人類は進化するツールを使いこなせるのか? デジタルツールと人間の良好な関係

#BuildingTech 6/7

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「デジタル時代のものづくり」と題して行われたセッション(全7回)の6回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 秋吉 浩気氏:VUILD 代表取締役CEO
  • 藤村 祐爾氏:オートデスク Fusion 360 エヴァンジェリスト
  • 齋藤 精一氏:Rhizomatiks Creative Director / Technical Director
  • 野城 智也氏:東京大学生産技術研究所 教授 /モデレータ

技術と技術を繋いで価値提供することに、ビジネスチャンスがある

野城 齋藤さん、今までの議論についていかがですか。

齋藤 いや、まさにおっしゃっている通りです。

今言っていた日本の企業が失敗するクセを作るというのは、たぶん絶対的に足りないなと思っています。

失敗しないために1年ぐらい議論しているのです。「だったらもう1ヶ月目でやればいいのに」と思うではないですか。1年間いい大人が20人ぐらい集まって会議をしているのです。というのを僕はすごく思っているのです。

もうひとつ僕はものづくりに関しては、こういうようなワンオフ(編注:オーダーメードのこと。One Off)で作れるものが増えているのですが、ぶっちゃけこの靴だと重すぎてダメではないですか。

だから結局ワンオフでプリントできるもしくはNC(機械)でも先ほどのようにくり抜きや製作ができますが、結局その3Dプリンターであればこのまま製品化するのはぶっちゃけ厳しいところもまだあるではないですか。

例えばアムステルダムの橋は、僕もアルス・エレクトロニカ(編注:オーストリアのリンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典で、メディアアートに関する世界的なイベント)内で開催されるPRIXというコンペイベントの審査員として今年見させてもらったのです。

あれも相当苦労して強度計算はどうなのか・建築基準法的にいいのか、とりあえず作ってみようとバーンと作って、それからバックキャストで強度計算を入れたという話を聞いたのですが、何かまだ足りないものがあります。

例えばこういうものがあればもっと、例えば今秋吉さんが作られている棚が量販店で買うものまではいかないですが、それと比べてもこれぐらいの投資をして、例えば20,000円であれば買いたいと思えるもの、もしくは10,000円で買えるものというのもそうです。

あとは結局3Dプリンターは、意地悪な言い方をすると最近いろいろなところに入っていますが、全然稼働していないですよね。結局、人々が使い方がわからないからです。

だからデジタルトランスフォーメーションも確かにそうだと思いますが、「それでいったい何が作れるのか」がわからないのです。

それは道具なのか素材なのか、たぶん欠如があると思うのですが、どう思われますか。

秋吉 僕が答えてもいいですか。

3Dプリンティングを扱うラボラトリーの立ち上げを大学院を卒業したあと1年目にやっていたのですが、なかなか利用者に使われなかったです。

今僕らが相手にしている人たちは、林業の超川上の人なので、デジタルのデの字もわからない人たちが結構使いこなしているのです。

それは何故と言うと、木材に付加価値をつけたいという目的が明確だからです。そして、木をどう使うか、およびそれを最後どうやってフィニッシングするのかにやはり長けているので、その配合技で、一見あまりデジタルでやっているかわからないのですが、ちゃんと製品として出すにはどうしたらいいかというのは、逆に僕らはあまりわからないのですが、彼らは考えています。

総じて言えるのは最近、先ほどの左と右の図で言うと、ありがたいことにいろいろな大企業の新規事業部の方といろいろコラボレーションさせて頂くのですが、間をつなぐためには何をしたいのかというVISIONとその具体的プロジェクトがあると集まりやすいなと思っています。

例えば、僕らは、自律分散型の地域生産のプラットフォームを作ることを目指していますが、出資して頂いたLIFULLさんの場合は、地方のいろいろな物件の有効利用の観点でシナジーがあり、更にはそれを有効利用できる大量のデータリソースががあるわけだと思います。

そういうものとバンドルしてどういうことができるか、例えば先ほどのサロンの話もしくは空間の話で言うと、照明や商材のように、実際にプリンティングで木だと作れないものがほとんどではないですか。

木や樹脂は、ただの蛇口をひねった水と同じ話だと思います。それに何を混ぜるのかは、やはり大量生産・マスの中でないと提供できない方法もあると思っています。

そういうものとどうやって組み合わせるかという、ひとつのプロジェクトに対して、今までプロダクトだけで工業メーカーが出してきたものが、OS的な部分でそれに対して「こいつはつけられるから一緒にやりましょう」という形でお声がけ頂くことが多いのはおもしろいなと思っています。

