フィンランドに住む準備(1年間の在外研究)8:出国までのタスク管理

Hiraku Sakamoto
Happy Mom, Happy Family
10 min readApr 28, 2020
【本シリーズ共通の序文】Happy Mom Junonのオットです。日本の大学に所属する研究者です。2019年夏から1年間の予定で、フィンランドAalto大学にて在外研究のため、家族(妻・子供2人)と共にフィンランド(ヘルシンキ)に滞在しています(執筆時点(2020年4月)では、新型コロナウィルスのため外出自粛中ですが)。ここでは私たちがフィンランドで生活を開始するにあたって特に困ったこと、どう解決したかの記録を残しておきます。今後、ますます多くの研究者がフィンランドと日本を往来して共同研究を盛んにする、そんな未来の実現の一助となれましたらと思います。

今回、妻と子供2人を伴って1年間の海外でのサバティカル(在外研究)へやってきました。1年間の海外滞在の準備にはいろいろとやるべきことがあり、妻と私でどう手分けをするかは悩ましいことでした。

そこで、ソフトウェア開発手法である「カンバン」[1]を真似てタスク管理を行ったところ、夫婦でうまく出国準備を分担できたように思います。そこで、その体験談と、やってみての気づきを書いておきます。

カンバン:トヨタ生産方式の「かんばん方式」に着想を得て、アジャイルソフトウェア開発で用いられている、作業の可視化手法(参考文献[1])。

Trelloを使ったタスク管理

「カンバン」の管理を、ウェブ上で無料で用いれるツールであるTrelloを用いて行いました。

【参考】Trelloでのカンバンのやり方を解説したページもあるようです(英語)。

Trelloは、タスクを「カード」に書き、「カード」を縦一列の「リスト」に分けて管理します。今回、「リスト」として、次を立てました。

「6月のTo Do」「7月のTo Do」「8月のTo Do」:タスク(やること)をここに書き出しておく(私たちは8月に日本を出国)。

「Doing」:妻か私が現在取り組んでいる課題を、To Doからここへ移す。

「Pending」:To Doに書いたけれど、すぐには実行が必要ないとわかったタスクをここへ移動する。

「Done」:実行が終了したタスクをここへ移動する。

実際に使っていたTrelloボードが以下です。左にあったタスクが、Doingを経て、どんどん右へ送られていく爽快感があり、ストレスの軽減に大いに役立ちました。

具体的にやった事項を3ステップに分けて書いておきます。

ステップ1:「To Do」タスクの書き出し

思いついたこと、人から聞いたこと、本やウェブで見聞きして「私たちも必要そう」と思ったことは、備忘録としてどんどんTo Doのリストにカードとして加えていきました。

特に「海外赴任ガイド」(株式会社JCM)はタスクの書き出しに役立ちました。こういうふうに、既存の資料をタスク書き出しに用いることはとても有効だと感じました。

ステップ2:タスクをブレークダウンして「〇月のTo Do」へ配分

Trelloを定期的に夫婦で見ながら、タスクを実行可能なサイズ(後述)のタスクに分割したカードを作って、担当が私か妻かのどちらかを決めました。その上で実施時期に応じて、「〇月のTo Do」へ整理しておきました。

ステップ3:「Doing」へ移動したカードを確実に完了させる

着手したタスクを、「Doing」へ移動します。これにより夫婦のお互いが、相手がいま何に取り組んでいるかが可視化されます。そして、タスクが終わるたびに「Done」へ移動します。実際は、To Doには不要なタスクが多かったので、そういうものは「Pending」へ移動しました。

こうすると、左に書き出したタスクがどんどん消化されていき、パートナーが何をしているかも明確だったのでストレスが非常に小さかったです。

夫婦での準備作業を実際やってみて、特に重要だと思った事項を3つ、書いておきます。

1.タスクは「一人ですぐ対応できる」と感じられるレベルに小さく砕いてから実行に移る

例えば、「滞在許可証を得る」というカードを作ったとしても、とても大変すぎ、実行には長い時間がかかるため、このカードが「Doing」にとどまってしまって、可視化の意味があまりありません。

こうなると、「大変すぎるから後回しにしよう…」と回避行動をとってしまいがちになり、さらにはパートナーに「いまこれをやってるから忙しいんだ」と言い訳をするネタにしてしまう、という悪循環が起こります。

