202312 | 建築批評|本瀬齋田建築設計事務所《消滅集落のオーベルジュ|L’évo》 ── ライフラインを再縫合する建築

目次

伊藤孝仁
建築討論
Dec 31, 2023

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  1. インタビュー|最後の住民はなぜ消滅集落を守り続けてきたか── 高桑久義
  2. 批評|維持する力の諸相 ── 伊藤孝仁(AMP/PAM)
  3. 批評|生きのびるための洗練 ── 伊藤維(伊藤維建築設計事務所|名古屋造形大学)

前言

2008年を境に人口減少社会に突入し、高齢化率が増加の一途を辿る日本においては、立地適正化計画など縮小時代に適合した都市構造の再構築(コンパクトシティなど)が進められている。特に雪国においては道路等の除排雪費用が自治体の財政を圧迫するため、また高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化を迎えていることもあり、これまでの暮らしを支えていたインフラを持続的に維持管理することが困難な状況である。集落、あるいは都市を「たたむ」選択をすることは、これからの社会において日常的な事になり得るのである。

一方で、都市から離れた過疎化した地域において、高速インターネットが可能なコワーキングスペースや、集落の建物を活かしたエリア型の宿泊施設、農業を中心としたに拠点居住のコミュニティ施設など、そこにある資源や特徴を活かした場づくりも盛んに行われている。コロナ禍で改めて気付かされた都市の脆弱さを前にして、たたまれる場所もあれば、人や資本が流れ込む場所もある。

今回取りあげる《消滅集落のオーベルジュ|L’évo(レヴォ)》は、富山県の利賀村の奥にかつてあった小さな集落の跡地を敷地とした、宿泊施設付きレストランである。オーナーシェフである谷口英司氏は2014年に富山市内でレヴォを立ち上げ、より理想的な地産地消のあり方を求めて2020年に利賀村に移転オープンした。「ミシュランガイド北陸2021 特別版」で2ツ星獲得するなど、グローバルな射程でもって人々を僻地へと呼び込んでいる。

最後の住人がこの地を後にしたのは今から30年ほど前であり、当然各種インフラは途絶えていた。水道を新設すれば億単位の資金が必要になるほか、敷地へと通じる市道は行政による除雪対象の範囲外になっていたりと、本プロジェクトは建築が存在するための「基盤」を修復/再構築することから対象化されている。外から訪れるまれびとの強烈なタレントやコンテンツと、この地で暮らした住人が守り続けた環境に対する知、それらを互いに支え合うようにバランスさせ、厳しい環境下で建築へと着地させるエンジニアリング。そのようなインフラの再構築の過程が、施主や設計者、かつての集落の住人、行政といったな多様な主体の「知」や「営み」が重なりあい実現していることの静かなダイナミズムに、建築がその基盤のあり方に対して無批判的であることや、建築創造のあり方に対する批評があるだろう。

本特集では、まず集落の最後の住人であった高桑久義氏への現地インタビューを掲載する。子供時代の集落の様子から離村に至るまで、それから30年以上にわたり水源を守りメンテナンスをし続けてきた営みの背景について伺った。

岐阜を拠点に国内外で活動し、特に都市の後背地的な環境において意欲的な建築を実現させている伊藤維氏は、岐阜〜利賀村を往復する道中やレストランでの食事を含む多様な経験から得た着想を核として、「野生」と「洗練」の衝突という視点から建築を考察する。

(伊藤孝仁/建築作品小委員会)

本瀬 あゆみ (Ayumi Motose)
1980年青森県出身 東京藝術大学美術学部建築科卒業後、東京工業大学大学院修士課程修了。 藤本壮介建築設計事務所、隈研吾建築都市設計事務所勤務などを経て、2015年より本瀬齋田建築設計事務所主宰、金沢工業大学 非常勤講師

齋田 武亨 (Takeyuki Saita)
1979年 茨城県出身 東海大学大学院工学研究科建築学専攻修了 2005年より隈研吾建築都市設計事務所勤務 同事務所・設計室長2015年まで富山県富山市のTOYAMAキラリの設計監理を担当し、独立後も富山県で設計活動を行う。本瀬齋田建築設計事務所主宰、富山クリエイティブ専門学校 非常勤講師

消滅集落のオーベルジュ|L’évo(photo:中村絵)

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伊藤孝仁
建築討論

1987年東京生まれ。2010年東京理科大学卒業。2012年横浜国立大学大学院Y-GSA修了。乾久美子建築設計事務所を経て2014年から2020年tomito architecture共同主宰。2020年よりAMP/PAM主宰、UDCOデザインリサーチャー。