。

タイトルから「コマース」に限定した話のように見えるかもしれませんが、テキストやボイスでのカンバセーショナル(会話型)ユーザー・インターフェースが最近注目されはじめている理由や、メッセージング・アプリ/サービス上で提供されるカンバセーショナル・サービスとそれを支えるプラットフォームの発展、商取引・決済での活用、App Store エコシステムへの影響についてなど、詳細な分析が展開されています。

モバイル・インターネットの次のステージがすぐそこまで来ていることを感じさせ、未来への想像をかきたてる内容です。

それでは、 ここからが本文の翻訳です。


昨年の今頃、私はあるトレンドの兆しについてまとめた文章を寄稿しました。このトレンドは、2016年に一般消費者向けコンピューター・アプリで大きな影響力を示しはじめていると思いますが、私はこれを カンバセーショナル・コマース と名付けて、#ConvComm のハッシュタグでトラッキングしてきました。

2015年でこのトレンドに最も良くあてはまっていたのは、 Facebook Messenger への Uber のインテグレーションといえるでしょう:

そして、月間アクティビティー数でメッセージング・アプリがソーシャルネットワークを超えたことを示す、ビジネス・インサイダー誌のデータがここにあります:

また昨日、WhatsApp (Facebook 所有)が突然(しかし必然的に)1ドル年間利用料金制の廃止を実施し、カンバセーショナル・コマースへの未来を見据えて完全無料化しました:

今年より、当社は、お客様からの関心が高いと思われる企業や団体とのコミュニケーションが行えるツールのテストを開始します。ご利用銀行に不審な取引履歴について問い合わせたり、航空会社に利用フライトの遅延情報を確認することができるようになります。このようなメッセージのやり取りは、電話やメールなどでは日常的に行えますが、それを WhatsApp 上でも簡単に行えるように、これまで通り外部広告やスパムの無いサービスを提供し続けながら、新ツールのテストを実施したいと思います。

約9億ユーザーを持つにもかかわらず、これまで WhatsApp の記事をあまり取り上げてこなかったテクノロジー系メディアにおいても、この動きの重要性は(これだけ多く記事になっていることからも)直感的に理解されているようです。

これと同日、sam lessin は、近い将来の『ボット』マーケットにおける勝者と敗者についての考え(訳注:日本語訳はこちら)を記述しています。そこで彼は、カンバセーション型体験は、『…(シリコン)バレーで開発されるアプリのタイプやサービス開発のスタイルを変えてしまう根本的な変化の再来』 を意味していると結論づけています。

私も同感です。だから断言します:

2016年は Conversational Commerce の年になります

このパラダイムに分類されるスタートアップやアプリを集めて勢力調査をしたり、記者と意見を交わしたりマーケティング担当者ブランディング代理店プラットフォーム・メーカー、そしてベンチャー投資家がどのように同一の結論にたどりついたのかを見てきた中で、私は、この素晴らしい新世界へ突入していくにあたって重要になると思われる点について、いくつか書き留めておこうと思いました。

あらかじめ明言しますが、(私の視点での)カンバセーショナル・コマース とは、主にチャット、メッセージ、その他の自然言語インターフェース(例:ボイス)を利用した、人、ブランド、サービス、ボットとの対話に関連することで、ボットは双方向の非同期メッセージ・コンテキストとして、これまでに存在していなかったものを指します。 これにより、私たちは今年の終わりまでに、Facebook Messenger、WhatsApp、Telegram、Slack などを通して、ブランドや企業と会話するようになり、それを当たり前 と思うようになります。実際にこのような事例はすでにいくつか存在していますが、数は少なく稀であり、一つのProduct Hunt コレクション収まってしまい、App Store を占有するほどにはなっていません。(もうしばらく待ちましょう)

また、私はカンバセーショナル・サービスが、人、ボット、または、その組み合わせなど、どのような形で提供されているかについて、あまり関心を持っていません。私がそれらを入れ違いに言葉として使ったとしても、それは無意識に混同しているのではありません。時代が進むにつれて、コンピューター制御されたボットは、ユーザーが違いを認識できないほど人間的な感覚に近づき、相手が人とコンピューターのどちらでも、ほぼ同等のインタラクション・パラダイムで対話を行うからです。


ディスカバリーとディストリビューション

このパラダイムでの最も大きな課題は、新しいカンバセーショナル・サービスを見つける方法(ディスカバリー)にあります。

既存のメッセージング・サービスは、Snapchat DiscoverSlack App Directory のように、ユーザーがおすすめのパートナーをブラウズして探すような従来型アプリ・ストアを各自で提供すべきでしょうか? そして、これらのカンバセーショナル・サービスは、人気メッセージング・アプリのディストリビューションにのみ依存すべきでしょうか?

