Google のマネージャーについての研究から学ぶ Google マネージャーの 10 の行動規範
この Story に掲載された意見はすべて著者個人のものであり、組織の意見を反映するものではありません。
この記事は Google Cloud Japan Advent Calendar 2021 の20日目の記事です。今年も残すところ11日、皆様いかがお過ごしでしょうか?
Google Cloud Customer Engineer のマネージャー (Manager)というロールを務めている Masa です。
Google では、 Google における 優れたマネージャーの要件を突き止めるべく黎明期から、マネージャーについての研究をしています。Google は2002年、すべてのマネージャーを廃止して管理職のいない組織にするという「実験」を行い、失敗しました。2008年には、調査チームがマネージャーが極めて重要な存在であることを突き止めます。そこで、Google における優れたマネージャーの条件とは何かを正確に突き止めるため、「Project Oxygen」という調査プロジェクトが実施されました。Project Oxygenによって、優れたマネージャーたちから共通に見られる行動が明らかになりました。
この記事では、この研究結果を公開している re:Work のマネージャーのページを参考に解説していきます。もちろん、 Google でのマネージャーの研究結果なので、皆さんの組織に当てはまるとは限りません。皆さんの組織の良いマネージャーを考える上でのヒントになれば、幸いです。
Google ではマネージャーはロール(職種)です。私は Customer Engineer というロールのマネージャーをしています。Google におけるマネージャーはロールの違いです。 Customer Engineer はお客様が Google Cloud 製品を使う上で様々なお手伝いを行います。Customer Engineer というロールにご興味があるかたは、ぜひ Google Cloud Japan Advent Calendar 2021 の 3日目の記事、Google Cloud Japan に入社してみた もご覧ください。
マネージャーの仕事は多種多様に及びます。これらに必要な10の行動規範を見ていきましょう。10の行動規範について解説し、私が意識していることを合わせて解説します。
1. 良いコーチである
コーチは、メンバーの強さを見抜き、可能性を最大限に発揮できるように、やり遂げられるように、励まします。
マネージャーとメンバーにとって効果的なコーチングが出来るように、1オン1と呼ばれる、メンバーとの1対1のミーティングを持ち、メンバーの話を良く聞くことが重要です。
- 毎週 / 隔週 で30分、決まった時間に行う。これにより、リズムができます。忙しくて時間がお互い確保できないときは15分でも、決まった時間を確保すると良いでしょう
- アジェンダを一緒に作る。決まった時間があれば、事前にお互い準備もしやすくなります。アジェンダの例としては、近況を訪ねたり、困っていること(課題や障壁)がないかの確認、目標やゴールのアップデートなどがあります
- 1対1で、集中して話を聞く。1オン1という名の通り、1対1で話を聞きます。1対1で相手が集中していないと、不安になりますよね。
- コーチングスタイルに柔軟性を持つ。例えば、メンバーがファシリテーションを求めているのであれば、答えを教えたりするのではなく、質問して耳を傾けます(アクティブリスニング)。また、ティーチングを求めているケースもあります。その場合は、ゴールを達成するための専門知識を伝えます。
- 意見を求める。マネージャーが自身で気がつけていないことに、意見を求めることで気が付かされることがあります。Feedback is gift
- 最後に必ず何かありますか?と尋ねます。あとから重要なことが出てくることも多いです。場合によっては、定期的な1オン1以外にアドホックな1オン1をセットします
2. チームに任せ、細かく管理しない
マネージャーというと管理職と思わる方も多いと思うのですが、 Google ではチームに権限を与え、チームを成長させるために、細かく管理しないことが推奨されています。これはとても時として難しいです。後述する7. 明確なビジョンや戦略を持ちチームと共有することが成功の鍵を握ります。
