ユーザーインタビューからインサイトを見つける2つの分析手法

インタビュー項目を最初のプロトタイプと考え、素早くサイクルを回す

Yuki Yoshinaga
デザラボ
8 min readSep 20, 2017

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前記事「結局、ユーザーインタビューって最低何人に聞けばいいの?」において、ただインタビューを行っただけでは、ユーザーインタビューを終わらせるサインを見つけることは永遠にできず、分析が必須だと言いました。

参考記事:結局、ユーザーインタビューって最低何人に聞けばいいの?

ではユーザーインタビューの分析とは、具体的にどうやって行えばいいのでしょうか?

2つの分析手法

私たちデザラボでは、インタビューを行った後に実施する分析手法として主に次の2つ使用しています。

  1. 上位下位関係分析
  2. インサイトハック分析

両分析ともインタビューなどの定性調査から得た情報を分析し、Jobs to be Done(その人は何を満たすためにその行動をしたのか)を見極める手法です。

調査対象が心の奥底でやりたいと思っていること(インサイト)を明らかにする手法と言ってもいいでしょう。

一人ひとり分析を行う。まとめて分析しない。

両手法とも、インタビューした一人ひとりについて分析を行います。できるだけ複数人の情報ををまとめて分析しないようにしましょう。

これには、次の2つの目的があります。

  • インタビューの記憶・感覚が新しい内に分析することで、インタビュー時のコンテクストを失わないようにする
  • 複数人まとめて分析するとインサイトの抽象度が高くなりすぎて現実と乖離してしまうので、一人ひとり分析することでそれを避ける

では、それぞれの手法を説明していきます。

上位下位関係分析はワークショップ形式で行う

上位下位関係分析は、ポストイットなどを使って行うカードソーティングによる分析の一種です。インタビューに関わったメンバー全員で集まって、ワークショップ形式で行いましょう。

ワークの全体像としては、人々の行動をグルーピングしてその行動で達成したかったことを導き、さらにその達成したいことをグルーピングすることでインサイトを発見します。

上位下位関係分析の全体像(引用元:CURIOSITY

大まかな手順は次の通り。

  1. インタビューから抽出されたインタビュイーの行動・シーンを付箋などでカード化する
  2. 似たカードを「行為目標」としてグルーピングする
  3. 似た「行為目標」を本質的なニーズ(インサイト)としてグルーピングする

この時、階層が多少増えても大丈夫ですが、一般的には3階層か4階層で行います。

また、このグルーピングの「樹」は3〜5つが目安です。多すぎたり少なすぎたりする場合はグルーピングが上手く行っていない可能性があるので、再チャレンジしましょう。

最初が肝心。単語ではなく行動やシーンをカード化する

上記の3まで昇華させてインサイトの発見となりますが、実は1の段階(カード化)が最も重要です。何故なら、2以降のワークは最初に用意されるカードのクオリティに左右されるからです。

1で用意するカードには、単語や一言で書くのではなく、きちんとシーンが目に浮かぶように書きましょう。単語を書いてしまうと、2のグルーピングがありきたりで学びの少ない「カテゴライズ」になってしまうためです。グルーピングはカテゴライズとは異なります。

何度グルーピングをやり直しても上手く3〜5つにならない場合は、1のカードを書き直すことをおすすめします。

また、カードに上手くシーンを書けない場合は、インタビュー結果への理解が不十分です。ワークを中断し、録音を聞き返したり、再度インタビューを行いましょう。

インサイトハック分析はインタビュアーが1人で行う

次に、インサイトハック分析です。こちらは、株式会社デコムさんの記事に着想を得てデザラボで独自に行っている分析手法です。

インサイトハック分析では、ユーザーの1つ1つの行動の裏にあるインサイトを発見していきます(上位下位関係分析は1つ1つの行動をまとめていくアプローチでしたね)。

そのため上位下位関係分析よりも細かく、数も多くなります。一方で、やや難易度の高い分析手法です。

インサイトは5つの部品からできていると考える

インサイトハック分析では、特定の行動の裏には必ずインサイトがあり、そのインサイトは5つの要素から成るものと捉えて分析を行います

5つの要素とは、次の通りです。

  • インタビュイーがこれまでにとった行動・シーン
  • 過去の経験
  • 過去の経験から知っていること・学んだこと
  • 背景要因(社会情勢など)
  • 行動を起こした時の情緒・感情

この5つのまとまりを1インサイトと数えて、だいたい30〜40個ほどのインサイトを導き出すことが出来ます(※インタビュイーの行動や過去の掘り起こしが不十分な場合は、数はもっと少なくなります)。

インサイトハックでの分析例。これが1インタビュイーあたり40行ほど出てきます。

インサイトハック分析でも、上位下位関係分析と同じように1人インタビューするごとに分析を行います。

しかし、上記画像のようなインサイトが1インタビュイーあたり20〜60個ほど発掘されるので、3人分のインタビューを分析しただけで100個を超えます。これではとても扱いきれません。

また、この段階のインサイトにはその人のみに特有のインサイトを多分に含んでおり、仮説の修正に活かすには特定的すぎるものが多い状態です。

そのため、個々人から得られたインサイトを、集合的なインサイトとして分類していきます。すると、およそ20〜40個のインサイトに収束します。

実際のインサイト分類の例。青い部分が分類されたインサイト。

下記スライド内でも、インサイトハック分析を活用した例を記載しています。よければご参考ください(スライドは「ゆとりエンジニア交流会」というイベントの登壇時に使用したものです)。

なお、この分析はイチからやると高い熟練度を必要とします。デザラボではインサイトハック分析用のテンプレート(スプレッドシート)を公開しています。是非ご利用ください。※テンプレートは更新されることがあります。

参考記事:【テンプレート】インサイトハック分析

2手法の違い:得られるインサイトの数と掛かる時間

この2手法の大きな違いは、発掘できるインサイトの粒度が異なることです。インサイトハック分析では細かいインサイトを発掘でき、上位下位関係分析ではより大きい(抽象度の高い)インサイトを発見できます。

上位下位関係分析が大きな本質を掴もうとするのに対して、インサイトハック分析は一つひとつの行動や言葉をしゃぶり尽くすように分析します。

そのため、発見されるインサイトの数はインサイトハック分析の方が圧倒的に多くなり、一方で多くの時間を必要とします。

顧客開発なら上位下位関係分析、顧客開発+アイデア出しならインサイトハック分析

では、あなたのサービスの場合2つの内どちらの手法を選択すべきでしょうか?

それは、あなたのサービスがどの段階にあるかで異なります。

もしあなたのサービスの形が既にある程度決まった上での調査であれば、上位下位関係分析を選択すべきでしょう。

かかるコストが低くスピーディーなことに加えて、ワークショップ形式なので全員に共通認識を作ることができます。

一方、あなたのサービスの形がまだ決まっていない段階や、既存サービスの次の打ち手を探すための調査であれば、インサイトハック分析を選択すべきでしょう。

インサイトハック分析はアイデア出しのための正確でたくさんの材料をもたらしてくれるからです。

参考記事サービスを作るなら知っておきたい、顧客開発の3段階

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Yuki Yoshinaga
デザラボ

UXマン。UXデザイン・リサーチ, ファシリテーション, コーチング。株式会社SUIHEI 代表 / An UX Designer. CEO of SUIHEI,Inc.