マクロビオティックから環境保全型農業を考える

調査レポートvol.3 ⑵

マクロビオティックから環境保全型農業を考える

調査レポートvol.3⑴に続いて、⑵ではマクロビを「環境保全型農業」の視点からみてみることにした。

1. 現代的解釈

「魔法のメガネ(第3版, 2002)」の巻末[1]には、(人物説明を一言で)相原信雄による「正食(マクロビ)とは何か」が収められている。ここではこの付録で書かれたことをもとに、現代的な解釈を試みる。

相原はマクロビには以下7つの基本があるとしている。

◆マクロビ7つの基本

(1) 生態学である
(2) 生命の経済学である
(3) 陰陽の原理である
(4) 生活の芸術である
(5) 感謝を教えるもの
(6) 信をうみ出すもの
(7) 道楽である

その一つ一つの説明の中には個人の幸せを超え、社会や環境の幸せにも通じることが書かれているので、一部紹介する。

(1) 生態学

「生態学」というのは、西洋での自然を征服しようという思想の結果、環境汚染・破壊が起こったことで、近代に生まれた学問・考え方である。
対して穀菜食的で自然と共に生きてきた東洋では、“生態学的”な考え方は4千年も昔からあった。それはつまり「身土不二」であり、人間は住む土地のものからできているということだ。

この考えは、「地産地消」や「フードマイレージ」といった考えに通じるだろう。

(2) 生命の経済学

今日では、幸福になるための第一がお金だと考える金銭経済学が世を支配している。その結果、農家はお金を得るために農薬・化学肥料を使用して収穫量を上げようとし、健康な土壌のゆたかな働き(地力)を弱めた、
と書かれている。

以下の引用部分からは、マクロビオティックは、人間のスケールから農業や大地という大きなスケールでの健全さや、永続性にもおよぶ考えであることがわかる。

ほんとうは、とり入れのあとの残りは元の大地にもどし、自然肥料に使うというやりかたが人間を健康に生きさせる、いちばん確かな、永続性のある農業のありかたなのです。(引用:p.210)生態学と生命の経済学の観点からすると、結局大切なことは自然食と、自然農業だという点に帰着してまいます。すなわち、不必要な人口の加わらないその土地でできた食物でからだを養い、食物にならない部分は元の大地に還して、人間と大地を一つの全体として健全にしていくことになるのです。(引用:p.212)

(4) 生活の芸術

正食は科学と違って芸術なのです。別にこれといった絶対的な正食の規則などがあるものではありません。(引用:p.212)「~前略~私たちは自分で自分の人生をコントロールすべきです。他人の発明した食事法にひっかかって身動きとれぬものであったら、その人生は自分のものではありません(桜沢如一『食養人生読本』)」(引用:p.224)

上記の引用部分からは、状況に合わせて自分の頭で考えて行動しよう、という桜沢のメッセージが読み取れる。

-以下、わたしの推測-仏語には、≪Art de vivre (=art of life) ≫という言葉がある。日本語に訳すのが難しいが、「生きる術」とでも言えようか(artの語源はラテン語で、術とか技という意味がある)。生きる術と聞いてもピンと来ないかもしれないが、フランス人の価値観では「自分の信じる価値観を大切にして生きる生き方」と解釈できるだろう。
パリで長く活動し、仏語の著作も多く残している桜沢は、フランス人のこのような価値観をマクロビの視点で解釈して、取入れたように思う。だから「生活の芸術」という聞きなれない言葉が出てくるのではないか。

2. 環境保全型農業との親和性

思考の方向を変えられる?

現代的解釈を読んで、マクロビは解釈次第で環境保全型農業と親和性があるのでは?と気づいた方もいるかもしれない。

以前の記事(調査レポート Vol.1)では、オーガニックが日常に広がらない理由について、生産・流通・消費の観点から調べてみた。
消費段階の課題として、まだまだオーガニックは安全・安心という自分の内に向いた利己的な動機に基づいた消費が多く、生産者や環境負荷という利他的動機で購入する人が少ないことを書いたが、
ここでは「利己/利他」の視点からマクロビの食材の選び方にどのような意味があるのか考えてみたい。

①自分のため
②環境・文化のため

としてそれぞれについて書いてみる。(※少し個人的な意見も含まれる)