…または、これらのサービスは data detector や、Facebook Messenger に実装されているような専用拡張インターフェースを使い、コンテキスト内でアクセスされるべきでしょうか?

Facebook Messenger で移動交通手段を調べる

あるいは、ボットは自然な形で現れるべきでしょうか? — 例:友達が名前でボットを話題にしたときや、スレッドの会話にボットを招待するときなど。 これはより自然に感じますが、実現には適切なタイミングで役に立つボットの情報を教えてくれる「ゼロ号感染者(※訳注:拡散の起点)」が、たくさん必要になるでしょう。

このディスカバリー問題は未解決であり、他のすべてのメッセンジャー系アプリで解決を迫られる課題となり続けるでしょう。私は F8 にて新たなアプローチが提案されることを期待しています。これは単に、昨年メッセンジャー・プラットフォームがアナウンスされて以降、あまり多くの発表がないという理由からですが。


カンバセーショナル・コマンドラインの獲得競争

見つけにくいカンバセーショナル・サービスのディスカバリーは、ユーザーがプログラマーのように考えて文字を打つことに少しずつ馴れてくれば、今よりも軽微な問題になるでしょう。これは、複雑な文章での表現を面倒に感じる一方で、技術スキルが向上してくことで、ユーザーがコマンドラインの効率性を好むようになる可能性が高いからです。

Sarah GuoRevenge of Clippy (クリッピーの復讐 ※訳注:Clippy は旧MSオフィスのアシスタント機能)での意見や、Partyline の 『the future is one simple interface (未来にあるのは1つの単純なインターフェース)』 が主張しているように、未来はこのような姿ではなく:

…このような姿になるだろうということを信じるかどうかにせよ:

結論としては、将来的に人々はメッセージング・アプリにコマンドを入力するようになるはずで、これは Slack での スラッシュ・コマンド 標準化やMixmax がスラッシュ・コマンドをメールで使えるようにしている動きの重要性、そして、PeachMagic Words のような革新的なソリューションが、すぐに使えるシンプルな道具としてユーザーに提供されようとしている理由にも示されています:


スレッド、デバイス間での継続性、究極のパーソナライゼーション

iCloudの登場で、私たちはクロス・デバイス・コンピューティングがどのようなものなのかを(何度も失敗はありましたが)ついに少し体感しました。Facebook Messenger や Slack は、iMessage を超えた次世代の製品だと感じさせてくれます — クラウド上でいつでも瞬時に更新が同期されます。 デスクトップとモバイル・アプリを行き来しても操作性や継続性を失うことはありません。会話内容は行動にあわせて自動的に整理され、デスクトップ上で会話をしていたボットは、モバイル端末を開いてもそこに現れます。インストールや設定は一切ありません — だた使うだけです。

つまり、カンバセーショナル・アプリは、アプリ・メーカーの都合ではなく、自分の生活に合わせて整理されるのです。

このような環境に居られる快適さは感慨深いでしょう。例えば、私は新しい職場である Uber で新しいラップトップをもらわなくてはなりません。私は仕事環境を今までと同じようにするための「お気に入りのアプリ」を間違いなくいくつもインストールするでしょう。しかし、Facebook Messenger は同じ状態でそこにあります — アプリを起動した瞬間に、すべてはいつもの通りです。避けられなかったはずの面倒さが消えた体験は、ユーザーのサービスに対する印象を変えます。定量的には説明できませんが、この体験はプラットフォームへの長期的な信頼に重要な差を生み出すと直感的に思います。

この継続性は、カンバセーショナル・インターフェースによって実現される究極のパーソナライゼーションの形式といえます。もし、あなたが他人の Facebook Messenger のスレッド、Twitter の DM、iMessage や OKCupid のメッセージ、または、Snapchat のチャット内容を覗いたとき、メッセージやコンテンツの順番、内容、流れる速度に対して、間違いなく大きな違和感を覚え、おそらくそれをとても退屈なものに感じるでしょう。何らかの緻密で統一的な利用プロセスをすべてのユーザーが体験するゲーム・プラットフォームと比較してみると、この絶妙な形式での究極のパーソナライゼーションが、カンバセーショナル・パラダイムのコアであることがわかってくるでしょう。


