第一回
エネルギー・ブロックチェーン入門

田町 京子
Aug 16, 2020 · 17 min read

EWF・EW-DOS概要 / ブロックチェーンの基本:Public型とPermission型

はじめに

仮想通貨(暗号資産)の基盤としての利用から始まったブロックチェーン技術の用途は、金融から非金融へと広がり、 トランザクションにより生み出される価値は、取引から効率的なデータ共有、さらに契約・ビジネスプロセスの自動実行などへと 多様化しています。 本連載記事では、特に非金融分野ビジネスの関係者が、ブロックチェーン技術についての調査、導入検討、実証実験やアプリケーション開発 を実施する際の参考として、可能な限り最新の情報を提供することを目的としています。

日本におけるエネルギー政策全体の大きな変化を実感させるできごとの一つが、2020年7月に政府によって明らかにされた方針の発表です。そこでは、非効率な石炭火力発電所の段階的な削減の検討や、再生可能エネルギーの導入を加速するための基幹送電線の利用ルールの抜本的見直しが示され、脱炭素化の実現に向けての道筋がさらに固まってきました。この分野のデジタル化を実現できる大きな原動力となり得るものの一つに、ブロックチェーン技術があります。

本連載の今回からの第5回までは、エネルギー市場、顧客、資産、および既存のエネルギー部門のITシステムおよびオペレーショナル技術システムを接続するための技術的な基盤を提供するものとして、Energy Web Foundation (以下、『EWF』)の最新情報を中心にご紹介します。EWFは、グローバルなエネルギーコミュニティからのビジネス要件と技術要件に基づいて、エネルギー業界でのブロックチェーン技術を推進しています。 弊社 カウラ株式会社( https://kaula.jp/ )は、 2020年3月からEWFメンバーとなりました。

また、ブロックチェーン技術に日頃なじみの無い人を対象に、個別の技術的な内容について適宜、ご説明いたします。

************** 目次 **************
【E1】 EWF 概要
【E1.1】EWF とは
【E1.2】これまでの経緯
【E1.3】参加メンバー

【E2】 EW-DOS 概要
【E2.1】EW-DOSの構造

【B1】ブロックチェーンの基本概念 — Public型とPermissioned型 ー
【B1.1】考え方
【B1.2】特徴の比較
【B1.3】Public型と EW Chainの仕様
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【E1】 EWF 概要

【E1.1】 EWF とは

EWFは、非営利のコンソーシアムとして設立され、 ブロックチェーンと非中央集権型テクノロジーを用いることによる、低炭素で顧客中心の電力システムの推進が目的とされています。 「社会的、環境的、経済的利益を提供する先進的な市場およびビジネスモデル実現」を目指し、 技術の統合と開発、標準とアーキテクチャの共同作成、採用の迅速化、コミュニティの構築に重点が置かれています。

【E1.2】これまでの経緯

■ 創設
共同創設者は次の2社です:
・Grid Singularity (以下、『 GSy』、 https://gridsingularity.com/#/)
ベルリンを拠点とするエネルギーブロックチェーン開発のスタートアップ。
・ロッキーマウンテン研究所 (以下、『RMI』、 https://rmi.org/)
米国のエネルギーコミュニティの構築に実績のあるシンクタンク。

■ 沿革
2017年1月 GSy と RMI により設立。
2017年11月 サンドボックス(*1)テストネットワーク「Tobalaba」をベータリリース。
2019年6月 EW Chain (Energy Web Chain) リリース、エネルギー分野に特化した、エンタープライズ向けのオープンソースのブロックチェーンプラットフォームとして提唱。
2019年12月 EW-DOS (EW Decentralized Operating System) 開始、 EW Chainを含む分散技術と周辺のツールなどを統合したスタックとして、エネルギー市場のためのインフラを実現 (詳細は後述)。