ただそれは、しかもその新規事業の中でもかなりいろいろやられているのですが、やはり彼らが持っている技術がどこでどうやって社会に接続するのかというところは難しい部分もあるようです。

その部分を何かつなげるという意味では、デザイン的な広い思考とスタートアップ的なビジネスと新規事業を、具体的な技術を持ってどうやって実装するのかというところがある程度わかるので、その部分は「これをつなげればいけるな」というところが、この辺の人たちがスタートアップというか、こちらのビジネス領域に入ってくることで見えてくる領域だと思っています。

スタートアップと大企業という話はよく話されるのですが、やはりスタートアップにも、こういう文化や歴史といった普段事業性の中で議論されないような、広い視点の中でどうやってそこをつなげられるのかというのが、こちら側のデザイナー・アーキテクト側の職能のすごい可能性だと思っています。

なのでこちら側の人が、そちらに出なければいけないなというのを思いました。

野城 僕たちもお手伝いしているのですが、その左と右の黒くなっている部分と結ぶような場が必要です。

日本の場合、誰かが仕切るのではなくて、その場があってそこで今のようなプロジェクトが起き上がってくる場を作っていくことで当たる確率を増やしていくことが大事です。

それとあとよく、TreeとBeeという言い方をしていて、Treeは大企業で大木で、Beeはミツバチなので英語の語呂合わせですが、イノベーションにはTreeとBeeの両方が必要です。

つまり大木ばかりであれば、みんな先ほど言ったように2年経っても稟議を回しているだけになってしまうし、やはり必ずその変化を生むBeeの人たちがいないと動いていかないです。

右脳派と左脳派は対立するな、アーキテクトは胡座をかくな

齋藤 いや、本当にまさにその通りです。大企業さんはそれをやろうと思っても、たぶんもうできなくなってしまっているのです。

僕がいろいろ企業さんの事情もわかった上で話すと、やはり部署同士もしくはグループ会社同士横の横断は基本的には難しそうなのです。

見ていて生産部門、要は「事業部はこうやりたい」「マーケはこうやりたい」なのですが、先行開発の「経営企画部はこう思っている」ということが、これはリアルな話でそうなっています。

それでは東吉野に行って吉野の杉を使って何とかやろうということをやろうとしても、「いやいや、それは投資的にどうなの?」という話にどうしてもなってしまうのです。

僕は先ほど秋吉さんがおっしゃっていた両方とも学ぶべきで、大企業の右脳系の人と左脳系の人たちが、左脳は右脳の勉強をしたほうがいいし、右脳は左脳の勉強をしたほうが良いのです。

僕はデザイナー・アーキテクトが少数で頑張っていて煽られているかと言うと、でも彼らは彼らでやはりあぐら商売のところもあるではないですか。僕もかつてそうだったのです。

それではなぜこれができないのか、なぜ我々の提案を食ってくれないのかというのを、僕たちはこれを文化度が上がるからということを、たぶん少なからず濃度を濃く入れていろいろなところに提案していたので、うちのビジネスがうまく行っていないですが、それはちょっと置いておきます。

ただそういうことをやっていたのに食ってくれない理由は、向こうさんにも事情があるし、それでやはり向こうの経営のアジェンダに入れていく、ポートフォリオに入れていくことをどう作っていくかというところ、どう論破するかというのも、僕はデザイナーもやはりだいぶ勉強しなければいけないと思います。

ものづくりの民主化は、価値づけに余白を生み出す

野城 そうですね、おっしゃる通りです。

藤村さんも齋藤さんもアメリカにいらっしゃったから、いろいろな形でアメリカの大きな変化をご紹介頂きたいのですが、秋吉さんたちがやっているようなのはアーキテクチャルファームと言っていて、会社によってはむしろ0から99を自分たちで作って最終工程に渡すというように、むしろ自分たちの職域を変えています。

つまりこの大きな、先ほど書いたもので言うと右側から黒いところにある程度コミットすることによって、そういう可能性もあるし、「そうしなければバラバラで何も起きないよね」という意識を持っている事務所が大小たくさん出てきている感じがしているのです。

だから日本でもぜひ、秋吉さんたちからすると商売敵になるかもしれませんが、ここに手をつけるいろいろな人たちがもっとたくさん出てくると素晴らしいなと私は思うのですがどうでしょうか。