カンバセーショナル・アプリの言語と通知

言うまでもありませんが、従来のアプリに対して使われる動詞は、カンバセーショナル・パラダイムにおいては重要でなくなります。私たちはアプリを「購入する」、「ダウンロードする」、「インストールする」、「削除する」と言います。カンバセーショナル・パラダイムは、より社交的で技術的要素が減ります。人間味のある「追加する」、「招待する」、「連絡する(コンタクト)」、「無視する(ミュート)」、「拒否する(ブロック)」、「伝える(メッセージ)」のような動詞を使います。普段の会話で使われる言語は、多くの一般人にとって使いやすいため、カンバセーショナル・エージェントの普及の加速は、デスクトップ・アプリで見られたよりも速いでしょう。

ユーザーにアプリの「ダウンロードとインストール」を促す必要が無くなります — ユーザーはボットを会話に招待して話すだけで、[ゆくゆくは]人と話すのと変わらなくなります。普及への障害がゼロになり、ユーザーへのリスク(例:マルウェアなど)も最小になります。

また、ボットからの通知は迷惑なことではなくなり、受け入れられるようになるでしょう。なぜなら、友人から情報をもらうことは普通のことだからです。ニュース・アプリからの「最新ニュース」のアラート通知にイラッとした経験はあるかもしれませんが、とてもフレンドリーなニュースボットが、あなたが特に興味を持ちそうな内容で、パーソナライズされたおすすめ情報を送ってきたら、あなたはきっとありがたいと思うでしょう。


決済、位置情報、継続的なID

これまで、このパラダイム・シフトにおけるユーザー体験の変化に関して、いくつかの側面について述べてきましたが、他にも考慮すべき重要な側面があります。それはカンバセーショナル・アプリのユーザー がもたらすものに関係があります:具体的には、これまでのコンピューター環境にはありえなかった、たくさんの情報と処理能力です。

Uber の Messeger へのインテグレーションが実現可能になった理由のひとつには、モバイル決済の仕組みが、現在ではチャットアプリで一般的になっていることがあります。ユーザーは Facebook Messenger 内で直接送金できるため、この決済システムを使って、ボットへ代金の支払いができるようになりました。

Facebook Messenger 内に支払方法を設定することで、ボットに対しても決済できるようになる

さらに、カンバセーショナル・モバイル・アプリは、位置、ヘルスケア、センサー、ソーシャル・データのような、ユーザーの状況的な情報を非常にたくさん持っています。この情報は不正利用防止の対策として有用なため、(Operator などの)カンバセーショナル・アプリは、取引と決済でこれらの利用を積極的に進め、クエリ依存モデル(別名:Google)からは離れていくでしょう。

一方で、優秀な開発者たちもこれらデータをすべて利用可能になるため、興味をそそるような、さらにパーソナルなエージェントやボットの開発につながるでしょう。また、すべての会話や行動は記録に残るため、会話のスレッドが長く続くほど、ユーザー個々のニーズを認識してより素早い対応をする方法が提供しやすくなります。つまり、より多くのカンバセーショナル・エージェントが、あなたのことを深く知っているかのように見えてくるでしょう!


アンビエント・コンピューティングとトロイの木馬ハードウェア

これについては昨年の投稿で述べていますが、大手企業から販売されているボイス制御型ハードウェア・トロイの木馬(※訳注:家庭に入り込む戦略への表現)は、無条件に受け入れられているとは言えない状況です。具体的な数字を見ていないので間違っているかもしれませんが、私の感覚では、Amazon Echo小型化の予定)や Google onHub のようなデバイスの時代はまだ幕を開けたばかりだと思います。

インターネット・オブ・シングスやウェアラブルへの関心は続いていますが、これらの「会話型家電製品」は、 例えば Xbox 360 と比較してみると、一般消費者からの興味はあまり高くないようです。とはいえ、ほとんどの人はスマートフォンを持っているので、このような家庭向け専用AIデバイスは、スマートフォンを持つことにまだ抵抗があったり、スマートフォンの基本機能しか使わない(例: アプリをインストールしない、使わない)ようなユーザーを取り込もうとしているのかもしれません。


超ハイスピードな開発サイクル、競争の激化、カスタマーサービス

クロス・プラットフォームでのアプリ開発に比べて、カンバセーショナル・ボットの開発は低コストに高速で出来ると Lessin 氏は指摘しています。これは大変重要です。

