前言

建築基準法が制定された1950年(昭和25年)以前に京都市内に建てられた町屋が、高度経済成長以降の建て替えによって減少し始めた。町の歴史的、観光的な資源が失われることが危惧され、「京町家」と呼び保存や活用の方法が議論されるようになり、2017年11月には「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」が制定される。しかし都市の高密化による容積増加の圧力や所有者の高齢化と相続の問題の前で、現在も1日に2軒のペースで解体されているという。

インバウンド需要によって京町家は観光資源としての価値が高まり、町家を改修した宿泊施設が増加した。町家の保全・再生は外観やマテリアルにおいて達成されつつも、外部(観光客等)依存的であり、管理者不在の一棟貸しなど地域のプライバシー、防犯、防災の観点から問題も生じている。町家の本来的な地域との関係、生業との深い結びつきの継承には至っておらず、またコロナ禍によって移動そのものの制限によって、観光という文脈への単一的な依存が孕む問題が明らかになった。

今回取り上げる《コンテナ町家》は、これまでとは違う形で町家が引き継がれている。鉄骨による大屋根と床を3軒の長屋に覆い被せ、新しい容積をコンテナとして挿入する方法によって、歴史都市京都の骨格である路地を引き継いている。景観の「保存」は目的ではなく、都市の原理との関係性が保存されていると言えるだろう。

以上の背景から、本特集にあたって、以下のキーワードを挙げる。

  1. 京都の都市的コンテクストとその重層性
  2. タイポロジーとしての町家
  3. 新しい事業性
  4. 町家改修やコンテナに関わる法規との関係
  5. 構造・構法・マテリアル

以上の5つのキーワードを基にして、本特集では、《コンテナ町家》設計者の魚谷繁礼氏と「超合法建築」「エクスコンテナ・プロジェクト」に取り組んできた吉村靖孝氏の対談記事、建築タイポロジー研究に取り組む佐々木啓氏による批評文、京都市役所職員として景観法の策定や密集市街地対策に取り組んでこられた文山達昭氏による解説文、オーナーである壽商事の石田氏にプロジェクトの経緯に関するインタビュー記事を掲載する。

特集担当:能作文徳、伊藤孝仁、川井操、川勝真一(以上、建築作品小委員会)、佐々木啓(ゲスト編者)

敷地境界線を越えて街区中央の雑多な世界に拓かれる

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建築作品小委員会
建築討論

建築作品小委員会では、1980年生まれ以降の建築家・研究者によって、具体的な建築物を対象にして、現在における問題意識から多角的に建築「作品」の意義を問うことを試みる。