サラリーマン社長が日本のものづくり文化を停滞させた!? 日本はもっと文化形成に投資をせよ
#BuildingTech 5/7
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「デジタル時代のものづくり」と題して行われたセッション(全7回)の5回目をお届けします。
登壇者情報
- 秋吉 浩気氏:VUILD 代表取締役CEO
- 藤村 祐爾氏:オートデスク Fusion 360 エヴァンジェリスト
- 齋藤 精一氏:Rhizomatiks Creative Director / Technical Director
- 野城 智也氏:東京大学生産技術研究所 教授 /モデレータ
新しいものを生み出す文化づくりは、損得なしで始めよう
野城 おもしろいですね。私の研究所は、東京大学の中で一番、産業界に対して垣根が低いと言われてきました。ただ昔と違うことがある。「何かおもしろいことないですかね?」と産業界の方が来て、こちらが応答すると盛り上がるまでは昔も今も同じですが、「何も(その後の連絡が)ないのはどうしたのかな?」と聞いたら、今齋藤さんがおっしゃったように、会社の中で議論していて、いくら投資していくらリターンがあるかと言う議論を会社内でしているとのこと。大学の絡む話というのは、そういう観点でみられれば大体埃が出てくるんですよね。
ところが先ほどの東京オリンピックが開催される1964年頃の日本・東京はどうだったかと先輩に聞くと、「同じく盛り上がった。そして盛り上がった後はいい意味で会社はいいかげんだった」と言うんです。
例えば、オートマ車の基本原理ができた頃にトヨタが私ども研究所にお越しになったころは、部長や課長さんが(自分たちで決済できる)お金を持っていて、そこでプロトタイプをまたたくまに作ってしまったそうです。
それでうまく行くよと言ったら、トヨタが本格的に投資したということです。言いたいことは、最初のスモールなプロトタイプがすぐできるかということです。
昔の日本の大企業はわりといい意味でいいかげんだったから、そうやって部長や課長さんが、おもしろければちょっと実験するようなお金(の決裁権)があったので(その場で)きっと動いていたわけです。
(要は)リーンスタートアップがどうやってできるかです。
齋藤 そうなんです。僕はこれをだいぶ長いこと1年半から2年考えていたのです。
ちょうど最近、SAISONの創業者の堤さんの本(編注:『セゾン 堤清二が見た未来』)が出たのです。
その小さいこともしくはおもしろいことに投資して、何か新しいものを作ろうとするのは文化じゃないですか。要は文化を作るようなことです。
僕は今いろいろな文化系のことをやらせて頂いているのですが、(日本人は)文化に対して全然投資がないです。日本人はすごく文化度が高くなっていて、美術館に行く率もめちゃくちゃ高いのに、です。
日本人は美術リテラシーが低いとみんなは言いますが、美術館に行く率はめちゃめちゃ高いのです。老若男女皆さん行かれます。美術館に行く、もしくは美術に触れるという機会は高いです。
ただ「美術を作る」というものに対して投資が少ない原因は、僕がすごく思ったのがいわゆるトップダウン創業者がいなくなって「俺がやるからやるんだよ」「美術館を作るから作るんだよ」「この事業を進めるから進めるんだ」「バイクを作るから作るんだ」という人が日本から圧倒的にいなくなっているからだと思うんです。
今の社長は、言い方はあれですがサラリーマン社長の人たちが多くて、逆に言うとそこまでの舵が切れないんです。
企業のコツは、戦略を広げすぎないことにある?
