034 | 201908 | 特集:建築批評 葉祥栄《小国ドーム》── 現代木造とコンピュテーショナル・デザインの源流を探る

Architectural Review : Shoei Yoh [Oguni Dome] — Exploring the origins of contemporary timber architecture and computational design in Japan

建築作品小委員会
建築討論
4 min readJul 31, 2019

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目次

  1. ロングインタビュー|葉祥栄-木造とコンピュテーションが出会った時
  2. 論考1|腰原幹雄|製材を用いた大規模木造建築
  3. 論考2|ニコル・ガードナー&ハンク・ホイスラー|《小国ドーム》をコンピュテーショナル・デザインのグローバルな文脈に位置づける ──コンピュテーションの具現化としての建築
  4. ショートレビュー|建築作品小委員会より

特集前言

今日隆盛する「木造建築」と「コンピュテーショナル・デザイン」の源流を探るべく、熊本県小国町に1988年に建てられた葉祥栄設計の《小国ドーム(小国町民体育館)》を特集する。

グレッグ・リンは、2013年にカナダ建築センター(CCA)で開催した展覧会「デジタルの考古学(Archaeology of the Digital)」においてフランク・ゲーリィ、ピーター・アイゼンマン、チャック・ホバーマンとともに葉祥栄をデジタル・デザインの先駆者として紹介した。展覧会に際して行われたインタビューで、葉は1985年に設計に着手した《小国ドーム》がコンピュテーションに関わった最初のプロジェクトであったと述べている★1。コンピュテーショナル・デザインへの関心がますます高まる今日においても、このことはあまり知られていない。むしろ日本では、《小国ドーム》は大規模木造建築のパイオニア的な作品として認識されており★2、1989年には「小国町における一連の木造建築」の主要作品として日本建築学会賞を受賞し、2019年には「地元産の杉の間伐材を用いて開発された先駆的な木造立体トラス」★3 と評されてJIA25周年賞を受賞している。《小国ドーム》は現代的な木造技術とコンピュテーションを組み合わせた先駆例であると同時に、長年に渡ってその魅力を保ち続けた成功例と考えられる。

諸々の木造技術とデジタル技術が高度化した今日、両者を具現化した建築や空間インスタレーションが日々世間をにぎわせている。しかし両者は「技術」である以上、自己目的化し、マニエリスムに陥る危険性をはらんでいる。これらが隆盛を誇る今こそ、原点を見つめる必要があるのではないか。そこで、本特集では《小国ドーム》を日本における現代的な木造建築とコンピュテーショナル・デザインの源流として措定し、そこから今日の状況を逆照射することを試みる。

本特集にあたって、2019年7月5日に葉祥栄氏へのインタビューを行った。聞き手は建築作品小委員会2名(岩元真明・水谷晃啓)とゲストの佐藤利昭氏(九州大学准教授)である。このロングインタビューは《小国ドーム》の社会的背景を確認し、現代的な木造技術とコンピュテーションが先駆的に採用された経緯を明らかにする。

次いで、木質構造を専門とする腰原幹雄氏の論考によって、《小国ドーム》を大規模木造建築の歴史的文脈に接続する。そして、構造の特徴を具体的に把握することを通じて、それが現代の木造建築に与えた影響を示す。

さらに、世界初のコンピュテーショナル・デザイン学士コースを擁する豪ニューサウスウェールズ大学のニコル・ガードナー(Nicole Gardner)氏とハンク・ホイスラー(Hank Haeusler)氏の論考によって、 コンピュテーショナル・デザインのグローバルな文脈において《小国ドーム》がいかに理解されるか検証する。

最後に、2019年6月8日に現地見学を行った建築作品小委員会8名(川井操、和田隆介、伊藤孝仁、岩元真明、川勝真一、辻琢磨、水谷晃啓、吉本憲生)による作品ショートレビューを掲載する。

(岩元真明、水谷晃啓)

《小国ドーム》(撮影:井上一)

★1:Lynn, G (ed). Archaeology of the Digital. Berlin: Sternberg Press, 2013.

★2:浜田英明+法政大学構造計画研究室「日本の近現代建築構造の系譜」. シンポジウム「日本の近代建築を支えた構造家たち」フライヤー(法政大学、2019年5月18日).

★3:松隈洋「JIA25年賞 小国町民体育館「小国ドーム」講評」. 日本建築家協会ウェブサイト, 2019. http://www.jia.or.jp/member/award/25years/2018/oguni.htm

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建築作品小委員会
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建築作品小委員会では、1980年生まれ以降の建築家・研究者によって、具体的な建築物を対象にして、現在における問題意識から多角的に建築「作品」の意義を問うことを試みる。