058|202108|特集:建築批評 竹中工務店, 日建設計《MIYASHITA PARK》 ──MIYASHITA PARKから考える公共性の現在

Architectural Review : TAKENAKA CORPORATION, NIKKEN SEKKEI [MIYASHITA PARK] — The present of publicity from MIYASHITA PARK

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目次

  1. 批評|「公共性を空間からではなく、連関から考える」 ── 塚本由晴(アトリエ・ワン、東京工業大学教授)
  2. 批評|MIYSASHITA PARKをどう理解できるのか ── 窪田亜矢(東京大学特任研究員)
  3. 批評|公共性の揺らぎを体感するためのMIYSASHITA PARKマニアックツアー ── 馬場正尊(オープン・エー、東北芸術工科大学教授)
  4. 批評|でかい商品棚 ── 村上慧(アーティスト)
  5. 論考|対立する公共性と利便性・合理性 ── 西田亮介(東京工業大学准教授)
  6. 解説|MIYSASHITA PARKの枠組みとプロセス ── 三井祐介(日建設計)

前言

建築や都市空間における「公共性」が、単に国や地方自治体が管理運営する公共施設や公共空間の枠にとどまらないことはもはや自明である。1980年代には「民間事業者の能力活用」や「市民参加」といった考えがまちづくりと公共施設の計画プロセスに導入されはじめた。公的機関の財政状況が悪化した1990年代以降、この官民協働の意識は高まり、そこから数多くの都市・建築プロジェクトが生まれた。とりわけ2000年代以降、都市再生事業における規制緩和と連動して民間の都市開発プロジェクトに公共貢献メニュー等の公的な性格が付与され、他方では、PFI制度によって公共施設に民間事業者の資金・ノウハウを活用する取り組みが進められ、官民の境は曖昧になってきている。このような官民協働のあり方は、サービスの質や持続性を担保するというメリットがある一方で、ときには空間へのアクセシビリティを変質させ、ジェントリフィケーションや排除と結びつくこともある。官民協働により生まれる建築・空間において、あらゆる人に開かれた「公共性」とは何か。その可能性と意義を今一度問うことが必要と思われる。

本特集では《MIYASHITA PARK》をテーマとして都市・建築の公共性の現在について考えたい。《MIYASHITA PARK》は渋谷区の宮下公園の敷地を活用して2020年に開業された官民協働の複合施設である。公共事業である区立公園と都市計画駐車場、民間事業である商業施設とホテルが立体的に組み合さったプロジェクトであり、立体都市公園制度を適用することによって空中に浮かぶ公園の下層に商業施設が配置された空間構成が特徴である。30年の定期借地権に基づいたローコストの空間整備という条件が、渋谷の空気感と共鳴するラフな仕上げに結実し、事業性とデザインが融合している点も興味深い。プロジェクトアーキテクトとして《MIYASHITA PARK》の計画に参画した日建設計の三井祐介と伊藤雅人は、「公共空間が商空間化し、商空間が公共空間化しているような現在における『パブリックスペース』はどうあるべきか」(新建築, 2020年9月号, p.121)と問いかけている。

あらゆる人に開かれる公共性を有すべき「公園」と集客性・収益性が求められる「商業施設」が共存する本作品に対する人々の態度は様々である。渋谷の中心に新たに生まれた空中公園を若者たちは歓迎し「インスタ映え」のスポットになった。そこに生まれた「賑わい」を官民連携の空間利活用の好例として見ることもできるし、商業的性格が色濃い空間がアクセスしやすい人/そうでない人の区別を発生させると見る向きもある。旧宮下公園から脈々と続く野宿者排除の議論もある。「開かれること」「集まること」「持続すること」、そして、その主体の問題。《MIYASHITA PARK》には公共性を取り巻く様々な論点がある。

公共性とは多様な主体に開かれ、その自由を担保するものであろう。そこで、本特集では多様なバックグラウンドをもつ専門家に《MIYASHITA PARK》について批評と議論をいただき、都市・建築の「公共性」の現在を考察する。作品批評としては、渋谷区とナイキジャパンの協業で2011〜2017年に供用された《みやしたこうえん》(2011)の設計者である塚本由晴氏、「都市における『公園』」という観点から宮下公園の歴史的変容を研究する窪田亜矢氏、「公共R不動産」など公民連携プロジェクトの経験が豊富な馬場正尊氏、生活者の視点から現代におけるパブリックとプライベートの関係を問うアーティスト・村上慧氏の4名から寄稿をいただいた。さらに、社会学者の西田亮介氏に現在の渋谷と《MIYASHITA PARK》を起点として今日の「公共性」について議論いただき、日建設計の三井祐介氏にプロジェクトアーキテクトの一視点から《MIYASHITA PARK》の枠組みとプロセス、設計意図について解説をいただいた。

担当:岩元真明、吉本憲生、辻琢磨、能作文徳

©️ナカサアンドパートナーズ

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建築作品小委員会
建築討論

建築作品小委員会では、1980年生まれ以降の建築家・研究者によって、具体的な建築物を対象にして、現在における問題意識から多角的に建築「作品」の意義を問うことを試みる。