オードリー・タン 台湾政府デジタル担当大臣特別インタビュー『私が考える働き方の未来』Part 2

『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から一部抜粋!

Perl 6を開発していた頃のオードリー・タン大臣近影 Photo: ©Isabel Wagner https://flic.kr/p/27FUfT

2021年10月25日、技術評論社より発売の『働き方のデジタルシフト — リモートワークからはじめる、しなやかな組織づくりの処方箋』から、台湾政府デジタル担当大臣 オードリー・タン大臣のインタビュー及びインタビュー後の対談を全部抜粋してお届けします。対談:石井大輔・真銅正孝
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3.コロナ禍の職場で人々は新たな問題に悩まされています。たとえば、チーム作業が円滑に進まない、不慣れなチャットによるコミュニケーション不足、頻繁なZoomミーティング(Zoom疲れ)あるいは運動不足などです。パンデミックに適した行動様式になかなか移行できない人たちに、何かアドバイスはありますか?

パンデミックが起こる前、私は国際会議に出席するために世界中を飛び回っていましたが、パンデミックになってからは以前よりも精力的に仕事をこなせるようになりました。今では、アメリカやカナダの友人と会うために朝早く起き、昼間はアジア太平洋地域の友人とチャットをし、夜間はヨーロッパのビデオ会議に参加しています。私はまるでボーダレスな世界に生きているようになり、1日で世界中を旅することができます。バーチャルな方法ではありますが。

実際のところ、パンデミックが起こるずっと前から、私の部署ではリモートワークが当たり前になっていました。スタッフはさまざまな場所で仕事をしており、ビデオ会議やSandstorm.io(カンバン)、HackMD(ナレッジベース)、Rocket.Chat(多機能グループチャット)、Pポリスol.is(公開意見投票)などのデジタルツールを活用してコミュニケーションをとっています。いついかなる場所でも、皆の状況をリアルタイムに知ることができ、誰かのために役に立つことができるのです。難しい問題に直面したときは、私はオンラインの会議室に質問を投げてから眠りにつきます。翌朝、目が覚めたときには、同僚たちが素晴らしいアイデアを出していたということがよくあります。このような状況は私の予想を超えていました!

私の大好きなカナダのソングライター、レナード・コーエンの言葉の言葉を借りれば「鳴らせなくなるまで鐘を鳴らせ 完全な供物を捧げようなんて考えるな」ということになります。実際のところ、何ごとにも完璧というものは存在しません。だから、私からのアドバイスは「完璧主義者にならない」です。もう少し自分も他人も信頼して、自分の“安全地帯(コンフォートゾーン)から一歩外に踏み出してみてください。

4.パンデミックの影響で、リモートワークとリモートワーク下でのキャリア形成に注目が集まっています。ポストパンデミックという新しいパラダイムの中で、ビジネスパーソンはどのようにキャリア戦略を立てるべきでしょうか? また、避けるべきキャリア戦略のアンチパターンはどのようなものでしょうか?

何があろうと「リアル」と「リモート」のハイブリッドな働き方は存続すると思います。重要なのは、レジリエンス(※)とプロアクティビティ(能動的行動・先読み思考)です。パンデミック対策の経験から言うと、防御にすべてを賭けていると、新しい亜種が出てきたときにその亜種がどのように振る舞うのかを予測できないため、対応できなくなってしまいます。一方で、特定の戦略に縛られずに力を温存しておけば、新しい亜種が発生したときに数日のうちに状況を整理して、効力のある戦略に調整することができます。

したがって、ポストパンデミックの時代にキャリア戦略を策定する際には、未知の危険から身を守るために、特定の戦略を中心に構築するのではなく、レジリエンスと継続性を中心に構築することに加え、早めに情報収集し能動的に行動することが非常に重要になります。

※レジリエンス
素早く行動する柔軟性。準備をしすぎるより状況に応じてフレキシブルに最速に動くことに重きを置く考え方。反対語が「ロバスト」で、準備に重きを置き物事に耐性を作ることの意。

5.中長期的に、今後、人々のキャリア環境における最も大きな変化(ポジティブあるいはネガティブを問わず)はどのようなものでしょうか?

今後、これまで以上に分散化、リモートワーク、デジタル化がますます進んでいくと思われます。これらがポジティブな変化かネガティブな変化かは、あなたの考え方次第です。包括的でオープンマインドであることが、不確実な時代を乗り切る方法だと思います。

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