インストール型クライアントソフトウェアの開発は時間がかかります。複数バージョンの同じソフトウェアが異なるデバイス上で走り、ソフトウェアをリリースしたらバグやエラーは簡単には修正できません。スタートアップはこの課題を克服することに苦労します(以前に私が書いたように)。ボット・パラダイムは、デベロッパーが素早く開発することを再び可能にしてくれます。

より高速で低コストな開発は、資金投資を必要とする「ボット・ビジネス」の減少を意味します。投資がなくても、ボット・テンプレートを利用し、それを微修正するだけですぐにリリースができます — 週末の間に。ユーザーの利用状況からフィードバックを集め、もしそれがヒットしそうなら、そのときに、そのボットを有効活用するためのビジネスが何かを考えればいいだけです。

これはまた、サービス開発者が自身のエージェントやボットとユーザーとのインタラクションに、とても敏感になる必要があることを意味します— 会話に人間味を与え、適切なローカライズを行い、有益で差別化されたサービスを提供するということです。ボットのディスカバリーとディストリビューションは、もっとも速く、もっとも気が利き、もっとも反応が良いボット開発者に有利になります。App Store での場合とは異なり、口コミでの拡散が会話の状況下では自然なことだからです。

優れた開発チームは、状況がわかりずらい App Store の申請プロセスに待たされること無く、自分たちのペースで、消費者ニーズを的確に捕らえながら、サービスを成長させていくでしょう。新バージョンのリリース準備ができたとき、コードを反映した瞬間に、すべてのユーザーへ最新バージョンが行き渡ります。アップデートもインストールも待ち時間も不要です。

そのため、競争の場は、派手なマーケティング展開 (Boom BeachやClash of Clansを想像してください)と App Store カテゴリーのトップランキングへの執着から、友人のつながりでの拡散と、口コミの広がりを重要視する方向へ少しずつ変化していくでしょう。


プラットフォーム、SDK; 既存事業者と新規参入者

明らかな勝者といえるものが不在で、消費者とデベロッパーの両方の心を捕らえるような戦略がまだ見ないタイミングに、私たちはついに遭遇しています。

Slack API は、もちろんとても人気です。Facebook のメッセンジャー・プラットフォームと WhatsApp は広く普及していますが、WeChat Line のようなアジアのライバルに追い上げられています。 Telegram の Bot API も見逃すことは出来ません。 Google も独自のチャット・ボット・メッセージング・プラットフォームをさらに提供するかもしれません。(Hangouts は開発中止?)

その他のプラットフォーム企業は、デベロッパー向けに開発を行い、エンタープライズ分野で収益を上げています。IntercomSmooch は、自社のアプリを使い、ブランドや企業が顧客との会話を行えるようにしています。TwilioLayer は、高性能化する製品に組み込むことができる、より主要なコンポーネントを提供しています。

圧倒的な勝者を決めるにはまだ早すぎますが、さまざまなカンバセーショナル・プラットフォームが、どのように成長し、差別化していくのか、また、各プラットフォームがユーザーをどのように管理し、アクセスを与え、サードパーティー展開するのかを見ていくのは、楽しみなことになるでしょう。

カンバセーショナル・パラダイムへすべてが向かうのでしょうか?

そうではないでしょう。しかし、アプリの中には独立アプリとして存在する必要が無いものや、誰にも知られず、使われないままのものがたくさんあります。新しいサービスを試すためのコストとストレスを減らすことで、カンバセーショナル・コマース・パラダイムは、気軽に実験が行えるまったく新しい時代を開きます。時間とともに、サービス開発者は、使い慣れた会話のチャンネルで届けられる明確な価値にフォーカスできるようになり、過剰に作り込まれたアプリのインターフェースをユーザーに学習させる必要がついに無くなります。

この動きはサービス開発者にとって良いニュースであり、ユーザーにとっても良いニュースです。2017年になったときに、私たちがどこまで到達できているかは、まだ想像することしか出来ません。


追記(原文筆者から)

筆者は、SXSW 2016 の Get the Message! The Rise of Conversational UI (メッセージを聞け!進撃のカンバセーショナルUI) というパネルに Jonathan LibovJulia Hu とともに参加いたします。 せひご来場ください!

この文章は、中国語、日本語 (※訳注:このページ)、韓国語Keywon 訳)に翻訳されています。文章は、New York ObserverInside にも転載されています。


追記(訳者から)

この翻訳は原文の筆者 Chris Messina 氏の承諾をもらい Medium.com 上に公開しています。

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