(*1) セキュリティ的に保護された領域

■ EWFによる実用化の動き
PTT社(タイに拠点を置く多国籍エネルギー複合企業、EWF会員) は、初期バージョンの電力証書発行・取引アプリケーションによるトランザクションのテストを2019年に完了し、2020年9月に運用開始予定です。PTTはタイ国内の太陽光発電所における発電を基にI-REC(International Renewable Energy Certificate)に準拠した再生可能エネルギー電力証書を発行し、3Degrees(サンフランシスコに拠点を置くブローカー、EWF会員)に試験的に販売しました。

他の事例についても、当連載の第2回以降で記載予定です。

【E1.3】参加メンバー

日本の 東京電力ホールディングス、SBエナジー、中部電力、自然電力、カウラなどを含む各国の公共事業者、系統運用者、再生可能エネルギー開発業者、エネルギー購入企業、エネルギー証書ブローカー、スタートアップ企業、ベンチャーキャピタルなどが参加しています。

2020年7月現在の登録メンバー ( 参照 https://www.energyweb.org/work-with-us/our-affiliate-ecosystem/

【E2】 EW-DOS 概要

EW-DOS(EW Decentralized Operating System )は、パブリックでオープンなITインフラストラクチャであり、EW Chainを含むテクノロジー・スタックです。
顧客によるDER(Distributed Energy Resources、分散型エネルギーリソース)の急増に伴い、DERを活用した系統運用(エネルギーの需給バランスの調整など)を支える仕組みが必要となっています。DERごとに作成されるDID(分散識別子)と、ブロックチェーン技術を実現するソフトウェアのスタックを組み合わせることにより、その実現が可能となります。
EW-DOSは、顧客、資産、および既存システムを、エネルギー市場やプログラムと接続することを目的としており、エネルギー分野でのITインフラストラクチャのデファクトグローバルスタンダードになることを目指しています。
将来的には、EW-DOSによる非中央集権型(decentralized)ネットワークが、メッセージング、ストレージ、コンセンサスなどインフラ機能の全てを提供します。これにより、公共事業者、スタートアップ、個人顧客など誰でもが、自分のPCで作成したアプリケーションを、自身のインフラ構築をすることなく展開できるようになります。

本章(E2.1の図を含む)は、2020年6月にEWFから発行された文書(以下URL参照)に基づき記載しています。 https://www.energyweb.org/reports/EWDOS-Vision-Purpose/
https://www.energyweb.org/reports/EWDOS-Technology-Detail/

【E2.1】EW-DOSの構造

EW-DOSは、オープンソースソフトウェアと標準によるスタック構造であり、Trust層、Utility層、Toolkit層から構成されます。以下に各層の概要を述べます。

出典:EW-DOS: The Energy Web Decentralized Operating System The Open-Source Technology Stack for Accelerating the Energy Transition

1)Trust層
EW Chainにより、コンセンサスと不変性(immutability)を実現しており、次のようなの特徴があります:
・PoA(Proof of Autority) コンセンサス。 ブロックチェーンにおける合意形成において、マイニングが不要で高速なブロック生成が可能。
・EWT(Energy Web Token)。 エネルギー市場参加者がサービス料金を支払うための運用および規制要件を満たす独自のトークン。
・DID( decentralized digital identities)のしくみを支持。

