ボット、カンバセーション・アプリ、Fin について

by Sam Lessin

Masahiko Sato
12 min readApr 6, 2016

The original article, “On Bots, Conversation Apps, and Fin” by sam lessin, was published on The Information and reposted on the website of his company Fin, where he is the co-founder and co-CEO.

Art by Sam Lessin

2016年は、ボットの年になると言われています。そしてデベロッパーのエコシステムにおいては、従来のポイント&クリック型アプリから、チャットをベースとしたユーザー・インターフェースへと向かう大きなシフトが起きているように感じられます。

このようなことが起きているのは、消費者と開発者にアプリ疲れが広がっていることが原因です。消費者は、従来型アプリを新しくインストールしたり利用したりすることが面倒になっています。そして、それも一部の原因として、開発者はアプリ配布コストの上昇に直面しています。

これと同時に米国のプラットフォーム企業は、アジアのメッセージング・サービス(※訳注:主に中国の WeChat のことを指す)をモデルとして、アプリの次に来る新しい戦場への準備をしています。スラック(Slack) のような企業は、Chat-as-platform を次の大きなステップに見据えています。フェイスブックは、アプリ・プラットフォームの競争に復帰するために、自社のメッセージング・プロパティ (Messenger と WhatsApp)に期待をかけています。

しかし、一番重要の問題は、ボットとカンバセーショナル・インターフェースへの移行が、大混乱を起こすきっかけになるのか、そうではなく、インターフェース・パラダイムにおける進化のようなものになるのか、そのどちらを示すのかということにあります。

私たちは、これまで数十年の間にプラットフォームが大きく転換する瞬間を何度か経験しています。マイクロソフトに独占されていたデスクトップのパッケージ・ソフトウェアから、すべてが無料のウェブへの動きがありました。次に、ウェブからアップルとグーグルに支配されたアプリの世界への移行がありました。そして現在、私たちはアプリからボットとカンバセーションへの移行のスタート地点にいます。

私が投資家と事業者の両方の立場で確信していることは、2016年のボット・パラダイムへのシフトは、おそらくパッケージ・ソフトからウェブへの動きほど重大ではないかもしれませんが、過去十年のウェブからモバイル・アプリへの移行と比較して、はるかに破壊的で面白いことになるだろうということです。

前回の大きなシフト: 2008年

2008年にアップルはアプリ・ストアをオープンし、ウェブからダウンロード・アプリ型のクライアント・ソフトウェアへの逆戻りを促進しました。

開発者は、複数の新しい言語と新しい申請プロセスに対応せねばならず、また、クライアント・ソフトウェアの開発と維持における様々なコストと課題に対処する方法を思い出す羽目になりました。

しかし、移行する価値は明らかにありました。

スマホは対象オンライン人口を増やし、さらに各利用者の接続時間を伸ばすことで、開発者の市場を拡大しました。同時に新しい決済方法により、開発者が以前よりも収益を向上することが可能になりました。

ゴールド・ラッシュが起きました。新しいプラットフォームを素早く効率的に収益化できるカジュアル・ゲームのようなカテゴリーは急速に成長しました。また、この変革はインスタグラムやスナップチャットのようないくつかの企業を大手ウェブ企業に対して優位なポジションに伸し上げました。

しかし、このラッシュは比較的短命であり、ほとんど多くの急進的なアプリ・ファースト企業は淘汰されてしまいました。現時点で優勢な参加者のリストは、アプリ以前の頃とそれほど変わっていません。フェイスブック、グーグル、アマゾンがそれぞれの垂直領域 — コミュニケーション、検索、コマース — で優位な立場にあります。全体の規模として小さかったアプリ以前の頃と同じ状態です。

長期的には、このアプリ・ラッシュの遺産が、分散型地域別労働力の管理を容易にし、人々の時間とお金の使い方の流れを究極に根本から変化させながら、ウーバーやポストメイト(Postmates) のようなオン・デマンド・サービスを普及させていくでしょう。