・チームのメンバーに権限を与え、信頼と責任を明確に示します。これは、チームのメンバーの成長につながるとともに、マネージャーが都度判断していると、マネージャーがボトルネックになり、速度が低下してしまいます。そして、信頼関係が造成され、次のリーダーや新たなアイディア、知見が生まれることでしょう。
・メンバーには自由にやってもらい、必要に応じて助言やサポートを行ないます。助言やサポートがなければ、個人では解決できないような問題にぶつかったとき困りますよね。また、個人に合わせて必要な助言やサポートは異なります
・メンバーが達成した成果を周囲に伝える。チームやメンバーが達成した成果を積極的に、マネージャーのマネージャーや他のチームに伝えます。そして何より、感謝を伝えます
最も意識していることは、マネージャーはチームのために働いていて、目的はチームのパフォーマンスを最大化することです。チームが自分のために働いているわけではありません。
3. チームの仕事の成果だけではなく、健康を含めた充足に配慮し、インクルーシブなチーム環境を作る
チームメンバーが健康も含めて充足していることも重要です。積極的にVacation (休暇)を推奨することはもちろんのこと、工夫していることとしては、チームのメンバーがプレッシャーを感じたり、働きすぎないように、私からの夜や休日のメールやチャット(コミュニケーション)はできるだけ避けています。
インクルーシブ(包括的)なチーム環境を作ることで大切なことは、チームメンバーそれぞれに対して、気遣いを体現することが大切です。気遣いを示す上で重要になるのが、共感と思いやりです。共感と、思いやりには違いがあります。共感とは、他人の立場と感情の状態を感じ取る能力です。思いやりはもう一歩踏み込んだ感情で、他人の不安に共感した上でそれを和らげたいと思う気持ちです。そのためにも、自身が思いやる振る舞いや行動を模範として示すことを意識しています。 Lead by example とよく言います。
一方で、メンバーに過度に思い入れことは避け、境界は明確にしています。共感しすぎると、公平性が欠けたり (バイアス)、 過度な共感は共感する側にストレスを与えるという研究結果もあります。
いちばん大切なのは、メンバーとマネージャー、またメンバー同士がお互いを Respect していくことだと思います。
4. 生産性が高く結果を重視する
マネージャーの大切な仕事の一つに、チームが具体的な成果をあげられるようにサポートするというものが挙げられます。
・チームメンバーには結果(Outcome)を重視してもらうようにコミュニケーションを取り、コーチングやサポートをします。もちろんマネージャーも結果を重視します。ここで説明している結果は、何かを作ったりする結果としてできるOutputとは違います。チームの目標に対して、達成・貢献した結果がOutcomeです。
・緊急度やインパクトを踏まえて、チームの優先順位付けをサポートします。優先順位付けの達人である必要があります。場合によっては、やらないことを決めることもマネージャーの大切な仕事です。
・可能な限りプロアクティブに、障壁を取り除きます。
5. 効果的なコミュニケーションをする- 人の話をよく聞き、情報を共有する
後述の7.ビジョンと戦略をチームと共有する。とも関連します。
例えば、ビジョンは、チームのメンバーが同じ方向を向かって進むのに必要不可欠です。そのため、口頭や書面で、明確、簡潔、率直に伝える必要があります。
最初の1. 良いコーチである。でも触れたとおり、メンバーとのコミュニケーションは非常に大切です。そのため、優れた聞き手(アクティブリスニング)であるように意識しています。悪いニュースも良いニュースも、時間をとりチームに共有し、率直に話し合い、忌憚なき意見も積極的に受け止めます。Feedback is gift ( 2回目
また、優れた聞き手になれるように、リフレクティブリスニングも有効です。
- 気持ちを受け入れる
まずは、話を聞いて、ときに要約し「つまりこうですね。」、理解がずれていないか確認します - 不明確な点から相手の視点を明確にする
不明な点があれば、「もう少し詳しく聞かせていただけますか?」や、「私の理解では、こうだと思うのですが、あっていますか?」と確認します - 受け入れて共感する
個人に取って重要なことを理解したり、どのように感じたかを、共感をもって示します。
一貫性を持ち、思い込み( バイアス )を避け、自分が伝えたいことが正しく伝わっているか、を常に意識しています。これは非常に難しく、チームからフィードバックをもらいながら、日々コミュニケーションします。 Feedback is gift ( 3回目
6. キャリア開発をサポートし、パフォーマンスについて話し合う