2) Utility層
ミドルウェア。ユーザー向けアプリを簡単に構築できる開発ツールを提供。 次のようなサービスを提供します:
●エンドユーザー対応
・EWNS (Energy Web Name Service): EW Chain上でのEthereum Name Service。電子メールアドレス、契約インターフェイス/アドレスなどリソースのEWNS名(name.ewcなど)と DIDアドレス(16進文字列)のマッピングを提供。
・Key Recovery: DIDに対する所有権を管理するマルチシグネチャ・ウォレット。
・Transaction Relay: エンド・ユーザーはEWTを直接保持・管理せずに、EW Chainとやりとりできます。
●アプリケーションのパフォーマンス関連
・Messaging:非中央集権型メッセージングサービス。DIDによる認証、メッセージの信頼性検証、オンチェーンのトランザクション実装と統合。
・Storage:非中央集権型ストレージソリューション。 Content-addressed および Key-Valueの2種類。
・Identity Directory (DID): 新しいタイプのIDであり、エンドユーザーが直接所有し、制御。
●プラットフォーム間の相互接続
・Bridges:異なるブロックチェーン基盤間で、トークン、データやトランザクションを転送する専用のスマートコントラクト。
・Oracles:複数の入力源からのデータ入力を必要とするユースケースへの対応。
・その他の Chain Abstraction: アプリとユーザーがEW Chainと簡単に対話できるためのAPIを開発中。

3) Toolkit層
エンタープライズ向けアプリケーションの開発プロセスを簡素化・高速化する無料のオープンソーステンプレート。
・Application Registry: DIDの認証レイヤーとして機能し、 特定の地域、市場、またはアプリに固有のレジストリを提供。
・EW Origin: 来歴とトレーサビリティのユースケースをサポートする、カスタマイズ可能なオープンソースソフトウェアモジュール。
・EW Flex: 資産(DER、電気自動車など)のデータを運用と調整するためのオープンソースソフトウェアアーキテクチャ。
・Other Toolkits: 追加のツールキットを開発中。

(EW-DOSの詳細については連載第2回以降に説明予定です。)

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【B1】ブロックチェーンの基本概念
— Public型とPermissioned型 ー

【B1.1】考え方

ブロックチェーンの型については、ニュースでもキーポイントとして話題になることがあります。2019年6月にFacebookにより発表された、デジタル通貨Libraについては、「Libraは、今はConsortium型だけど、将来的にはPublic型にしたい」という話がありました(移行については後に見送りを発表)。 このようなブロックチェーンの分類方法(型)は、基準となる項目によっていろいろな定義(見解)がありますが、ここでは『Public型』『Permissioned型』の一般的な考え方を確認します。このような型に分ける理由は、決して競合させることが目的なのではなく、より適切なタイプのソリューションを考えるための指針とするためです。

ブロックチェーンも定義が一律に決まっているわけではありませんが、 以下に示すものは、2016年のJBA(Japan Blockchain Associasion:日本ブロックチェーン協会)によるものです。
(参照:https://jba-web.jp/news/642

  1. 「ビザンチン障害を含む不特定多数のノードを用い、時間の経過とともにその時点の合意が覆る確率が0へ収束するプロトコル、またはその実装をブロックチェーンと呼ぶ。」
  2. 「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ。」

Public型は、1 の定義(狭義ブロックチェーン)、Permissioned型は2の定義(広義ブロックチェーン)に近い と言われています。

【B1.2】特徴の比較

一般的な特徴として、次の事項があげられます(下の表を参照)。

1) 管理と参加許可について
・Public型は、ブロックチェーンネットワーク全体の管理者が無く、不特定多数のユーザーが自由に参加して台帳への読み書きができます。
・ Permissioned型は、参加するときに組織の管理者や既存のメンバーからの”許可”が必要です。管理組織によって運用され、 パフォーマンス、コスト、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスなどの保障についての 企業の考え方に適合したものとして採用されやすく、 Enterprise Blockchainとも呼ばれています。

2) 匿名性(anonymity)について
・Public型では匿名性があることにより、他のユーザーと同じ権限で参加できます。
・Permissioned型では匿名性が無く、多くの場合、ID管理ツールが付属し、ユーザーが誰であるか(identity)を判別します。これにより、役割・必要性等に対応するアクセス制御・実行権限の判断の基準とされています。

3) スループット(単位時間あたりのTransaction数、TPS)は、一般に、以下のようになります。Public型では特に合意形成による負荷の重さが影響しています。

