021 | 201807 | 特集:AIと都市 ── 人工知能は都市をどう変えるのか?

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建築討論
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5 min readJul 1, 2018

AI and the City — How will Artificial Intelligence change the Cities?

目次

1. 人工知能は都市を変えるか?/山形浩生(評論家、翻訳家)

2. 映画における人工知能と未来都市/五十嵐太郎(建築批評家)

3. 杭州市の〈ET城市大脳〉プロジェクト/助川剛(建築家)

4. 「ビックデータは都市理論を変えるか?」をめぐって/吉村有司(建築家、MIT研究員)

特集前言

本特集のテーマは、AI(人工知能)と都市である。ここ数年のAIの発展は目覚ましい。自動運転の実証実験が始まり、将棋も囲碁もAIが人間のレベルをほぼ完全に超えた。モノクロ写真をカラー写真に変換することもできるようになり、動作を交えて会話をするロボットの完成度も格段に上がった。AIの軍事技術への応用が心配され、人工知能が人類を支配するのではないかという議論まで本格的になってきた。テスラのイーロン・マスクが人工知能脅威論を唱える一方、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグはそれを無責任だと批判し、AIが人類の生活を向上させるとする。二人の対立は、AIを「善」と見るか「悪」と見るか、対極の立場があることを示している。未来学者のレイ・カーツワイルが2045年ごろに訪れるとした、人工知能の指数関数的な発展がはじまる時点=シンギュラリティ(技術的特異点)も、SFの世界ではなく現実的に起きうる可能性が見えてきたといえよう。

レイ・カーツワイル著, NHK出版編, シンギュラリティは近い [エッセンス版] ―人類が生命を超越するとき, NHK出版, 2016
松尾豊著, 人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの, KADOKAWA/中経出版, 2015

AIの発展には何度かのブームがある。人工知能学者の松尾豊は、1960年代頃の第1次AIブーム、1980年代の第2次AIブームに続く、2010年代の今回のブームを第3次AIブームだと位置付けている。推論・探索を行わせる第1次ブーム、コンピュータに知識を入れる第2次ブームに対して、機械学習や特徴表現学習によって発展したのが今回の第3次ブームということになる。なかでも、多層のニューラルネットワークによる機械学習であるディープラーニングは、もっとも重要なブレークスルーであり、これによってAIは単なる「知識」ではなく「概念」を獲得することが可能になり、「言語理解」「知識獲得」などを自ら行えるようになっていくという。さらには欧米、ついで日本で、人間の脳の全容を解明して、それをコンピューター上で再現しようという、いわゆる「汎用AI」をつくろうというプロジェクトも、2013年頃から始まっている。

さて、こうした状況のなか、社会のあらゆる分野でAIが何を変えるのかという議論が起こりはじめているが、「都市」に関してはまだ本格的な議論がはじまっているとはいえない。「建築」分野でも人工知能による業界の変化が議論されはじめたばかりの状況であるなか、「都市」はひとつの分野としては包含しているものが多すぎて、未来予測をするには複雑すぎるからだといえよう。しかしながら、本特集ではそれでも現段階でどのような議論できるのか、「AIと都市──人工知能は都市をどう変えるのか?」というテーマを組み、各著者に原稿を依頼した。今後われわれが暮らす都市が、人工知能によってどのように変化する可能性があるのか? あるいは大した変化はないのか? それぞれの論考を通して、考えるきっかけを提起したい。

山形浩生氏には、もっとも広い視点から、「人工知能は都市を変えるか?」というシンプルであるからこそ難しい問いかけに、ダイレクトに答えるような原稿をご寄稿頂いた。五十嵐太郎氏には、人工知能を取り扱っている映画を題材に「映画における人工知能と未来都市」という論考をご寄稿頂いた。映画こそ、われわれが未来の都市を視覚的にもっともリアリティを持って感じることができるメディアであるからだ。杭州在住の建築家である助川剛氏には、中国の「国家4大AIプロジェクト」のうちのひとつ、都市計画分野でアリババグループが委託されて進めている、杭州市における人工知能の都市への活用をレポートして頂くとともに、今後の建築・都市設計への応用についても展望する論考をご寄稿頂いた。現在MITの研究員でもある吉村有司氏には、建築や都市計画分野におけるビッグデータの活用について、アメリカ東海岸で議論される最新の情報をもとにした論考を寄稿頂いた。特に表題にある「ビッグデータは都市理論を変えるか?」は、2018年3月にハーバード大学とMITが共同で行ったシンポジウムであり、「AI」と「都市」という二つの分野の架構の必要性が、いままさに問われている状況を知ることができる。

人工知能が今後どのように都市を変える可能性があるのか? これらの論考を通して、読者の関心と議論が喚起されれば幸いである。(松田達)

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。