旬の食材を選ぶこと
①旬の野菜を食べることで、夏には体を冷やしたり、冬は温めたりと健康管理に適したものを食べられる。また、旬ものは値段も安いことが多い。
②冬に重油を焚いて温めたハウスで育てられた作物は、その分カーボンフットプリントが高くなる(エネルギーをたくさん使っている)。
産地の近いものを選ぶこと(身土不二)
①鮮度が良い旬のものが手に入る。味も良い。
②輸送距離が短いので、その分カーボンフットプリントも下がる
①②に共通して言えることだが、産地が近い場合、鎌倉の連売(現地調査レポートVol.4)のように生産者と直接話せることもある。それが意味することは、おいしく食べるための知恵だったり、どんな栽培方法で作られたものかを知ることができることだ。
旬の野菜を上手に扱う知識を持てば、旬のものだけで飽きてしまうということも少なくなるだろう。
伝統食品の推奨
①本物の味で食生活が豊かになる。醤油一つ変えるだけで味は劇的に変わる。
②伝統製法(材料や熟成方法などの製法)は、電気や石油エネルギーを使わないものが多い。例えば、米や大根を乾燥させる際に、天日干し/温風乾し、といった違いがある。他にも、醤油や味噌を作る際に使う大豆は、多くの場合はカナダなどから輸入された脱脂大豆を使うが、こだわって作っているところは地元の伝統品種を使っていたりする。熟成させる桶・樽もステンレス製ではなく木を使っていたりする。
また伝統品種は、その土地の気候に適しており、病害虫に強かったりする。つまり、使用する農薬や化学肥料を抑えることにも貢献する。
穀物菜食
①肉食に比べ、バランスの取れた食生活になる。マクロビはベジタリアンとは違うので、肉は少し食べるのは良いとされている。
②畜産由来の食べものはカーボンフットプリントが高い。肉を作るには水も穀物もたくさん使う。(参考:カーボンフットプリント削減のために避けるべき食品20

ざっと例を挙げてみた。
こんな感じで、マクロビをきっかけに自分の健康という内向きの方向から、自分たちの暮らす環境という外方向へと思考を広げてゆけたら良いのではないか。その時にマクロビが、環境保全型農業を単に農薬や化学肥料を抑えた栽培方法だという捉え方ではなく、本質的な理解の手助けになれば良いと思う。

3.調査レポートvol.3 ⑴ ⑵ を通して

宗教的と言われがちな食の思想・運動をどう捉えるか

マクロビ以外にも、食べ方に関する思想であるビーガンやベジタリアン、オルタナティブフード運動であるスローフード、ローカルフードオーガニック etc…食にまつわる思想・運動がたくさんある。
それらについて「何か宗教っぽい」とか、「意識高い系の人たちが実践することだ」と毛嫌いするのではなくて、どういった経緯で生まれたのか、どんな主張をしていたのかをきちんと確かめることが重要である。

今回の調査レポートは、⑴、⑵に渡ってマクロビについて紹介した。「3. 現代的解釈」にも書いたように、マクロビオティックは、食べ方・食材の選び方~農業のあり方、土地・環境との向き合い方にまで解釈を広げていくことができる、という発見があった。

このように、深く掘り下げてみることで学ぶことも多いのではないか。

参考文献

[1] 桜沢如一(2012):魔法のメガネ(第3版)/「正食(マクロビ)とは何か」

[2] ロナルド・L・サンドラー (著), 馬渕 浩二 (翻訳)(2019):食物倫理(フード・エシックス)入門: 食べることの倫理学

編集後記

今回は二回にわたってマクロビについての記事を書きました。しかし、結局のところ、オーガニックもマクロビも表面的にしか伝わってないような気がしてならないのです。これは発信する側のリサーチ不足だったり、ビジネス寄りな広告の作り方にも問題があるわけで、一概に消費者がちゃんと知ろうとしていないとも言えないと思います…。だからこそ、私たち発信する側も正しい情報を分かりやすく伝えることをしなければならないと思っています。

私の肌感ではオーガニックもマクロビも同じくらい興味のある同世代(20代半ば~)の人々がたくさんいます。発信力のある彼ら・彼女らを巻き込むこと、そのために「なんか気になるなあ」と思ってもらえるようなコンテンツを作れるようになりたいです(今回の調査レポートはちょっと難しく書いてしまったと反省)。

YouTubeに調査Vlogをアップし始めたのも、毎日のごはんを記録して公開しているのも(私個人の活動)、今後のコンテンツを探るためです。なので、「この店・このエリア気になった!」と思ったら、「いいね」やコメントしていただけたら嬉しいです。

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Haruna Watanabe

Ph.D. student, majoring in Landscape Architecture, Sustainable food & agriculture / Vulcanus in Europe2018(Belgium)