Public型 < Permissioned型 < 一般の(中央集権型)データベース

4) Latency (通信遅延)は、一般に、以下のようになります。 Public型では広範囲に分散した多数の参加ノードに影響されます。

Public型 > Permissioned型 > 一般の(中央集権型)データベース

※ 一般の(従来の)データベースとブローックチェーンの比較については、ブロックチェーン・ビジネスの推進【2.3】をご参照ください。

5) 具体的なブロックチェーン基盤、ユースケース については、
・Public型には、bitcoinやEthereumなどの基盤があり、 ユースケースとしては、暗号資産(仮想通貨)があります。
・ Permissioned型では、Hyperledger Fabric、Corda、Quorumなどの基盤が知られ、広範囲の業務アプリに用いられます。

Public型とPermission型の比較
(*1) 台帳に読み書きできるエンティティ(存在)。 (*2) Proof of Work, Proof of Stake。

【B1.3】Public型と EW Chainの仕様

各ブロックチェーン基盤は、基本的にはPublic型 または Permissioned型のどちらかの型に分類できますが、近年のガバナンス強化やビジネス等の必要性に応じて、他方の機能や実運用の独自の手法を柔軟に取り込む動きが進んでいます。

Public型として分類されるものも、参加基準の有無により、以下のように細分化されます。
・Permissionless Public :
無条件で(参加基準が全く無く、同等の権利で)参加可能な Public。
例:Ethereum(PoW使用)、Bitcoinなど。
・Permissioned Public:
事前定義された一定の基準をもとに(その基準に沿った有利な条件等で)参加できるPublic。
例: EW Chain (PoA使用、EWF公式メンバーの法人であり、
Validatorノードの正常なホスト能力保持が参加条件)、
Casper後のEthereum (PoS使用、暗号資産を保持している量や
期間によってマイニングが容易になる)、
投票権を持つエンティティのみが参加できる投票システム

このとき、”参加基準”がどういうものであるかや、”参加”したエンティティが可能な動作やアクセスできるデータは、ブロックチェーン基盤およびその時点での運用やガバナンスにより異なります。

EW Chainにおいては、基準を満たしたValidator(定義されたノードのグループのメンバー)のみが、新しいブロックの作成(台帳への書き込み)とトランザクションの検証とを許可され、マイナーはいません。 基準については、エネルギーという社会的責任の大きなビジネスを支えるために、ユーザーや企業に広く受け入れられるものである必要があります。また、KYC (Know Your Customer、顧客確認)やAML(Anti-Money Laundering)、GDPRなどのデータ保護規制を含むさまざまな規制への準拠、セキュリティ、安定運用などの必要性があることから、EWFメンバーには、健全な組織であることが求められます。このため、合意形成(consensus) アルゴリズムとして、Proof-of-Authority (PoA) を採用し、規制へのコンプライアンスやビジネス要件への対応を図っています。 PoAによりスループット向上、計算コストと消費電力の削減も実現しています。

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■EWF, EW-DOS, EW Chainの最新の詳細については、以下のサイトをご参照ください。
Energy Web Foundation
EW-DOS White Paper Part 1, Vision & Purpose
EW-DOS White Paper Part 2, Technology Details
EW Chain White Paper

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Kaula Lab (連載記事一覧)
第一回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EWF概要 / ブロックチェーンの基本概念
第二回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSのユースケース概観と事例紹介
第三回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSとデジタルアイデンティティ

第四回 エネルギー・ブロックチェーン入門:EW-DOSで実現する再エネトレーサビリティー(1)

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。
記事へのご意見やご質問などがございましたらお気軽に下記までご連絡ください。
info@kaula-lab.com

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非金融分野ビジネスの関係者が、ブロックチェーン技術についての調査、導入検討、実証実験やアプリケーション開発を実施するために参考となる最新の情報を提供することを目的としています。

田町 京子

Written by

Kyohko Tamachi | IT Specialist | Hyperledger Fabric | Blockchain | Kaula.jp|

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