059 | 202109 | 特集:計量的アーバニズムの最前線──数理的・統計的な空間分析は、都市論に何をもたらすか?

Quantitative urbanism challenge — What does a mathematical and statistical spatial analysis bring urbanism?

KT editorial board
建築討論
Aug 31, 2021

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目次

  1. 計量革命と都市論数理・計量地理学の過去、現在、未来:計量革命、GIS革命、空間ビッグ・データ革命/矢野桂司(立命館大学文学部)
  2. 計量と設計の接続視覚・距離情報を有する点群に建築空間の分析と設計を接続することは可能か?/新井崇俊(東京大学生産技術研究所/hclab.)
  3. 人文社会都市論と数理的都市論の接続概念から「パラメータ」へ/吉本憲生(日建設計総合研究所NSRI)
  4. 解題都市〈学〉の構築/松田達(静岡文化芸術大学)
イメージ画像:Blue lights time-lapse, representing networks and big data. Source: https://en.wikipedia.org/wiki/File:Art-big-data-blur-373543.jpg, CC0 1.0(出典:英語版Wikipedia ”Quantitative research” より)

特集前言

都市は計量的に見るとどう見えるのか? 都市はこれまで様々に語られ、分析され、また計画されてきた。「都市学」というものを想定すれば、それは複数の学問領域が複雑に入り交じる応用科学であり、そのなかには歴史学、地理学、社会学、経済学、法学、建築学、デザイン学など多様な分野が含まれる。けれども、都市論ないしはアーバニズムという枠組みにおいては、基本的に人文社会学的な都市論が優位にあったように思われる。数理的・統計的なアプローチによる都市論ももちろん多数あるが、少なくともそれが十分に注目され、多くの媒体を通して、一般の人の目にも触れてきたとまでは言えないであろう。例えば、本媒体『建築討論』においても、基本的に数理・統計的な空間分析は、あまり紹介されてきたとはいえない。

そこで本特集では、これまで無意識に敬遠されてきたかもしれない数理的・統計的なアプローチによるアーバニズムや空間分析に注目し、それらが都市論に何をもたらすのかということを中心的テーマとして掲げ、議論してみたい。それらを「数理的アーバニズム」ではなく「計量的アーバニズム」と名付けたのは、地理学をはじめとした「計量革命(Quantitative Revolution)」にならったものである。計量化は、20世紀前半までに経済学や心理学などで先行して起こっていたが、地理学でのそれは1950年代〜1960年代前半にかけて、短期間にひとつの学問分野のあり方自体を世界的に大きく変えていったことで知られる。そのため「計量革命」といえば、基本的に地理学の用語にあたる。都市学は、経済学や地理学の領域とも隣接し重なる学問である。したがって、都市学における計量化ないしは「計量革命」は、すでに進行している部分もあるといえるし、これから進展する部分もあるといえるだろう。

さらには、新型コロナウイルス感染症の終わりの見えない感染状況も、こうしたテーマを取り上げたいと思った理由のひとつとなっている。感染症が都市にいかに深刻なダメージをあたえるのか、この2年弱でわれわれはいやというほどそれを痛感したはずである。にもかかわらず、こうした感染症に対して講じられる対策は、決して科学的に十分とはいえない、先読みのない後手後手の政策でしかなかった。これは科学が政治に取り入れられないからというだけのことなのであろうか?もちろん、それはあるだろう。けれども、それ以上にものごとを数理的・計量的に考えるということが、あまりにも浸透していないということではないだろうか? 世界を席巻するパンデミックを前に、都市論も進化を求められているのではないかと思った。もっとデータを駆使した科学が、そしてその科学を信用した政治が、切に求められるべきだと思ったのだ。

こうした状況を射程におきながら、本特集を組ませて頂いた。「計量化が都市論に何をもたらすのか?」ということを議論したいことには違いがない。ただ一方で、「何が都市論にもたらされるべきなのか?」という問題意識が、そのさらなる前提に潜んでいたことが、いま浮かび上がってきたような気がする。(松田達)

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。