アプリ時代に、新しくて素晴らしいサービスをいくつか実現したことは確かです。しかし振り返ってみれば、それはコミュニケーション、検索、エンターテインメント、コマースの基本勢力に、ほとんど全く変化を起こしませんでした。それは、大手企業による影響の範囲と力を拡大させただけでした。

次の大きなシフト:2016年

アプリへのシフトが、開発者をサーバー・サイド開発からクライアントに移したのであれば、現在のシフトで最も重要な部分は、ボットを利用してサーバーへ立ち返り、クライアント・ソフトウェアから離れていくということです。

現実的には、これはサービスが2つの方法のいずれかで開発されることを意味しています。1つは、ユーザー向けフロント・エンドとして、まずはテキスト・メッセージ(※訳注:SMSのようなショート・メッセージ機能)、将来的にはフェイスブックやスラックを利用するような、クライアント・サイド無しのソフトウェアです。もう一方は、そこまでは行かずに、とても軽量でシンプルなアプリを使い、非常に作り込まれたサーバー・サイドのサービスに接続している方法です。

このシフトにはいくつか有利な点があります。まず、とても重要なことですが、インストール型クライアントソフトウェアの開発は時間がかかります。複数バージョンの同じソフトウェアが異なるデバイス上で走り、ソフトウェアをリリースしたらバグやエラーは簡単には修正できません。スタートアップはこの課題を克服することに苦労します(以前に私が書いたように)。ボット・パラダイムは、デベロッパーが素早く開発することを再び可能にしてくれます。

また、日々確実にスマホはよりパワフルになり、ストレージ容量も増加していますが、サーバー・サイドで扱える膨大なデータと処理能力と比較した場合、それはおもちゃに過ぎません。いわゆるAI企業が続々と誕生している大きな理由がここにあります。これらの企業は、ボット開発者にとっての武器商人になっていくでしょう。

さらに、フロント・エンド上でボットを利用したサービスは、理屈的にはアプリよりもはるかにパーソナルなものになります。ダウンロードしてインストールされるアプリは、大まかにはどのユーザーにとって同じものです。確かにアプリ内のコンテンツは個別の内容かもしれませんが、端末にインストールされたソフトウェアのレイアウト、機能性、内容をユーザーごとにカスタマイズするのは非常に難しいことです。ボットは異なります。インターフェースをいじることなくコンテンツとサービスをカスタマイズするので、理屈的にはボットは無限大にパーソナライズが可能です。

一方で、ボットの世界の開発者にとって、すべてが良いことばかりではありません。

まず、ボットはメッセージされ、インストールしないという事実は、開発者にとっての諸刃の剣です。

アプリの面倒なインストールのプロセスに比べ、インストールのステップがなくなることで、ボットはすぐに簡単に利用を開始することができます。これはユーザーが新しい物を試すことへの抵抗を減らします。

マイナスの部分は、アプリではユーザーのホーム画面に入り込むことができれば、開発者はユーザーとの直接関係を築くことができます。ボットには、メッセンジャー上に居座って目立つ画面位置を占有できないという制約があり、ボットがそのような状態に達するのはきわめて厳しいでしょう。

また、ボットに関連するプラットフォームのビジネス動向は、まだ定まっていません。ボットについての明確なルールが作られていくことは、それが活力のあるエコ・システムになるか、失われた発展になるかの決定への大きな作用となるでしょう。

これには両極端の可能性が考えられます。一方は、スラックやフェイスブックのような企業が、様々な垂直分野での実力者として君臨することです。これはアジアでのメッセージング同業社が行ったことと同様です。こうなることで、プラットフォームへより多くの利益が直接的に導かれ、より使いやすく、より深く統合されたサービスが実際に提供されるようになるかもしれません。しかし、たくさんのイノベーションが抑制されてしまうことにもなるでしょう。

他方の極端な可能性は、すべてが無料のボットです。それはたくさんのイノベーションを生み出しますが、しかし、サービス品質やプライバシーに関して、利用者への問題もおそらくたくさん引き起こすでしょう。

起こりうる結果は、ほぼ間違いなくどちらかの中間になるでしょう。プラットフォーム企業は、両極端での間違いの歴史と経験を何度も積み重ねてきました。しかし、単一のプラットフォームに開発者が依存し、プラットフォームがアプリの規則と配布条件を変更できる状態である限り、しばらくの将来において、開発者は不安定な状態に置かれたままでしょう。

Fin.