野城 そうですね。そこでプロトタイプが始まらないということになってしまう。しかし、秋吉さんの場合は孫さんたちとの出会いがあったと思うのです。
もうひとつ大事なことは、先ほどのプラットフォームがいくらも小さくても垂直統合された部分で、まず最初のケースが作れるという巧い作戦を取られたと思います。
起業のコツを今日来られている方にお願いします。
いくらエンジェルがいても、かえって戦線を広げ過ぎるとダメになってしまうでしょう。そこら辺の狙いどころをどうしたということをお願いします。
秋吉 別に何も僕が始めたわけではないので何も言えないのですが、自分が大学院を出てそのままフワッと今来ているのですが、自分が挑戦しているのは、先ほど齋藤さんの表にあったようなデベロッパーみたいな「大きな世界」とデザイン事務所みたいな「小さな世界」をどうブリッジするのかということです。
僕はやはり、今クラウドや高度な演算技術が個人や小さな事務所でも手に入れられるようになって、それがさらにお客さんとつながることができて、自分で提案・実現できるようになっているところがやはりおもしろいなと思っています。
野城 可能性ですね。
秋吉 つまり、さっきの表の左の、これまで大きな世界だけが持っていたものが、右の小さいところでもできる、ということがおもしろいなと思って。
自らデザイナーでもありつつ、起業家をやっているのは、右から左に越境していくためです。今までであれば、例えば住宅生産していたときは、どこかの工場がマスで出していたものに対して、自分が作ったデザインを、1から100ぐらいの中ロットで作品が流通できるようになるのではないかということです。
やはり重要だと思ったことは、いまの世界は規模がでかくなりすぎて近傍を見失っているので、それをできる限り身近に寄せていくために、まずは生産地を地域にもう1回結びつけることから入り、その後、垂直統合のソフトウェアを構築するという流れです。
野城 やり方としてはデジタルという武器を使われているし、デジタルということは、アメリカだと日本で言うと組織事務所やアトリエといった大きなところが、0→1までではなくて1から99までをデジタルでコントラクターとして、つまり自分たち自身でプロトタイプを作るということでやっているのです。
秋吉さんたちは、本当にスタートアップで作られたというのがすごいところですよね。
藤村さん、靴を持っていらっしゃったのでそのプロトタイプがどう始まったかというお話を頂けますか。
ものづくりの失敗は、テクノロジーでカジュアルに吸収できる
藤村 アイディアはたぶん誰に対しても平等であるべきだと思いますが、それを実行に移すとなると、やはり僕も普段大きい企業の方や個人の事業主の方やいろいろな業種の方に会うのですが、端的に言うと、やはりスタートアップの企業の方のほうが圧倒的にフットワークが軽く、どう考えてもリスクに対してわりとカジュアルです。
やはり失敗ができないメンタリティはすごくあると思うのです。それがその、先ほど齋藤さんがおっしゃっていたように、インベストメントに対してのリターンがどうしても頭にチラついてしまうということです。
結構いいなと最近思っているのは、大企業の中でスタートアップのようなことをやる、要は企業があるエンジニアの方々のグループに多少の投資をしてあげて、彼らが自分の仕事をしつつも、自分たちがやりたいことを自分の会社の技術をうまく使って、何かことを興していくことが起き始めていることはすごくいいことだと思います。
それで今までというのは、やはりものを作ることに対して、デジタルだとわりとソフトさえあればできてしまうのですが、実際の試作品を作るとなるとそこにかなりお金が発生するところです。
ここにちょっと靴があるのですが、これは赤い部分が全部3Dプリントでできているのです。これは世界限定96足でUNDER ARMOUR(アンダーアーマー)さんが出したやつで20分で売り切っているのです。
このように本当にニッチなものがわりとカジュアルに作りやすくなってきている中で、作ることに対してのリスクや、これは失敗したらダメだねということがどんどん低くなっているのですが、やはりまだ心が追いついていない部分が僕はちょっと見ていて感じています。
「やっちゃえばいいのに」と思うこともすごくあるのです。
こういうものはあくまで一例にしかすぎないですが、こういうデジタルツールやもちろん3Dプリント・3DスキャナーやVRを含めたハードウェア、これは今までできなかったことができるようになるという非常に大きな魅力をはらんでいるわけです。
それをできるだけ早いうちに理解をし、うまく自分のものにして、自分のやりたいことにつなげて使ってしまうことです。
これは別にAさんが使おうがBさんが使おうが、別にツールは等しいというか、使い手次第の部分があるので、やるかやらないかでだいぶ違いが出ます。
野城 そのソール面はオリンピック選手だと全部微妙に違うのでしょう。
それのカスタムメイドもできるし、またそこの一線級にアクセスできない人もこれを使えば自分にフィットしたものがカスタムメイドできる可能性が出てくるのですよね。
藤村 そうですね。
だから先ほど齋藤さんもデータが中々集まらないとおっしゃっていたのですが、これは何か例えば大きなプラットフォームやクラウドがひとつあればデータの共有がカジュアルになります。
その集めたデータから、例えば製品の場合であれば本当先ほど先生がおっしゃったようなスポーツプレイヤーの個々の足のサイズが違う、千差万別です。
今度は逆に様々な形に落としていく、真のカスタマイズも今度は求められます。要するに1回集めたものが今度はまたバリエーションが増えていくわけですよね。
これももっとやりやすくなってきているので、1つの企業が例えば10万足作って「売れるかな?売れないかな?」「売れなそうだな。やめよう」ということではダメなのですね。
だから失敗ありきで、例えば事業者が社員に対して「やってみなよ」とちょっと投げてみるような、企業が大きくなればなるほどそういう社員に対して失敗してもいい予算を大きさにもよりますが本当につけてほしいなと思っています。