そこで例えば「滞在許可証を得る」というタスクなら、作業を進める過程でどんどん、「オンラインシステムにアクセスしてみる」「役所に戸籍を取りに行く」「外務省でアポスティーユ」「翻訳会社選定」「翻訳会社へ発注」「文書の電子化」「オンラインのフォーム入力」と、タスクを細分化してそれぞれ単独のカードに分けていきました。目安としては、必ず1~2週間で完了できるタスクとしてカードを作ることを意識しました。

こうすると、カードを見たときに「これならすぐできそう」と心理的ハードルが下がり、すきま時間を活用して実行できました。するとカードがさくさく左から右へ移動していくので、達成感が感じられ、次々にタスクが消化されていく、という好循環が生まれました。

また、簡単そうなタスクが「Doing」にとどまっているのを見て、夫婦間で「これなら私のほうができそうだけど?」と声掛けをすることも起きました。分担を柔軟に変更でき、良い意味でルーズな運用をすることができました。

2.常に「このタスクはいま必要か?」を問い、優先度の高いものから着手する

そうは言っても、出国直前になるとTo Doのリストはどんどん増えていき、ストレスも生じてきました。そのとき重要だったのは、当然のことですが、「優先度の高いカードから着手する」ことでした。特に、
・必ずやっておかないと渡航できないこと(mustの事項)
・やっておいたほうが渡航先で便利そうなこと(betterの事項)

は明確に分けて、後者(better)がDoingに留まっていたら、一度To Doへ戻し、前者(must)に時間を割くようにする、としました。

結果、出国までにできることは限られていたので、あきらめて「Pending」へ流れていくbetterタスクが多かったです。それでも、「そのタスクは明確な判断で、渡航後にやるタスクへと移動したのだ」ということが、夫婦の合意事項として可視化されるので、夫婦間の感情としてはスッキリして悪化しない、というのが、この方法のとても良いところでした。

いわば、夫婦のやり取りの間に「Trelloさん」が入り、コミュニケーションを仲介してくれたように感じます。結果、対面での感情的なやり取りが減り、冷静に淡々と準備を進めることができるメリットがありました。

3.プロセス自体を楽しみ、上位の目的について話し合う

それでも出国が近くなってくると、やることが多くだんだん苦行みたいになってきて、いったい何のために渡航するのだったか、実は夫婦間で共通理解がなかった、ということがわかってきました。

そこで、個々のタスクの詳細について話し合うことに時間を割くよりは、意識的に、渡航の「上位の目的」について夫婦間で話し合うようにしました。上位の目的さえ共通理解があれば、個々のタスクは各人の裁量で実行しておけばよく、お互いのやり方に細かく口出しをするマイクロマネジメントは逆効果と感じました。

1年間の滞在で達成したいことは何だろう? 子供たちに海外で何を感じて欲しいだろう? 1年間の海外経験のあと、家族がどうなるのが私たちは「良い」と思っているんだろう?

そう対話の中で言語化してみると、「いまの準備は自分たちが望んでやっていること」「この準備も、得難い海外滞在体験の一部」という当たり前のことが改めてしみじみ認識できました。多くの人たちのサポート(主に仕事の同僚の存在)があって今回の海外滞在が実現しているのだから、ここで不平を言ったり、笑顔で居なかったりする暇があったら、サポートして下さる人たちに感謝をしよう。そう夫婦で確認をしながら、準備を楽しんで進めることができたように思います。

フィンランドで在外研究して得られた研究成果を論文で発表することだけではなく、ブログで気づきを発信していくのはどうだろう? このアイデアは、出国直前の準備を進めながら夫婦でした話し合いの中で出てきたものでした。我々が1年渡航することで、いろんな方々に無理をかけているのだから、できるだけ恩返しができるよう、いろいろなアイデアをきちんと実行へ移していきたい、と思います。

まとめ

上記の通り、「カンバン」を使って家族全体の出国準備タスクを可視化することで、タスクの細かい内容について夫婦で話す時間を減らし、より大きなビジョン(家族の未来像、大切にしたい価値観)の話に時間を割くことができました。すると、当初想定していなかった「滞在中に実行したい新たなアイデア」も生まれた。振り返ってみると、この点が今回のやり方の最大の利点だったと感じます。

[1] M. Hammarbergら, 「カンバン仕事術 チームではじめる見える化と改善」, オライリー・ジャパン, 2016.

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Hiraku Sakamoto
Happy Mom, Happy Family

Associate Professor; Engineering Sciences and Design (ESD) Graduate Major, Department of Mechanical Engineering, Tokyo Institute of Technology, Japan.