ボット空間や「カンバセーショナル・アプリ」空間について語りたがる人々がいます。これは、ばかげていると思います。ボットやカンバセーショナル・アプリは「空間」ではありません。それは開発者が向かっている方向を説明している大きなパラダイム(※訳補:パターンや体系)です。

ショッピングにフォーカスしたカンバセーショナル・アプリがいくつかあります。アマゾンやその他コマース・プラットフォームは、カンバセーション領域がビジネスとして重要になった時、いつかそこに参入して、彼らと競争することになるでしょう。

トラベルにフォーカスして、あなたが旅行先を考えたり、行き方を調べたり、宿泊先や旅の目的を決めるのに役立つカンバセーショナル・アプリがいくつかあります。彼らはトラベロシティ(Travelocity)やトリップアドバイザー(Tripadvisor)との競争となり、さらには、自社のカンバセーション・インターフェースを開発すると思われるエアビーアンドビー(Airbnb)との競争にさえなるでしょう。

また、エンターテイメント、ニュース、そして基本的には現在のアプリストアにある、その他のカテゴリーそれぞれにフォーカスしたカンバセーショナル・アプリも登場するでしょう。

私はカンバセーショナル・エージェントの開発をしている小さなグループに所属しています。Fin という名前で、検索とインフォメーション分野に取り組んでいます。

私たちは、あなたのために回答を見つけ、メッセージを送り、予定をすべて覚えておくために、マシンと人間の知性を組み合わせて利用しています。

それは Siri や Echo や Google Now のように使えます。しかし、私たちは人間を使うので、Fin は時々ではなく、いつでもあなたに回答を提供し、簡単な事実にだけはではなく、人間の自然な要求に応えることができます。

私たちはカンバセーショナル市場の全体に参入しているのでしょうか?もちろん違います。しかし、私たちは日常にある中心的な体験を劇的に良くすることができると強く思っています。

まとめ

私は熱狂に飛びつくのは嫌いです。カンバセーショナル体験やボットに関する話題や注目については、すべてがつまらない宣伝に過ぎないと言うこともできるでしょう。

私はそうではないと思います。これは(シリコン)バレーで開発されるアプリのタイプやサービス開発のスタイルを変えてしまう根本的な変化の再来だと思います。

全体してみると、私はとても興奮しています。最良のケースでは、ボットはユーザーへより良質なサービスを急速に広めて、アプリ・パラダイムでは実現しなかった方法で、巨大な既成勢力を破壊するでしょう。

これから注目すべきことは、カンバセーショナル・アプリ分野という無関係な広い概念において誰が勝者になるかということではなく、むしろ、どの既成大企業が次のシフトへスムーズに移れるか、そして、新しい手法と新しいツールを持った新しい機敏な開発者たちにより、誰が引きずり落とされるのかということです。

上記は、Sam Lessin 氏により The InformationFin(彼が共同創業者兼共同CEOの会社)のウェブサイトの掲載された文章を日本語に翻訳したものです。

この文章の内容は、Chris Messina 氏の “2016 will be the years of conversational commerce” (日本語訳:2016年はカンバセーショナル・コマースの年)で複数回引用され、今年はじめ頃から特に注目を浴びている「カンバセーショナル・インターフェース」や「ボット」についての議論の中で頻繁に引用されているたいへん重要な文章です。

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原文

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Masahiko Sato

A software engineer at Yahoo Japan, managing teams to build platforms for mobile apps and services.