秋吉 それこそ今東大の学生さんたちも含めて、結構建築やデザインアーキテクト系の20歳、21歳の子たちが起業し始めているのがおもしろいなと思っています。

その辺の動きにはかなり期待というか、負けていられないなと思っています。

齋藤 そういうプラットフォームを作ろうと、AUTODESKさんというか個人でもいいですが、何かを作るためにいろいろなプラットフォームを作られているではないですか。

あとはAUTODESKがいろいろなサービス、クラウドサービスも始めたし、ライセンスもできるだけ安くいろいろな人に届くようになったしということで、要はどちらかと言うとインフラに流れていくのは御社がやっているサービスだと思っています。

何かそういうところで今までの話で、何かお感じになっていることはありますか。

藤村 弊社はデジタルツールという、今日のテーマにかなり深く関わっている会社です。

ひとつ私たちが取り組んでいるのが、要は今までソフトとしていろいろなデジタルツールを販売してきて、中には(販売価格が)1,000万、2,000万するものもあるわけです。

例えばスタートアップの人が「こういうことがやりたい」といったときに、2,000万だとそこで夢が潰えてしまうわけです。

それから例えば若い世代、それこそ小学生でも最近は聞いたらみんながiPadでyoutube見ているというデジタルネイティブな子たちが出てくる中で、できるだけ多くの人にデジタルツールに触れてもらうこと自体を増やすことによって、その場が活性化しデジタルツールを使ってみんながやりたいことの可能性を広げることを応援しないと、ある意味自分たちのビジネスにも返ってこないです。

だから安くするというのはよく聞かれる、場合によってはタダのソフトも一杯AUTODESKにはあるのです。

タダだから安かろうと思われる方もいらっしゃるのですが、結構すごくいろいろなことができるソフトがタダだったりするのです。それを使ってものすごいいろいろおもしろいものが今生まれています。

そういった場をソフトウェアさん・技術屋さん・テクノロジー屋さんとして提供できているのは一社員としてはすごくうれしいと思いますし、今後もぜひ続けていって頂きたいと思います。

ジレンマとしては、AUTODESKはソフトウェアの会社なのです。それでハードウェアの部分に対して、そういった部分が増えてくると例えば若い子がタダのツールでものを作りタダで出力する。これは学校ではいいのです。

ものを作るという行為がもっと身近になったり、今ここでは二分化されていますが、こういうことを考えることをやりたいという子たちと左側のことをやりたいという子たちが、若いうちから一緒にコラボレーションして、別々の視点でものを生み出してみたりするということです。

ものと言うと短絡的で、僕はどちらかと言うと価値を生み出すことにすごくフォーカスして頂きたいのです。

先ほど「この靴が重いから現実的にはどうなの?」という話もあったと思いますが、最近言われているのはカスタマイゼーションの部分です。

例えばどこかしらに自分がデザインした部分が入っていることが価値になって、「だったらもう1,000円高くてもいいや」「だったらちょっと重くてもいいや」という、要は価値を個々が決められる余白を残しておくことができるものづくりになってきているので、そこは僕はすごく期待している部分です。

野城 もうひとつあれですよね、先ほど齋藤さんの話の中ででた、ジンズのメガネを作っている稲見昌彦先生とそれが結びつくとそうですね。

スポーツ選手があのメガネをつけていくと自分の動きが自分で見られるから、そのフィードバックが得られる。スポーツアナリティクスによって、自分にとって居心地のいい靴が結びつくダイナミズムが生まれる可能性がありますよね。

齋藤 僕は重いのが一概に悪いと思っていなくて、例えば義足を作るときに重心設計もあるではないですか。

だから今の特性と3Dプリンターで出せる素材の限界をたぶん両方から考えないと全部が一貫してデザインができないということです。というのが、僕はすごく思います。

藤村 たぶんそういった手計算でできなかったようなことが、デジタルツールがまさに得意に解決してくれる部分だったり、例えばすごい量の膨大なデータを分析してくれたり。

今後はこういったデジタルな世界が人間に対して「まとめておきました」といった部分や「こんなことが考えられますよ」という提案をしてくるようになってくると、もっといろいろなことが動きやすくなる・起こしやすくなります。

先ほどリスクという話がありましたが、ちょっとあまり言い過ぎるとあれですが、例えばお墨付きのようなものが、ありとあらゆるデータを集合した結果「これだったらほぼ間違いないです」といったものがあると、日本人の国民性かもしれませんが、ちょっと安心感というか「じゃあやってみようか」という一歩が踏み出せるのではないかなと思ってます。

野城 今のアシュアをする人(納得して一歩が踏み出せる人)は、その真ん中ですかね。みんな怖くてその真ん中でアシュアする人がいないのです。

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