018 | 201804 | 特集:プロジェクトと「疲労」

編集担当より ── どんな考えのもと誰にどんな寄稿をお願いしたか

榊原充大
建築討論
7 min readMar 31, 2018

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目次

01|谷亮治|状況整理:まちづくり批評のパースペクティブ ── なぜ官民連携のまちづくりは疲れるのか
02| 天米一志|官民連携の「疲労」、その解消方法の可能性と課題
03| 泉英明|官民連携、民から見る疲労の「現象」「原因」「解消」
04| 田中陽明|未来的なコワーキングスペースは、官民のフラットな結節空間になる
05| 坂和章平|制度疲労を起こしている都市計画法制の再構築と「官with民」によるまちづくりのあり方

この特集は、現在を「官with民」の時代ととらえ、建築・まちづくりを問わず「プロジェクトを続けていくこと」の課題と解決可能性を多様な角度から見ていこうというものです。なぜそのようなテーマで特集を組んだかというと、編集担当である榊原が「官民連携まちづくり」に取り組み、その可能的な課題に向かい合っているからです。そしてこれは個人的な現在の問題にとどまらず、この先、ならびに他の地域においても同じことが言えるだろうと考えたからです。

今回の特集は、以下のような見立てと寄稿希望内容を、寄稿依頼者の方々にあらかじめお伝えし、実現しています。その内容を以下にお知らせしようと思います。なお、図版はこの記事に際して編集担当の榊原が作成したものです。

以下依頼文です。

「疲労」ダイアグラム

この特集は、建築やまちづくりにおけるこれまでとこれからを、官民の関係性から、「官vs民」「官feat.民」「官with民」という流れとしてとらえ、以下の3つを問おうとするものです。

・「疲労」の現象
・「疲労」の原因
・「疲労」の解消

「疲労」という比喩を用いる理由は、「理念(理論)」と「実践」という二項対立の「間」、つまり理論を実践していくまさにその力学における課題とその乗り越えを考えることができるのではないか、という考えによるものです。「都市を舞台に行われるプロジェクトを動かし(続け)ていくこと」を諸側面から考えていくために、今回の特集を組んでいます。

「官民」関係の表

<官vs民>
1960年代の国家による「国土開発」「日本列島改造論」に象徴される大規模開発プロジェクト方式によって全国土が開発されていく中、そのアンチテーゼとしてより市民主体の活動が「まちづくり」と呼ばれていました。60年代後半になると、高度成長期にともなう都市問題や公害問題、とりわけ公害反対運動など市民運動が活発になります。いわば「官vs民」という構図がここからは見てとることができるでしょう。ここでの「民」には、「市民」という草の根のニュアンスが込められています。

<官feat.民>
公共投資を核とする都市開発を目指した日本列島改造論に対して、規制緩和と民間活力の導入による都市開発が目指されたのが1980年代でした。1992年に都市計画法の改正により、都市計画マスタープランづくりに住民参加の必要性がうたわれるようになり、1995年には行政手続法が制定され、パブリックコメントの制度化が行われます。2003年には指定管理者制度が始まり、いわば官が担ってきた取り組みの中に民が関与するという構図が見えてきます。先の「官vs民」時代と比べて、ここでの「民」は「産(大企業)」という大きな主体が想定されています。

<官with民>
こうした官民連携の流れは、1999年のPFI法などからも見える通り、民へのウェイトをより大きくしていきます。小泉自民党時代における「官から民へ」の象徴としての「郵政民営化」や「道路公団民営化」は、こうした流れを反映しているといえるでしょう。2002年の「都市再生特別措置法」でも民間事業者に対する都市計画法・建築基準法に基づく規制を適用除外し金融支援を行うという方針がとられました。よりミクロな視点で見ても、助成金や補助金といった税金ベースではなく、事業としてまちづくりを進めていこうという機運が高まっています。

このように見ていくと、「民」の多様化にも気づきます。

・小泉自民党時代における「官から民へ」=民化する官
・「都市再生特別措置法」が対象とする「民」=産(大企業)
・最近の公民連携(リノベーションまちづくり)的なものの「民」=小規模地域事業者

こうした官民の関係性(そして民の多様化)に焦点を当てた見取り図の中で、現在的な「疲労」の表出、その原因や解決策を見ていきたいと思います。その中に今後の「デザインの余白」や「デザイナーの役割」に関する思考の契機も見てくるのではないかと考えています。

ということで、以下の方々に、さらに以下の内容でご寄稿をお願いしました。

01】状況整理
:谷亮治さん(まちづくり研究)
「まちづくり批評」はいまどのように可能なのか。そして「疲労」という概念はその中でどのような視座をもたらし得るのか?「まちづくりに疲れた人へ」と銘打たれた『モテるまちづくり』、そして「まちづくり0.0」という「限界まちづくり」なる概念を持って新たなまちづくりの流れの整理を試みる谷さんの視点から、今見えている風景について教えていただけますでしょうか。

02】官からの官民連携について
:天米一志さん(GPMO)
かつて自治体職員としてPFIを手掛け、現在はアドバイザーの立場として、PFIをはじめとする公民連携による施設整備に取り組む自治体支援をおこなう天米さんの視点から、「疲労」の現象/原因/解消について教えていただけますでしょうか。

03】民から関わる官民連携について
:泉英明さん(ハートビートプラン)

2009年にはじまる水都大阪の取り組みをはじめ、大阪は難波、愛知は豊田や岡崎といったエリアにおいて官民連携の実践や社会実験など多様なプロジェクトのかじ取り役をつとめられることが多いハートビートプランさんですが、民間主体としての視点から見えてくる、プロジェクトにおける「疲労」の現象/原因/解消について教えていただけますでしょうか?

04】民と民の関係性について
:田中陽明さん(co-lab)

官民の連携に比重を置く今回の特集ではありますが、NPOやまちづくり協議会などの組織づくりはもちろん、民同士によるネットワークの望ましいつくり方についても考える必要性があると考えています。co-labというクリエイターによる協働のプラットフォームづくりを進める田中さんの視点から、プロジェクトにおける「疲労」の現象/原因/解消について教えていただけますでしょうか。

05】規制の面から考える官民連携
:坂和章平さん(弁護士)

『まちづくりの法律がわかる本』において、まさにそのタイトル通り「まちづくり」を軸にしながら既存の制度を整理されておられますが、そうした視野の中で、「制度の「疲労」」「制度における「疲労」」とその乗り越え方について教えていただけますでしょうか。

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榊原充大
建築討論

さかきばら・みつひろ/建築家、リサーチャー。1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築や都市に関する調査・取材・執筆、提案、ディレクションなど、編集を軸にした事業を行う。2008年建築リサーチ組織RADを共同で開始。