メンバー個人を尊重し、キャリア開発(成長のチャンス、スキル向上)をサポートします。キャリアの開発では、個人の意思を踏まえ、別のロールや組織に異動するチャンスも一緒に探しますし、自チームでエキスパートとして貢献するために、プロジェクトへのアサインやスキルの習得をサポートします。
定期的にメンバーとキャリアについて話し合う機会を持つようにしていて、次のようなことを意識しています。
・チームメンバーの現在のパフォーマンス・実績・仕事
・チームメンバーの楽しいと思う仕事、得意な仕事、苦手な仕事
・チームメンバーの1,5,10年後のキャリアイメージ
・組織がメンバーに求めていること、最も改善するべきエリア
・組織、マネージャ自身がメンバーに提供できるサポート
私自身、最初に私のマネージャーとキャリアについてディスカッションしたとき、「10年後どうなっていたいですか?」と聞かれて、当時は明確な答えが出せませんでした。しかし、定期的に話をしていく中で、マネージャーへロールチェンジするチャンスをもらい、実際にマネージャーになり、中長期のキャリアパスを組織、そして私自身のマネージャーにサポートしてもらっています。
7. 明確なビジョンと戦略を持ち、チームと共有する
明確、簡潔、率直なビジョンを作り効果的にチームに伝えます。このビジョンがチームを同じ方向に向かって、進むことができます。また、このビジョンは優先順位をつけるとき、意思決定を関連付けることを意識しています。
このビジョンを策定した後、戦略( Strategy ) や目標・ゴールを設定します。
加えて、ここではよく OKR (Objective and Key Results) を使い、チームがどこまで目標に対して進捗したかを確認します。 OKR については、 Google Cloud Japan Advent Calendar 2021 の 13 日目の re:Work と振り返るチーム OKR 2021 by Koichi Watanabe が参考になるので、興味がある方は、ぜひ御覧ください。
8. チームにアドバイスできる専門知識がある
チームのそばで、チームの一員として、自身の専門知識を発揮し、一緒に問題を解決します。Manager がチームに寄り添って、チームの 1 メンバーとして一緒に問題に向き合えることは、チームの安心感や成長を促す重要なメッセージとなります。マネージャーはチームのために働いていて、目的はチームのパフォーマンスを最大化することです。チームが自分のために働いているわけではありません。この具体的な一例として、専門知識を発揮しチームの問題解決を手伝うことです。
私は Customer Engineer の マネージャーです。時には、チームの一員として、お客様が Google Cloud 製品を使う上で様々なお手伝いをします。ただし、やりすぎるとメンバーの活躍や成長の機会を奪ってしまうので、必要に応じて対応することを意識しています。
9. 部門の枠を越えてコラボレーションを行う
Google には様々な部門、ロールが、日本はもとより、世界中にあります。これらの枠を越えて、コラボレーションしていくことで、お客様や ユーザを支援します。
部門をまたぐ場合は、お互いの OKR を意識したり、部門を超えるからこそ、共通のゴールなどをクリアに設定します。
10. 決断力がある
チームを率いていく上で、マネージャーの大切な仕事として、必要な判断を、情報に基づき合理的に決断することが挙げられます。これはここまで、解説してきた 1 から 9 すべてを発揮しつつ、決断を下していきます。中には非常に難しい決断 ( Tough Decision ) もありますが、決断の理由を説明することも、マネージャーの大切な仕事です。
結び
ここまで、 Google マネージャーの 10 の行動規範 を説明してきました。いかがだったでしょうか? 皆さんの組織運営に役立つヒントはありましたでしょうか? もし、ご興味を持っていただいた方がいたら、ぜひ詳しい情報が re:Work のマネージャーのページにあるので、ご覧ください。
また、このようなチームで働きたい方がいましたら、ぜひ採用サイト からエントリーお願いいたします! Google Cloud Japan Advent Calendar 2021 の 10日目の記事 採用担当者のつぶやき も、ぜひ合わせてご覧ください。
明日 2022年12月21日は私の自慢のチームから Jin Naraoka さんによる 「Cloud SQL に Reader Endpoint 的なものを作ってみる」です。ご期待ください!