1.1.1 資本主義・消費主義の限界と「まやかしの幸せ」

オホーツク島
5 min readJan 31, 2017

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第一章 研究の背景と目的

1.1 研究背景

1.1.1 資本主義・消費主義の限界と「まやかしの幸せ」

二度の大戦と東西冷戦の時代が長く続いた20世紀が終わり、21世紀に突入して16年が過ぎた。リーマンショックに代表される世界的な経済危機などを経ても、世界的に経済格差は、特に各国の内部における格差は広がり続けている。

公益財団法人 世界平和研究所が発表したレポート(2016)では、まず経済格差の問題点が「市場の失敗(市場の不完全性)」と「社会・政治の不安定化」であるとしている。その上で経済格差の現状について所得格差と資産格差を指標に、先進国、途上国ともに格差の拡大傾向があるとしている。また貧困に対する問題に取り組む国際協力団体オックスファムは、2017年1月に「99%のための経済」という報告書を発表し、現在世界の最も豊かな8人が持つ総資産が世界人口の半分(36億人)が所有する総資産に匹敵すると述べている。同じくオックスファムが2016年1月に発表したレポートでは、2015年中に「世界の1%が残り99%より多くの富を所有する」という状況が現実化してしまったと述べている。

こうした資本主義社会、そしてその結果として到達した消費社会についてジャン・ボードリヤール(1970)は、生産至上主義的産業社会は稀少性に支配されており、生産すればするほど豊かさから遠ざかっていく、また「消費の時代は、根源的な疎外の時代」であり、すべての欲望が他者に支配され、利潤との関係に負いて操作させられ、見世物化されるとして、消費社会が生み出す格差や支配関係を50年近く前に既に指摘している。

とはいえ、そうした資本主義・消費主義に対して抵抗しようとする、いわゆるカウンターカルチャーは、資本主義・消費主義やその結果として生じる経済格差、そこから生じる諸問題に対する本質的な回答にはなっていない。カナダ人哲学者のジョセフ・ヒースと編集者のアンドリュー・ポター(2005)は、カウンターカルチャーの主軸がしばしば単純な快楽主義に陥ってしまうことを指摘し、カウンターカルチャー的な批判を捨て去り、純粋に社会正義の問題を追求しつづけるべきだと述べている。

そもそも世界は、18世紀後半の産業革命における近代化以降、これまで資本主義と共産主義の間を長いスパンで揺れ動き続けており、二項対立の中でいまだ安定することができていない。アメリカの経済学者ヘンリー・ミンツバーグ(2015)は、18世紀後半のフランス国民議会で、平民が議長席の左側に、旧秩序の維持を望む勢力が右側に着席して以来、左派と右派、国家と市場、国有化と民営化、共産主義と資本主義といった二項対立的な論争から抜け出せずにいることを指摘し、共産主義がうまくいかないから資本主義が好ましいことになるわけではなく、左右の間を不毛に行き来している国や、左右の真ん中で政治が機能不全状態になっている国があまりに多いと述べている。

そういった状況の中で、世の人々は思考を停止しはじめており、世界は閉塞感と絶望感と、それを紛らわす「まやかしの幸せ」に満ちている。ミンツバーグは、アダム・スミスが『国富論』で説いた自由市場理論の「見えざる手」に対し、現代のアメリカは強大な力を持つ巨大企業が極めて強い立場にあり、アダム・スミスの理論はもはや通用しなくなっていることを指摘し、資本主義が完全な考え方であると考えている我々は、自分たちの未来について思考することをやめてしまっている、と述べている。またヒースとポターも同様に、オルダス・ハクスリーの小説『すばらしい新世界』に登場する、感覚を鈍らせ、漠然とした幸福感を生み出し、余計な質問をさせないための薬「ソーマ」を引き合いに出し、消費財は現代の我々にとっての「ソーマ」となっている、と述べている。その上で消費主義は「まやかしの幸せ」を生み出したが、ひきかえに個性と想像力を奪い、労働者階級はより良い世界について想像することができなくなったと指摘している。またボードリヤールも「見せかけの豊かさ」という言葉を用いており、モノ自体が与える満足は、大きな喜びにある状態の「あらかじめ予想された反映」に他ならず、この歓喜への欲望こそが、一般消費者の月並な日常生活の糧となっている、と述べ、消費生活における記号が人々を本質的な思考から遠ざけていることを指摘している。

このように、世界的に経済格差が拡大し、そこに対する具体的な打開策、さらに言えば将来に対する希望がどこからも提示されない中で、私たちは消費主義がもたらす「まやかしの幸せ」を享受し、思考することを停止している現状が世界中に蔓延していると考えられる。

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