オードリー・タン 台湾政府デジタル担当大臣特別インタビュー『私が考える働き方の未来』Part 1

『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から一部抜粋!

Photo: Audrey Tang https://fl ic.kr/p/EEAqwE

2021年10月25日、技術評論社より発売の『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から、台湾政府デジタル担当大臣 オードリー・タン大臣のインタビュー及びインタビュー後の対談を全部抜粋してお届けします。対談:石井大輔・真銅正孝
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はじめに

世界で最もモダンな政府と言われる台湾。なかでも先進的な思想で有名なオードリー・タン氏が、デジタル担当大臣として活躍していることはメディア報道などで皆さんご存知でしょう。今回、幸いなことにインタビューする機会を得たので、彼女の考える「ポストパンデミックのあるべき働き方」をうかがいました。広い分野に使える深い言葉を拝聴できました。ところどころ専門的な話が含まれるので、読者の皆さんの便を考え、後半の「インタビューを終えて」で我々(石井・真銅)が事例を交えて解説しています。

インタビュー前半では仕事の現場に生かせそうなテクニックや考え方、後半ではキャリア開発に関する質問が中心となっています。彼女の思想の射程は長く、2025年から2030年までの働き方のお手本を示しています。私たちの人生・職場設計の参考になるのは間違いありません。

インタビュアー:石井大輔・真銅正孝

Photo: © Isabel Wagner https://flic.kr/p/2bora1S

オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)

台湾デジタル担当政務委員(閣僚)。1981年、台湾台北市生まれ。幼い頃からコンピュータに興味を示し、12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退し、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウェア会社を起業する。2005年、プログラミング言語「Perl 6(現Raku)」開発への貢献で世界から注目を集める。同年、トランスジェンダーであることを公表し、女性への性別移行を開始する(現在は「無性別」)。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任。Siriなど高レベルの人工知能プロジェクトに加わる。2016年より、蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣。無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。2019年、アメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」のグローバル思想家100人に選出。2020年、コロナ禍においてマスク在庫管理システムを構築し、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。

1.タン大臣が実践する、個人の職場における生産性向上のために重要なことは何でしょうか?

まず「8時間睡眠」が基本です。もし8時間寝られなかった場合は、昼間に仮眠をとって8時間になるようにしています。ほとんど寝られなかったり、4時間程度しか眠れなかったりすると、何かやったということは覚えていても、意識がぼんやりしたままになってしまいます。そのような精神状態になるのは私だけではないでしょう。誰でもそうなると思います。

その他に、「ポモドーロ・テクニック」という時間管理の手法を使っています。この手法では、ToDoリストに挙げているに作業に集中する時間と休憩時間を短いサイクルで回します(たとえば、25 分間作業に集中し、5 分間休憩を繰り返します)。この作業の合間に、さまざまなアイデアがひらめくこともあります。
また、「マインドマップ」を使ってアイデアを視覚化し、多数の可能性を検討してから結論を導いています。

2.タン大臣が同僚とコラボレーションする際、チームの生産性を高めたり、プロジェクトを運営するときに重要なことは何でしょうか?

私は、コラボレーションによって生産性を上げるには、強固な信頼関係が最も重要であると考えています。チームが信頼関係で強く結ばれていれば、いついかなるときでも、チームの誰かが空いた部分を埋めて貢献することができます。私のチームで使っているデジタルツールの1 つに、オンラインで使える「カンバン・ワークフロー」があります。すべての進行中のプロジェクトがボード上にカードとしてリストアップされるため、チームメンバーはいつでも自分が担当している業務や進捗状況を更新することができます。

実際、私が入閣したときは、契約(コントラクト)ではなく3 つの協定があり、私はその協定に従っています。協定の1つ目は「場所からの独立」。私はいつどこで仕事をしてもよいのです。パンデミックが起きるずっと前から、この内閣ではリモートワークが標準的な環境でした。2 つ目は「自発的な行動」です。私は命令しませんし、命令も受けません。すべての省庁が自発的に私と仕事をしています。3 つ目は「徹底した透明性」です。私が知ることができたものはすべて、公共の利益のために公開します。私たちの発言は後世の人たちが閲覧および分析できるようになります。

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これまでのところ、私のチームはこの方法でスムーズに仕事をしており、従来の対面式よりもさらに効率的に仕事ができています。私は、お互いの強い信頼関係と3つの「コンパクト」が重要な役割を果たしていると思います。

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